天地(あめつち)に煌く双子星


「というわけでさ、リンファとルゥにはばれなかったんだぜ」
「……練習するのに、女の子をだますような真似はしないで欲しいんだけど」
「男ならいいのか?」
「そういう問題じゃなくってさ」
目安箱の投書を読んで、王子はロイを自室に呼び出していた。
リンファからは賭け金の10万ポッチを払え、ルゥからは約束した日に何故来なかった、という苦情が王子宛に来ていたのだ。
案の定、犯人はロイだった。
影武者の練習と称して、最近よく王子の姿で城の中を歩いているらしい。
王子が外に出ている間、まだ中にいるように見せかけるという役目自体はちゃんと果たしているのだが……。
時々いたずら心を起こしてしまうのが困りどころ。
「まぁ、そう言うなって。おめーもやってみろよ。面白いぜ?」
「リオンが知ったら、なんて言うかなぁ?」
「……わ、悪かったよ!」
容姿の良く似た二人は、カツラをかぶるだけで、見分けがつかない程になる。
最近は、時々姿を交換して城の人たちをからかってみたり。
――意外なところで、「自分」に対する意見が聞けたりして、これが結構面白いのだ。
しばらくの間、どうすればもっとバレないか、という反省と打ち合わせをした後、二人して、ばたっとベッドに転がった。
「リオンは……大丈夫だよな」
「大丈夫に決まってる」
黎明の紋章の力で持ち直したものの、リオンはあれからずっと眠り続けている。
傷は治り始めているのに、意識が戻らない。
家族のように思っている王子も、少しずつ思いを寄せていたロイも、彼女の目覚めを待ち続けている。
ロイが時々羽目を外してしまうのも、つい暗くなってしまう考えを忘れたいからだと、王子も分かっていた。
「おい、どっか出かけねぇ? しばらく準備で、自由行動OKなんだろ?」
「いいよ、どこ行こうか」
「港だ、港!」
「それじゃ、スピナクス港行こうか。竜馬も見られるよ」
「……護衛なしで大丈夫か?」
「まだスピナクスでは顔を知られてないし。子供二人ならかえって疑われないんじゃなかな――もしばれても、最初に狙われるのは、今日はロイだし」
「……おめー、最近ホントに性格悪いぞ」
「ロイの前だけだから大丈夫」
「てめ、絶対コロス」
じゃれあうように、お互いぽかぽか殴りあって。
大声で笑って、暗雲を吹き飛ばす。
結局のところ、凹んだままでいるには、二人は若く元気すぎるのだった。

***

スピナクスについた二人は、散歩中の竜馬をからかいながら、港の様子を探っていた。
隣接するハーシュビル軍港は、ゴドウィン派が大勢を占める重要な拠点だ。
何か動きがあれば、こちらの港にも響くはず。
そんなことがあれば、お忍びなどと言っている場合ではない。
幸い、今日は不穏な空気は感じられなかった。
城の仲間たちや、リオンが目を覚ました時のために、何か土産でも……と露天をひやかしていた二人は、港を見下ろす場所に、一人の女性が立っていることに気が付いた。
すっきりとした異国の顔立ちが大人びて見えるが、二人と同じくらいか。
腰に下げたとても細い長剣が目を引く。
振り返った彼女が、ふと、二人に目を止めた。
「……ほう。その若さでその風格。さすがは尚武の国ファレナか」
可愛らしい容姿に比べて、きりりとした口調。
思わず『王子』も背筋を伸ばす。
「失礼、我が名はハヅキ。剣の道を求め、修行の旅を続けている。貴殿をひとりの武人としてお尋ねしたい」
そして、これまで何度も繰り返してきたらしい言葉を二人にかけた。
「ベルクートと名乗る剣士をご存知ないだろうか?」
こんなところで、その名が出るとは思わなかった。
一瞬、二人は顔を見合わせ――『王子』が答えた。
「知ってるけど」
(ちょっとロイ! 誰だか分からない相手に、何勝手に答えてるんだ!)
(黙ってろって。知り合いらしいぜ? あいつ、昔のことってあんまり話さないんだろ? 聞きだせる絶好の機会だ!)
(そ、それはそうなんだけど……)
少女の表情はほとんど変わらなかったが、間違いなく喜びに輝いていた。
「そうか。やはりな……いや、それ以上は結構。ファレナにいるとわかったからには自力で探し出してみせる!」
どういうことなのか尋ねようとしたが、軽く拒否されてしまった。
だめだこりゃ、と彼女から離れたものの、ロイはめちゃくちゃ楽しそうに笑った。
「面白くなってきたぁ! 昔の女か? 捨ててきたのが、追いかけてきたのか!?」
「ベルクートはそんなことしないよっ!」
「さっそく本人呼んでこようぜ!」
「ロイ、人の話を聞けーーっ!」
紋章の輝きを残して、二人の姿が港から消えた。

