最期の瞬間(とき)まで、きっと何より大切な 弐
「ダイン殿、リヒャルト君。無事でよかった」
「ドラートも奪回できたようですね」
「間に合ったとは、とても言えない状況でしたが……」
城の奪回後、ルクレティアはただちに部隊を二手に分け、アーメスとゴドウィンの軍勢を追撃させた。
その指示は的確で、彼らをそれらの街から追い出すことは、それほど難しいことではなかった。
しかし、ドラートはすでにキルデリクの無法に蹂躙された後だった。
あの町が立ち直るには、長い時が必要だろう。
「こちらも――戦闘自体はたいしたことはなかったのですが、どうにも後味の悪い結末となりました」
ダインが、訥々とセーブルでの一件を話した。
アーメスの軍勢を国境まで首尾よく追い返したが、その際、主力部隊を率いるマハは保身のために、部下をわざと残したのだと。
しかも、彼らが追ってこられぬよう、道をふさいでまで。
主に裏切られたと知った時のジダンの表情は、哀れでさえあった――。
「ジダンって人は、マハって人を好きじゃなかったんだねぇ」
「そうですね」
肩をすくめたリヒャルトに、ベルクートがうなずく。
……二人の言葉に、周りの者たちが目を丸くする。
その様子に、リヒャルトが首をかしげた。
「なんかおかしいこと言った?」
不思議そうな顔をしている二人に、王子が戸惑った顔で尋ねる。
「裏切って、捨て駒にしたんだよ? 好き嫌いって問題じゃない気がするけど……」
「味方であるからこそ、恨んだり憎んだりするところでは――?」
ダインも、二人の考えを掴みきれずにいる。
リヒャルトが笑った。
「だって、そこまで切羽詰ってたんでしょ? ぼくを置いていくだけでミューラーさんが助かるなら、嬉しいけどなぁ」
「私も、ふさがれた道を見たら、これで皆さんが無事なんだと安心してしまうかもしれません。……残されたのが自分一人であれば、ですが」
「ああ。そういう風に言われると、ちょっと分かる気がするなぁ」
実際、太陽宮で王子を逃がすために身を張ったカイルが、なるほどーと呟いた。
「要は、逃げる側が見捨てる気満々かどうかが問題ということですか」
ダインもようやく理解してうなずく。
しかし、納得どころか、かんかんに怒って王子が叫んだ。
「ぼくは置いていったりしない!」
「殿下がそういう方ですから」
ベルクートの言葉に、一同がうなずく。
「こりゃ、誰かに連れてってもらうしかありませんねー」
「面倒だから、最初から縛り上げて、馬車に積んじまえ」
「道をふさぐ必要はないぞ。こちらでやっておくからな」
カイルとロイ、ゲオルグにまでニヤニヤしながら言われて、王子はますます激昂する。
「ちょっと! 見捨てられる時の相談なんかしないでよっ!!」
王子が喚けば喚くほど、周りは面白がって、どうやって逃がすかで盛り上がる。
確かに、アーメスの主従とは、考え方からして違っているのだった。
王子の下に集まった者は、迷わずその無事を願って先に進ませるだろう。
だが、それは諸刃の剣だ。
人を犠牲にしたと知れば、この優しい少年がどれほど傷つくことか。
だからこそ、そんな「いざという時」がないことを祈る。
「なーに、むさ苦しいツラ並べてやがる」
「うちのバカがまた何か迷惑かけてるんじゃないだろうな」
湖のほとりの集まりに、リンドブルムの二人が顔を出した。
「あっ、ミューラーさーん!!」
リヒャルトが、背の高い男に抱きつ……こうとし、直前で殴られてふっとんだ。
彼の反射神経ならいくらでも避けられるだろうに、あえて殴られるのも彼なりの愛情表現――なのだろうか。
すぐにむくっと起き上がるところをみると、それなりにダメージを受けないコツを心得ているのか、それとも、そうとは見えないがミューラーが少しは手加減しているのか。
「リヒャルトってほんとにミューラーのこと、好きだよね。……世界全部を100としたら、どれくらい好き?」
「えー……99.9くらい?」
こまかっ。
「の、残り0.1がヴィルヘルムかな?」
「んーとね、0.07がヴィルヘルムさんで、王子様とベルクートさんが0.01ずつ」
すくなっ!
しかし、リンドブルムの部外者から名前が出ただけ、リヒャルト的にはものすごく特別扱いであるらしい。
「あとの0.01で、知ってる人、みんな平等に。ほら、ぼくって博愛主義者だから」
――ずいぶんと、分ける愛の少ない博愛主義がいたものだ。
「あー、でもやっぱり100全部ミューラーさんかも……」
「死ね」
振り下ろされる金棒。
「……邪魔したな」
あれでも本人は幸せなのかもしれない。
ずるずると引きずって行かれる少年を見送りながら、全員がそう思ったのだった。
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Vには、溺愛っぷりを見せつけてくれる人が何人もいますが、なかでも強烈なのがリヒャルト君。
腐女子狙いすぎのサービスキャラかと思いきや、理由が分かると逆に切なくなります。
(しかもその理由が、リヒャルト戦死時にしか明かされないのが、またニクい)
いざという時、リヒャルト君は笑顔でミューラーさんを逃がそうとするんでしょう。
でもきっと、味方の部隊を逃がし終わってから、罵倒しながらミューラーさんは助けに戻ってくれるに違いない。
ベルクートさんを旅団に入れようとしたのは、「同じ所属なら闘わなくて済みそうだから」。
彼なりの、最大の敬意。
でも、「勝ったら褒めてくれるかなぁ」が頭に残っていて、対戦する機会を虎視眈々と狙っていたり。
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