四日目  ――変わらぬ運命の輪



「昨日はありがとね」
「これ、約束のお菓子」
渡されたのは三種ほどの可愛い紙包み。
昨夜の肝試しの礼だった。
大喜びで受け取ると、しっかりダメ押しされた。
「ちゃんとベルクート先生にも分けてね」
「……先生じゃないし」
例の授業以来、他の生徒にも噂が広まって、すっかり臨時講師と認識されてしまったらしい。
「それにしても、ひどいわ」
「別にだましてたわけじゃないよ? 最初に学校が用意してくれたのが、あっちの制服だったんだ」
ざしきわらし騒動で学園をにぎわした後、肝試しに同行した女学生につかまって、さすがに事実がばれた。
怖い顔に囲まれた時には、ちょっとだけリオンに詰め寄られたロイの気持ちが分かった気がしたり。
「男の子の制服も格好いいのに、女の子の制服も似合うなんてずるい〜」
――え、そっち?
女学生の怒りどころは、判断が難しい。
「差し入れですか」
主の手許を覗いて、よかったですねとベルクートがにこりと笑う。
「これ、前にベルクートが作ってくれたのだね」
包みの一つから取り出した、小さな飴のような菓子。
「ベルクート先生って料理もできちゃうの!?」
「先生じゃありませんから」
主従そろって、とりあえず否定するのはそこらしい。
「簡単なものだけですよ。これは、ビスケット生地にカラメルをかけて固めるだけですし」
「……あいつも、これ好きだったね」
誰に対しても丁寧なはずの騎士長殿が、「あいつ」呼ばわりするのは、ストームフィストでベルクートが教官をしていた時の生徒の一人。
血の気の多いその少年は、新兵教練の教官でありながら剣を抜こうとしないベルクートを、王家とのコネだけで役職についた者と思いこみ、しきりに反発していた。
……二か月前、ストームフィストで貴族による小規模な暴動が起きた際、彼は危ういところをベルクートに救われ、その剣技を目に焼き付けることとなった。
その後はすっかりなついてしまい、あまりの変貌ぶりに、周りの友人たちを苦笑させていた。
ベルクートを女王騎士に取り立てた時、大反対したのも彼なら、止められぬのなら自分も女王騎士になる! と息巻いていたのも彼だ。
言うだけの実力はあったので、彼が本気で乗り込んでくる日を楽しみにしている。
どうしてるかなと呟くと、ベルクートも懐かしそうに笑う。
小さな焼き菓子は、光に透かすと琥珀のようだ。
セピア色に染まった視界の向こうに、見覚えのある姿が現われた。
「ジーン!」
「あら」
廊下を歩いていた女性が、艶やかに微笑んだ。
「ひさしぶりね」
女の子たちが、あわてて挨拶をしている。
「グリンヒルに来てたなんて知らなかった。一体いつから?」
無邪気に尋ねた少年を、女の子たちが泡を食って止める。
……彼は『ファレナを出て、いつから?』というつもりで聞いたのだが、どうやら彼女たちの反応からすると、その前から講師をしているらしい。
しかも、尋ねてはいけないくらい、古くから……。
察して、それ以上追及するのをやめた。
「後でちょっと話しにいってもいい?」
「ええ。授業が終わったら、準備室で待ってるわ」
艶っぽく微笑んで去っていく女講師に、女生徒たちがため息をつく。
「ジーン先生、相変わらず色っぽいわ〜」
「二人共、よく平気ね」
「そこらの男子や先生なんて、でれでれしちゃって見ちゃいられないのに」
言われた二人は、顔を見合せる。
「……うーん、慣れ、かなぁ?」
「前に比べたら、露出度減ってますし」
学校だから自重しているのだろうと、平然と話し合っている二人に、女生徒たちは、
――あれで減ってるんだ!?
というつっこみを入れ損ねていた。

***

紋章師のための教室の隣、教員のための準備室。
「結果、変わった?」
ひらひらとカードを操っているジーンに尋ねる。
「いいえ。同じね」
「そう……」
「何が同じなんですか?」
遅れてきたベルクートが、二人の前に焼き菓子を置いた。
どうやら、他のクラスの女子からも、調理実習の成果を押し付けられたらしい。
ジーンがにこやかに笑う。
「貴方の運勢よ」
「ジーン!」
「私の?」
「とても元気で、押しが強くて、前向きで、積極的な子に振り回されて苦労する日々。――貴方、この運勢、一生変わらないんじゃない?」
その言葉に、騎士長殿はしきりに首をひねっている。
「おっかしいなぁ……ストームフィストからこんなに離れたのに、まだ影響が残ってるのかなぁ」
マリノとかハヅキとかあいつとか。
悩んでいる主を、ベルクートはちらりと見た。
そしてジーンに、こちら? と、こっそり指さす。
ふふ、と紋章師兼占い師が微笑んだ。
「人間って、自分のことは分からないものなのよね」
ジーンのありがたいお言葉には気づかず、もっと頑張らねば、と少年は気合を入れている。
「占いありがとね。また来てもいい?」
「ええ。いつでもどうぞ」
部屋を出る前に、ベルクートが振り返った。
「ジーンさん、ひとつ修正をお願いします。……私は今の状況を、『苦労』と思ったことはありませんから」
「あら、それは失礼したわね」
早く早く、と引きずっていかれるのを、ふふ、と笑って見送る。
一人残った部屋で、ジーンは再びテーブルの上にカードを広げた。
そして、三枚を選び出す。

「運命は変わるもの……のはずなのに」

一枚目は王子のカード。
二枚目は騎士のカード。
そして、三枚目を中央に置く。

「何故これが離れないのかしら」

――大きな鎌を振りかぶった、死神のカードであった。






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ジーンさん、何者なんでしょうね。
ペシュメルガやビッキーと同様、幻想水滸伝ファイナルまで明かさない、ということなのでしょうけど。
原案者や初期製作スタッフがいなくなっている上に、ドル箱のシリーズモノを最終回にするわけもないので、一生謎のまま、という可能性が高い気がするのですが……。
まぁいいか、ジーンさんだから。





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