縁結びの神様篇

処理済の書状にハンコを押し終わり、片付けている時だった。
棚に無造作に放り込まれていた巻物の束を落としてしまった。
「わ、大変」
床に散らばったたくさんの巻物。
紐が解けて、中の絵が見えてしまった。
美しい女性の全身画だった。
他のも、別の人物のようだが同様に女性画のようだ。
天化の知り合いだろうか?
私的なものだろうから、覗いてはいけないと分かっているのだが……思わず、まじまじと眺めてしまう。
いずれも美人ぞろいだ。
「気に入ったのでもいたか?」
「わあ!」
突然背後から声をかけられて、飛び上がりそうになる。
「ご、ご、ごめん! 勝手に見ちゃって……」
「別に構わねぇよ。なんなら紹介するぜ?」
「へ、紹介? やっぱり天化の知り合いなのか?」
「いや、ただの見合い画」
「そう、見合い……」
さらっと言い放たれた言葉に、書画を片付けていた手が止まる。
「えええ!?」
「んだよ」
「お見合いって……天化が!?」
「他に誰がいるんだ」
「だ、だって……」
「周一の豪族、鎬京の副司令、まだ一人身となれば、少しでも見込みのある家なら狙ってくるに決まってるだろ。勝手に送りつけてくるだけだ。捨てるわけにもいかんから、保管はしてるが」
「すごい美人ばっかり……」
「5割くらい引いて正解だろ。絵師もバカじゃない。美人に描かないと首が危ねぇ」
「そういうもの?」
「そういうもんだ。……その辺に嬋玉も転がってるぞ」
「え!?」
本物そっくりの美人画だった。
「すごくよく描けてる。――でもなんだろう、何か違うような……」
「そりゃ、絵師が「楚々とした美人」を目指したからだろ。あいつをそっくりに描くのなら、もっと男らしくしないと」
ひどいことを言っているのだが、否定できない。
確かに、きりっとした気の強さを追加したら、完璧になりそうだ。
「嬋玉のもあるということは、先方から申し込まれてるんだ?」
「あそこの家臣の一存だな。あいつの耳に入ったら半殺しに決まってる。……こっちから申し込むことを期待して送ってきたんだろうが、無駄な努力を……」
「――こんなにたくさんあるのに、その気はないわけ?」
これだけの美人を並べられて、選り取りみどりでは……心は動かないのだろうか。
「あのな、仙人の修行に戻ろうって人間が、結婚してどうするよ」
「そりゃそうだけど……」
「お前こそ、嬋玉と白鶴はどうなんだ」
「ぼくも修行中だから、そういうのはちょっと……」
力なく笑うところが、苦労振りを物語っている。
手早く書画を片付けて、ふう、とため息をつく。
「……どうした、顔色悪いぞ」
「なんだかちょっと調子悪くて。家の中に長くいすぎたかな」
「少し頭痛がする。綺麗な空気吸えば治ると思うんだけど」
仕事をしすぎたか、都で人気に酔ったのか。
仕事だとしたら、はっきり言って天化のせいである。
「都に仙界ほどの霊場はないが……近くて多少まともなのは、裏山か。あそこは自然の霊気が溜まってる。――ついてきな」

***

「神社になってるんだね」
「縁結びに特効だとよ」
「特効……温泉みたい」
「女の願掛けが多いみたいだな。」
「絵馬に短冊にしめ縄……なんだかごちゃまぜで面白い」
「かなり間違ったやり方してるヤツもいるぜ」
大木に釘で打ちぬかれたわら人形。
「う……」
さすがに放置するわけにもいかず、わら人形を片付ける。
社は手作りのほんの小さなものだ。
自然の霊気の溜まり場を、不思議な場所と感じた人々が、祀るようになったのだろう。
ここに「神」はいないと分かっていても、なんとなく社に手を合わせる。
「……何願ったんだ?」
「『当分縁がありませんように』って」
「とんでもねぇ願掛けだな」
「天化は?」
「『天祥に早くいい相手が見つかりますよーに』」
「……跡継ぎ任せようっていうのがバレバレだけど」
「いいんだよ、どうせ期待した神頼みじゃないんだし」
「それもそうか……あ、頭痛治ったみたい。山菜摘んで帰ろーっと」
元気よく走っていくのを見送って、天化はまださっきのわら人形を手にしていたことを思い出した。
投げ捨てようとした人形をもう一度眺め、裏に名前が書いてあることに気づく。

『太公望さん』

……釘を打ったのはわざわざ霊験にあやかりにきた嬋玉だったらしい。
友人の頭痛の原因は特定できたものの、わら人形をどう処分したものか、途方にくれる副司令の姿があった。


おわり

※嬋玉さん、願掛けを間違えてます。


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