紺碧に棲まう神の託宣 弐


王子が騎士長代理に就任してから、半年。

ストームフィストの元闘技場の近くにある食堂。
新兵たちの訓練後は、大抵ここで夕食となる。
今日はその中に、月に一度現れる顔が混ざっていた。
「まだ女王騎士になってくれない?」
「殿下。何度も申し上げておりますが、私を加えると、まだ騎士長の座を狙っていると邪推する者が……」
貴族がおとなしくなったとは言え、彼らが口を出すきっかけになるような隙を、ほんの少しでも与えてはいけない。
断りつづけている理由はいくつかあったが、女王陛下や騎士長代理に迷惑をかけるようなことだけは、なんとしても避けたい。
「そんなことばかり言って、ベルクートったら、全然ソルファレナに来てくれないし!」
「新兵教練の教官ごときが、王宮をお訪ねするのは不自然ですから――」
「あのね」
大きくため息をついて、王子が言った。
「騎士長代理が毎月、地方の新兵教官に会いに行くのと、どっちが不自然だと思う?」
「……」
まさか、こんなにちょくちょく顔を出されるとは夢にも思っていなかった。とは本人には言えない。
手にしていた杯をぐいーーっと一気に空けて、王子は言った。
「いいかげん、待ちくたびれたから。僕もリムも、覚悟を決めることにしました!」
急に食堂全体に聞こえるよう、声を大きくしたので、生徒である新兵たちがざわめく。
教官を女王騎士に誘うのを、あきらめるということか?
ベルクートがストームフィストに残ってくれるのは嬉しいが、自分たちの教官が、女王騎士長が自ら誘いにくるほどの人間であることを誇りにも思っていた。
……あまり待たせすぎたので、女王騎士への道を閉ざされてしまうのだろうか?
不安気な新兵たちの視線を集めたまま、王子が宣言する。
「というわけで。――ベルクートは今月をもって、教官を退任! 太陽宮に来てもらいます!」

逆だった――!

「ででで、殿下ーっ!?」
「新兵訓練の区切りは半年でしょ? ベルクートのことだから、自分の代理になる人は決めてあるよね?」
「そ、それは、そうですが……」
「僕は半年待ったよ。――今、思い切らなかったら、今度はいつになるのさ!?」
がつ、と襟首を掴みあげられて、声もない。
生徒たちの、「殿下、横暴〜」というブーイングに、きっと振り返る。
「君たちは次の修業過程に移ったら、どのみちベルクートとは離れるんだ。彼の隣に立ちたかったら――さっさと卒業して、ソルファレナにきなさいっ!」

何気に女王騎士を目指せと言い切った!
新兵たちが、わっと盛り上がる。

ベルクートはふと、数ヶ月前に聞いた、騎士長閣下の親族の言葉を思い出していた。

『相手のためと思って身を引いたり、遠慮して逃げても、無駄だということだよ』

前女王陛下も、この勢いに負けたのだろうか?

――紺碧の守護神の予言は、まったくもって、その通りだったようだ。





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うちのベルクートさんは、王子が騎士長代理になってからも、殿下と呼んでいます。
王兄殿下だから、いいじゃないかということで。
女王騎士になったら、さすがに閣下と呼ぶでしょう。

それはともかく。
ようやく、とっつかまりました。
それでも断ろうとするベルさんに、「もう作っちゃったから」と仕立てた女王騎士服を押し付ける周到さで。

「太陽と月の内緒話」のラスト(王子の、「絶対あきらめないからね」)がようやく回収できて、すっきり('〜')
半年間の話も色々浮かんではいるのですが、完全オリジナルなので、私の頭の中だけで転がしてます。
最初に断った時、王子に泣かれてさぁ大変、暗殺者モードになったミアキス、とか。
なついてくれない新兵とか、幽世の門の生き残りの襲撃とか。
好き勝手に楽しんでます(笑)。


※弐を書いた後、BOS(あそこですv)の117を拝見して、
見事に↑の場面のようで爆笑してしまいました。
勝手にすみませんっ!







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