もう一つの隠し事


北の大陸に着いて以来、新しい町を訪れるたび、少年はできるだけ大きな古い店に立ち寄っていた。
「殿下、何か探し物でも?」
手伝えればと、ベルクートは声をかけたのだが。
「な、なな、なんでもなーーーっ!」
慌てふためいて、首を横に振られてしまった。
「この旅では、隠し事が多いんですね」
ちょっと寂しそうな笑顔。
「私は少し店を回っておりますので」
すっとその場から離れて、店の奥に行ってしまう。
少年はしまったという顔になり、こちらもしょぼん、としてしまう。
だが、気を取り直して、今のうちにと店の主人に声をかけた。
「ご主人、この店は長くやっているの?」
「もうかれこれ五十年、ここにいるとも!」
「それじゃ、ぼくの連れに似ている人に会ったことありませんか?」
「へ?」
店の奥で剣や術符を眺めている青年を指差す。
「……ん? そういえば、見覚えがあるような。――そうだ、もしかしたら十年くらい前に……」
「ホントに?」
期待のもてそうな返事に、少年の顔がぱっと明るくなる。
「ベルクート!」
連れの元へと駆けつけ、その腕を引く。
「店のご主人がね、ベルクートに似ている人に会ったことがあるって! もしかしたら、ベルクートの家族かも!」
「――は?」
ほら早く、と引っ張るのを、ベルクートは止めた。
「まさか、今まで人に色々聞いていらっしゃったのは……」
「ベルクートって、目の色や顔立ちが北方系だから。生まれはファレナでも、ご両親はこっちの人なんだろうって思ってたんだ。だったら、こっちで家族か親戚が見つかるかもしれないじゃない!」
本当に嬉しそうな主に、ベルクートは困ったように言った。
「あの……大変申し上げにくいのですが――」
「うん?」
「あの方とお会いしたのは、私自身だった可能性が高いです」
「――へ?」
もめているうちに、店の主人の方が彼らの方にやってきた。
「やっぱりあの兄さんか! いやあ、あの時は本当に助かったよ!」
「お久しぶりです」
古い友人に会ったような会話に、少年はきょときょとと二人を見比べる。
その様子に気付いて、店の主人が豪快に笑った。
「昔、商品を運んでいる時に、峠で盗賊に狙われてな。たまたま通りかかってくれたこの人に、助けてもらったことがあるんだよ。いや、懐かしい。そうだ、よかったら昼飯でも食っていってくれ! あの時は、なんの礼もできなかったからな」
そう言って、店の中に入っていってしまう。
呆然と店の主人の背中を見送った後。
ようやく我に返って、ぽつりと呟く。
「ベルクート、この辺りにも来てたんだ」
「ファレナを出た後は、とにかく世界を見て回りたくて、色々行きましたから」
「――前に、家族も生まれも分からないって言ってたから、故郷だけでも分かったらと思ったんだけど。そうだよね、もうとっくに探してたよね。……一人で空回りして、ばかみたいだ」
がくぅーと肩を落としてしまう。
「そんなことはありません。殿下が、わざわざ私などを気遣ってくださったことが、とても嬉しいです」
かえって慰められてしまい、情けなさにため息。
「血縁者がいないの、寂しくない?」
自分には、優しい両親や叔母の記憶がある。
そして、国に戻れば可愛い妹もいる。
他の皆も、家族同様と思ってはいるが、やはり血のつながりのある人たちは特別だ。
誰もいないというのは寂しくはないだろうかと、いつも思っていた。
だから、この旅で手がかりだけでも見つかれば、と考えていたのだが……。
「寂しいことなどありません」
迷いのない笑顔。
「守りたいと思える人がたくさんおりますし。それに今は、殿下のおられるところが故郷だと思っておりますから」
その時、店の奥から、主人が二人に呼びかけた。
「おーい、よかったら食っていってくれ!」
「殿下、ご主人の好意に甘えましょうか」
この人は、一体どこまで一人旅していたのだろうとか、行きずりにどれだけの人を助けていたのだろうとか。
一生懸命、別のことを考えて落ち着こうとするのだが。
結局、先ほどの言葉を思い出してしまい、もう一度ベルクートが呼びに来るまで、真っ赤になったまま、その場で固まっている騎士長閣下がいた。





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トゥリバーの町にて。
ゲーム内では、ベルさんはファレナ出身と言っておりましたが、設定資料では北の大陸になっているんですよね。
顔立ちも青い眼も、名前も、ロシアっぽいし。

相変わらず、素で殺し文句を仕掛けてくれるベルさんに、王子も大変です。

お昼食べてる間、店の主人に、「それにしても可愛い嫁さん見つけたなぁ」とか言われて、二人してきょとんとした後、真っ赤になって否定しまくるといい。






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