***

目的の剣士は、いつもの宿屋のある円堂のテラスにいた。
『王子』が駆け寄り、用件を告げる。
「これからスピナクス港に行くんだけど」
この姿をしている時は、自分は王子だ。
リオン以外にはばれないという自信がある。
伊達に、口調や態度を研究しているわけではない。
「お供いたします」
普段と変わらぬ静かな返事。今日は何故か楽しそうな微笑まで加わったように見えた。
後ろで、『ロイ』は複雑な思いでそれを眺めていた。
あの顔を向けられるのは自分だけのはずなのに。
姿を取り替えているのだから、それは自業自得。
分かってはいるのだが……。
「さてと、あとは」
『王子』はすたすたと宿屋に入っていく。
あわてて追いかけた『ロイ』が驚いている間に、『王子』は棚を片付けていたマリノに声をかけていた。
「マリノ、ちょっと出られる?」
「お手伝いですか? ……ベルクートさんも行くんですね、行きます行きます!」
いつも元気な声が、さらに跳ね上がる。
お出かけお出かけとうきうきしている彼女を見ながら、あわてて王子はロイを小突いた。
(ちょ、ロイ、なんでマリノにまで声かけてるのさ!)
(ふっふっふ、元カノが出たら、やっぱ今カノとぶつけるっきゃねえだろ?)
(今……!?)
(自称だろうが、かまうもんか。うひひ、修羅場だ修羅場だぁっ)
(ロイ〜っ!)
だめだ、完全に楽しんでる。
ただの護衛だと思っているベルクートと、久しぶりに連れ添っての外出と素直に喜んでいるマリノ。
その両方に心の中で合掌し、王子はこれからの嵐を想像してちょっと顔をひきつらせていた。

***

気が付いたのは、彼女の方が先だった。
「ベルクート!?」
「ハヅキさん……」
やはり顔見知りだったようだ。
しかし。
いきなり少女は、剣をすらりと引き抜いた。
「そちらから現れるとは好都合! 抜け、いま一度勝負しろ!!」
「まだそんなことを……」
どうやら、彼女の目的はベルクートとの剣の対戦だったらしい。
突然の再会にはさすがに少し驚いていたものの、ベルクートはすでに平静を取り戻している。
ハヅキが挑発するが、まったく動じない。
「……お断りします。私の剣は王子殿下に捧げました。私闘を受けるわけにはいきません」
先ほどの少年がファレナの王子であることを知って一瞬目を見張ったが、ハヅキにとって大事なのはやはり目の前の男との勝負であるらしい。
とうとう、『王子』に向かって、「ベルクートに私を討てと命じてくれ」とまで言いだしてしまった。
面白がって命じてしまいそうな気配に、『ロイ』はこっそり『王子』の足を踏みつける。
「そういうことではないんですよ」
ベルクートは変わらぬ口調でハヅキを説得する。
「私は臣下になったわけではないし、殿下の命令で戦っているのでもない。ただ、私が自分で殿下のために剣を振るおうと決めた。それだけのことなんです」
あくまで自分の意志で戦っているのだと。
たとえ王子に命じられたとしても、自分の意に添わぬ戦いをすることはない、と。
黙って聞いていたハヅキは、分かったような分からないような、不満な顔をしている。
とりあえず、何を言ってもベルクートが剣を抜きそうにない、ということは理解したようだ。
しばらく考えて、剣を収め、王子に向き直った。
「……わかった。では私も殿下の陣営に加えていただこう」
「えっ?」
「四六時中、目の届くところで監視させてもらうぞ」
ふふん、どうだ! と言わんばかりの宣言にベルクートは返す言葉がない。
「ちょっと! 勝手なこと言わないでよ!」
成り行きを呆然と眺めていたマリノが、ようやく我に返って叫んだ。
(おおっと〜、ここで自称今カノの登場だ〜っ!!)
カンカンカン、とゴングを鳴らす真似をする『王子』を『ロイ』が蹴り飛ばす。
「あんたなんかにつきまとわれたら、ベルクートさんだって迷惑だわっ!」
(ぼくだって迷惑だっ!)
突然のマリノの剣幕に、戦いになるのを心配したのだろう、と判断したベルクートがなだめる。
「大丈夫ですよ、マリノさん。ハヅキさんは戦う意思のないものに剣を向けるような人ではありません」
「そ、そういうことじゃなくって……」
(そういう問題じゃないんだよ〜!)
「?」
まったく分かってない、約一名。
「も、もう知らないっ」
(ベルクートのばかーっ)
口をパクパクさせていた王子を、ロイがあきれて拳で小突く。
(おめー、マリノとシンクロしすぎ)
マリノと王子がわたわたしている間に、ハヅキは勝手に話を進めていた。
「陣営に加えていただけるか?」
「まぁ、いいけど」
「おお、ありがたい!」
(ロイ〜っ!)
(だって面白そうじゃん? 連れてかないと、昔話聞けないぜ?)
(それはそうなんだけど――)
ちょっと過去に興味を持ったばっかりに、なんだかややこしいことになってしまった。
ため息をついていると、いつのまにか、ベルクートが隣に来ていた。
ハヅキとの言い合いは、マリノに任せることにしたらしい。
恐る恐る、気になったことを聞いてみた。
「あの……家臣になったわけじゃないって――」
「私は、私自身の意思で戦っています。たとえファレナのためであると言われても、理不尽であると感じれば、従いません。その代わり、正しいと判断すれば、たとえ王家に弓引くことになろうとも、殿下のためにこの剣を振るいましょう」
またこの人は、こういう殺し文句をあっさりと言ってくれる。
頬の辺りまで、急に熱があがったのが自分でも分かった。
しばらく余韻でくらくらした後、ようやく気づく。
「あ……あれ? もしかして、ぼくがぼくだって分かってる?」
「もちろんです。私が殿下とロイ君を見間違えるとお思いですか」
また、さらっと殺し文句が来た。
こう立て続けられると、完全に白旗だ。
わざと言っているのではないかと疑いたくなってくる。
「……ご気分でも?」
「気分はいいんだけど……ちょっと――」
のぼせた。
頭に血が上って立ってられない。
ぽてっと倒れれば、当然前に立っている人の腕の中に収まるわけで。
――さらに病状悪化。
「ベルクートは、あの茶色頭と仲がいいのか」
「なっ、ちょっと、なんでロイ君が!?」
(うわ、嫌な誤解キターっ!)
ロイは慌てて駆け寄り、小声で喚いた。
(俺の格好でへばりついてんじゃねーよ、アホ!)
(ご、ごめ、眩暈が……)
本気で目を回しているのを見て、ロイは頭を抱えた。
「すごい熱じゃないですか!」
王子の額に手を当てたベルクートが愕然とする。
「城に帰りましょう。なんでこんな体調で出歩くんです」
止める間もなく、ひょいと抱え上げてしまった。
(いや具合が悪くなったのはたった今であってあんたがそんなことしたら余計熱上がるから……)
なにか色々と手遅れのような気がする。
まぁ、原因は自分だったりするのだが。
混乱状態にある場では、状況を把握できたり、一人冷静だったりすると損だ。
つくづく思い知ったロイであった。

