チーズケーキを作ろう
「ゲオルグ殿に?」
「うん。今まで皆の知らないところで助けてくれてたんだ。何かお礼をしたくって」
「ゲオルグ殿なら、やっぱチーズケーキでしょー!」
……というわけで、王子とベルクート、カイルは厨房に来ていた。
「えーと、材料はクリームチーズ、生クリーム、卵、砂糖、薄力粉、バター、レモン……チーズケーキにレモン?」
「味を調えるのと、酸化防止ですね」
「レモン、もらってくる!」
「あれ、王子?」
レツオウに声をかけて分けてもらえばいいのに、何故外へ?
仕方がないので、残りの材料を調理台に揃えて待ってみる。
しばらくすると、息せき切って、王子が戻ってきた。
「もらってきた!」
握り締めた拳を振ってみせる。
……随分と小さいような。
広げられた掌の上には、小さないくつかの粒。
「「――タネ?」」
「ゲッシュに渡せばいいかな?」
ベルクートが申し訳なさそうに進言した。
「殿下。お志は大変素晴らしいと思いますが、ケーキの完成まで数年かかるかと……」
「レモンってそんなに時間がかかるの?」
「実がなるまで、二、三年は」
「……手作りって大変なんだねぇ」
真剣に、料理って奥深い! と感心する王子に、カイルが声もなく笑いこけている。
「王子ぃ、調子はいかがですぅ?」
「王子さん、何やってんだ?」
「ゲオルグのおっちゃんにあげるのか! おれも手伝う!」
「おいらもおいらも」
ミアキスとロイ、そしてトーマとマルーンが、わらわらと入ってきた。
人数的には、一見心強い援軍であるのだが……。
「小麦粉ってこれ?」
「なんだか粘土みたいになったな」
「あら、砂糖と玉子、混ぜたら固まっちゃいました」
「ミアキスねーちゃん、それじゃセメントだ」
「なあ、このまっすぐな棒、かじっていいかい?」
好き勝手に謎の物質を作り出していく恐るべき子供たちの間で、ベルクートは軌道修正すべく努力している。
「いやー、これは出来上がりが楽しみだなぁ」
カイルは、無責任に笑いながら眺めていた。
***
数時間後。
地下のレストランに呼び出されたゲオルグは、王子たちが自分のために作ってくれたというチーズケーキを前にして、感動を味わっていた。
見かけは少々不恰好だが。
そこがまた、手作り然としていて良いではないか。
「――美味い……!」
正直、味は期待していなかった。
だが、これなら店に並んでいても遜色はない。
黙々と口に運ぶゲオルグに、子供たちは大喜びだ。
1ホールをあっという間に片付け、隻眼の勇士は尋ねた。
「ところでお前たち、具体的に何をしたんだ?」
その問いに、彼らは得意満面で答える。
「小麦粉ふるったよ」
「卵混ぜましたぁ」
「皿を用意したぜ」
「オーブンに入れたっ!」
「おいらが切ったんだ」
「味見しましたー」
なんだ、そのピンポイントな手伝い方は。
最後のは、手伝いにすらなっていない。
自分たちが作ったのだと胸を張る様子は、微笑ましいと言えば微笑ましいのだが。
正しい材料を揃え、味を調えたのは、一番後ろで何も言わない者なのだろう。
彼らの机には、一緒に作ったらしいチーズケーキやクッキー、謎の物体が並べられ、お茶会が始まっている。
空になった皿を片付けているベルクートを手招きし、ゲオルグがこっそり囁いた。
「……ファレナが落ち着いたら、俺はまた旅に出るつもりなんだが。
――一緒に行かんか?」
「ケーキ係ですか?」
苦笑するベルクートの後ろから、聞きつけた王子がゲオルグを睨んだ。
「色んな意味で、それは却下」
ダメ出しを食らって、ゲオルグが小さく舌打ちしたのは、多分、恐らく、きっと、聞き間違いでは、ない。
おしまい
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