穢れなき聖なる乙女を待つ者


純朴なコボルト族の住む村は、森に囲まれたのどかな場所である。
人懐こく、好奇心一杯の彼らは、物珍しいものが大好きで、旅人が来るとあっという間に集まる。
今日も村の中ほどに犬だかりができていた。
その中心から声が上がった。
「あーっ、王子様とベルクートさんだ!」
「ノーマ、エっちゃん、レヴィも!」
意外な場所での再会に、若い旅人たちは大喜びだ。
「いっけない、ごめんね、今は王子様じゃないんだっけ」
「いいよ、今まで通りで」
どうせ皆、好きなように呼ぶのだから。
「レヴィたちは、なんでここに?」
「うむ、この村に珍しい古文書があると聞いてな。紋章の記述でも載っているかと思ったのだが……」
「見つかったの?」
「あるにはあったが……紋章ではなく、シンダル文明に関することだった」
ということは、数日後にはシンダルおたくの何人かがこの村に現われるかもしれない。
「王子様はどうして?」
「穢れなき乙女の前にユニコーンが現われるっていうから、うっかりぼくの前に出てこないかなー、なんて」
自分で言って笑った背後で、ぼそっと呟いた者がいる。
「条件が合っていないようですが」
――さりげなくなんか言った!
「ちょ……人前でなんてこと言うのさ!?」
大慌てでぽかぽかと叩く連れに、ベルクートは真顔で答える。
「? 殿下は男性ですから乙女と言うのは」
「あ……そっち――か」
「他に何が?」
「なななななんでもなーっ!!」
「?」
相変わらずのやりとりに、取り残された面々は安心するやら、これが騎士長閣下と女王騎士かと思うと、ファレナの未来が不安になるやら。
「あれだけ慌てるってことは」
「心当たりがあるということじゃな」
「くうう」
まぁ、平和そうで何よりだ。
そろって吐かれたため息は、二人には届かない。

   ***

コボルトたちに尋ねたところ、ユニコーンはすでに伝説の域であるらしい。
ユニコーンの試練と言われる儀式も、森のそこここに隠した宝物を探し出してくる、という勇気試しになっているのだという。
そのまま帰るのも悔しいので、話のタネに森を散策することになった。
「綺麗な所だね」
「これならユニコーンが住んでても不思議じゃないかも」
「あ、宝箱みっけ」
開けてみると、首輪が入っていた。
なるほど、コボルト族にとっての宝物というわけだ。
ぱたん、とフタを閉めた彼らの前に、木々の間から白い姿が現われた。
「あっ、綺麗な馬……」
すらりとした肢体、ふさふさとした白銀のたてがみ、そして、頭には……角。
――伝説が出てきちゃった。
ユニコーンは優雅に首をめぐらし、来訪者を見渡した。
そして、静かに告げる。
「乙女よ……我と共に来るか?」
乙女、乙女……
自然とノーマに注目が集まるが、ユニコーンの視線は彼女を通り過ぎている。
「チッ?」
レヴィの持っている杖の飾り――としか見えなかった蛇が、くるり、と振り返った。
――そっち!?
「私は種族にはこだわらぬのだ」
――こだわらなさすぎ!
「チッ、チチチッ、チ……」
「ふむ、それは残念だ」
なにやら会話が成り立っているらしい。
「そちらの娘は?」
「わ、わたしにはエっちゃんがいるから!」
「くうう!」
エルンストが、ノーマの前に立ちはだかった。
「エっちゃん、格好いい!」
感激して豹に抱きつく少女に、ユニコーンがため息をつく。
「やれやれ、近頃は私を肝試しに使う者ばかりで敵わん」
「結構来るのかね」
「私に会って、破談になったケースも多いせいか、最近はかなり減ったな」
――それってやっぱり?
「穢れなきって、どうやって見分けるの?」
「そうでない者に触れるとじんましんが出るのだ」
「へぇ。探知機みたい」
「すごいねぇ」
にこにこと笑いながら、王子もノーマもそーっと後ずさる。
「さらばだ、人間たちよ」
角のある白馬は、あくまで優雅に立ち去っていく。
背中に、もう来るな、と書いてあるように見えるのは気のせいではあるまい。

帰りの森の小道。
「最近の若いもんは乱れすぎとる」
嘆かわしい! と、レヴィは、ぶつぶつ呟いている。
ノーマが真っ赤な顔で言った。
「だ、だって、エっちゃんの呪いが解けるかもって思ったから……っ!」
「――?」
「乙女のキスで呪いが解けるってお話あるでしょ?」
「……」
何故私が、こんな子供の相手をしないといかんのだ。
レヴィがじろり、と後ろを睨んだが。

残りの者たちは、少女に問い詰められる前に、すでにその場から逃げ出した後だった。






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まずはウォーミングアップという感じで……w
160歳のジークフリードさん登場です。

コボルト村、いいですよね、ワンワン。
可愛かったり、せわしなかったりする雰囲気がなんとも言えません。






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