***

……王子が倒れたなんて聞いたら、リオンが意識不明のまま飛び起きてしまいそうだ。
医務室にはいかず、王子の部屋に運んでもらった。
マリノは、ベルクートからハヅキに城の案内をするよう頼まれてしまい、なんとも言いようのない顔のまま、よろよろと去っていった。
明日は城中で面白い話が聞けるかもしれない。
とりあえず、一息。
「本当に大丈夫ですか?」
「ただの日射病だって。カツラって結構熱がこもるからさ、うだっちゃったんだろ」
……ということにしておこう、面倒だから。
「休んで、冷やしときゃすぐ治るって。――というわけで、悪いんだけど、水汲んできてくんない?」
つーか、あんたがいると、下がる熱も下がらない。
「分かりました」
去ろうとする背を、ちょっと待ってと、王子が引きとめた。
「今日はいつから気づいてた?」
「ロイ君との交代のことですか? 最初からですが」
ロイが驚く。
護衛を頼んだ時の返事と態度が『王子』に向けられたものだったので、ばれているとは思わなかった。
あのイカサマが得意なリンファでさえも誤魔化せたのに、何故この鈍いと評判の兄ちゃんに分かるのだ。
信じられん、と睨んでいると、ベルクートはあっさり種明かしをした。
「本物とカツラでは、重さが違うんでしょう。走る時、殿下の髪は上下に跳ねますが、ロイ君の場合は左右に揺れるんですよ」
円堂のテラスに駆け寄った時には、すでに分かっていたということか。
意外な見分け方にちょっと感心していると、ベルクートはついでのように続けた。
「それに……殿下とロイ君では私を見る目が、全然違いますし」
それでは、と笑顔を残して扉が閉まる。
たっぷり沈黙した後で、ロイが盛大にため息をついた。
「……で、なんで違うのか、までは考えないわけだ、あの兄ちゃんは」
ベッドから返事はない。
ようやく熱が下がってきたのに、また予想外のところでクリティカルを食らった王子は、枕に顔をうずめたまま戦闘不能に陥っていた。





----------------------------------------------------------------------

ロイがリオンにばれるのも、同じ理由なわけです(笑)。

小話を書く時には、ゲーム内のイベントは入れないようにしていたのですが、今回は丸ごとハヅキさんの一幕を入れてみました。
シナリオほぼそのままなんですけど、実は王子が違ったということでw
ロイ君メインですから、文章も軽くかっとばした感じにしてみました(つもりなんですが、いかがでしょ)。

マリノさん連れて行くと面白いですよね。
ヤシュナ村まで二人旅とか、二人で暮らせるくらいは〜とか、散々公認カップルかと思わせておいて、完全にマリノさんの一方通行だったことをプレイヤーに思い知らせるイベント(にしか見えない)。
それでいいのか、と大笑いしましたっけ。

ロイは、本音で話せる貴重な友人だと思います。
王子は、個人的にはリオンとのことを応援中。
でもフェイレンのことも知っているのでちょっと複雑かも。

本当は、ハヅキさんが入るところでは、どうしてもミアキスさんが着いてきます。
小話だと人数がうるさくなってしまうので、お留守番してもらいました。
ご容赦くださいまし。



TOP小説