一日目 ――留学生
「やっと着いた」
「お疲れ様でした」
グリンヒル市、ニューリーフ学院に到着である。
受付を済ませ、用意されていた制服を渡された。
案内された三階の部屋に荷物を置いて、ようやくほっとする。
「一週間、学生かぁ」
家庭教師や両親に勉強を見てもらったことはあるが、同じくらいの年齢で集まって習うというのは初めてだ。
あくまで参考にするためなので、全て違う科目を、一時限ずつ受ける予定になっている。
職能訓練も兼ねているので、学ぶ機会のなかった紋章学や鍛治、鑑定実習まで混じっている。
一体どんな授業になるのか楽しみにしていた。
「午後から、もう参加されるのですか?」
学院側に渡された教科書の山を机に置き、ベルクートが尋ねる。
……返事がない。
「殿下?」
振り返ると。
少年は制服を手に取って、眺めていた。
「可愛いスカートだね」
「――!?」
グレイのスカート、白いセーター、赤い上着。
確かにしゃれていて、可愛い、が。
「どういうことです? まさか、わざと……」
さすがに気色ばんで苦情を言いに行こうとしたベルクートの背に、ばさっと服が投げられた。
「?」
身軽な旅用の軽装。
少年の上着だ。
ということは。
「何ふつーに着替えてるんですかっ!?」
「スカートもキュロットも似たようなもんだよ。それに、これってうちが提出した書類のせいみたいだし」
ひらり、と手続きした書類の控えが飛んできた。
「入学願書……これは」
「ミアキスとリムの字だよねぇ」
可愛らしい文字で記入された書類には、思い切りよく性別欄の「女性」に○がつけられている。
「王家の紹介状を兼ねてるってことで、封緘されてたから、内容は確認してなかった」
ついでに、名前の欄には。
「母上の名を使うとはね」
「前女王陛下のお名前とは……」
「王族の真似してつけるのは珍しくないそうだから、かえって目立たないんじゃないかな」
「しかし、殿下――」
「学校にいる間は、アルって呼んでよ」
「……」
いくらなんでも、呼べるわけがない。
「どお?」
きちんと襟のボタンまで止め終えて、くるりと振り返ったのは、どう見てもたおやかな美少女。
「大変よくお似合いで……」
一体どこからつっこんだらいいのか、分からなくなってきた。
「これは書類偽造とか、経歴詐称になるのでは」
「学院長には本当のこと話してあるんでしょ?」
服が授業を受けるわけじゃないし。
「本気で一週間、それで過ごされるつもりですか!?」
「新しい制服できる頃には、留学期間終わっちゃうんじゃない?」
「いや、しかし……」
「ぼくは気にしないけど」
そちらが気にしなくても、こちらが気になる。
短いスカートと、ハイソックスの間から覗く白い肌が目の毒……いやいや。
「これなら、きっと女の子とも仲良くできるし、男の子も優しくしてくれるよ。己の容姿を最大限に生かすのも実力の内ってラハルが言ってた!」
「そういうところは、見習わなくて良いですから」
「よぉーし、それじゃ行ってみよかー!」
「せめて歩幅を狭めてください……」
色々とあきらめたベルクートが、力なく呟いた。
***
「それでは、私は書庫へ」
「うん、後でね」
つきそいが離れた途端、留学生を生徒たちが取り囲んだ。
どこから来たの、いつまでいるの、という一般的なことから始まり、聞きたくてうずうずしていた質問に入る。
「で、さっきの人は、付き人? 護衛?」
「それとも……恋人?」
「――全部」
女の子たちから、きゃー、と歓声が上がる。
これでとりあえず、連れに近づきそうな積極的な女生徒に牽制できた。
ついでに、なにやら熱っぽい目で見ていた男子学生が数人、なーんだという顔で離れていった。
よし、一石二鳥。
「分からないことばかりだから、色々教えてね」
ファレナにおいて、ほぼ負け知らずだった微笑みは、国を超えても絶大な威力を持っていた。
***
「……やはり、制服を用意していただきましょう」
午後の授業が終わった後、学生寮の部屋を訪れるなり、ベルクートが言った。
「ぼくはこっちでも別に気にしな――」
「私が気になるんですっ! 男の子たちがどんな目で見ていたか気づいていないんですか!?」
思わず語調を荒げてから、はっと我に返る。
うわー、珍しい。
「ねーねー、今の、もう一回言って」
「いや、その……」
甘えるようにねだられて、うろたえる青年の手から、ひらりと封書が落ちた。
「何、これ?」
「――着いてから開くように言われていた書類に、殿下宛のものが混じっていたので届けにきたのですが」
中に入っていたのは。
「入学願書?」
見覚えのある用紙に目を丸くする。
用紙には、手紙が添えられていた。
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きしちょーかっか
女王陛下も、がっこーの制服を着てみたいそーです
なので、兄妹が入学するという形を取りました
女の子の制服を、ゲットしてきてくださいねぇ
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文面は、一応まともに書かれているのだが、頭の中で、ミアキスののほほんとした口調に変換されてしまう。
「……先に提出する方が『妹』だったことに、作為的なものを感じるよね」
「再提出してきます!」
奪うようにして正しい願書を受け取り、ベルクートが駆け出していく。
しばらくして。
新しい制服の箱を持って戻ってきた。
やはり、すでに連絡は届いていたのだ。
箱に入っていたのは、緑基調のすらりとした服。
こちらも、しゃれているし、悪くはない。
「うーん、明日はどっち着ようかなぁ」
「そこは迷うところなんですか!?」
――翌日から、ニューリーフ学院では、ファレナからの留学生は双子の男女、という噂が流れていたらしい。
おまけ
「ねぇねぇ、二人の出会いって?」
尋ねられて、当時のことを思い出してみる。
「町で、暴漢にからまれているところを……」
「助けられたのね?」
「助けたんだ」
女生徒たちが、あら? という顔になる。
「そ、それから?」
「実戦形式の試合で危なかったところを……」
「今度こそ、助けられたのよね?」
「助けたんだなぁ」
今までなんとも思わなかったのに、こうして客観的に聞いてみると、妙に格好がつかないのは何故だろう。
「もしかして、あの人って弱いの?」
「……」
これで近寄る女の子がさらに減るのなら、まぁいいか。
そう考えて、あえて誤解を訂正しなかったのだが。
ギャップが可愛いとかで、かえって人気が上がっているような。
盛り上がる傍らで、こっそり舌打ちしている留学生がいた。
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随分前のものですが、FFXI(ネットゲーム)のTVCM、ご存知でしょうか。
結婚披露宴のスピーチという設定で
「ゴブリンに追われていた新郎を、チョコボに乗っていた新婦が助けたのがきっかけで……」 と紹介しているというもの。
(新郎を新婦が助けているのがミソ)
おまけで王子とベルクートさんの出会いを書いてみて、このCMを思い出しました。
そういえば、プレイヤー視点では、ベルさんってあまりいいとこな……もご。
(きっと、試合が格好良かったんですよね、王子!)
FFXICM、ニコ動にあがってました。うーん、ネトゲしてないと、ちょっと分かりづらいかも……。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm270604
しかし、司会者、噛みすぎw
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