海からの贈り物
謎の発光を確認すべく、エルメラークが航路を向けたのは、岩礁海域。
その中の大きな岩場の洞窟には、船の墓場と呼ばれる場所にふさわしく、難破した古い船が集まっていた。
それらの船は潮に流されて、巨大な洞窟の中に寄せ集められ、道のようになっている。
実際、一番奥まで足を濡らすことなく進めそうだ。
「帰りの足を奪われるとまずい。二手に分かれた方がよさそうだな」
「それじゃ、ベルナデットとヤールとネリス、それにゲオルグとカイルとリオンは、ぼくと来てくれる?」
「はい!」
「はいはーい! お供しますよ〜」
群島諸国の面々がうなずき、ファレナ王家に近い者たちが元気良く答えた。
「残りの人は、船をよろしくね」
「かしこまりました」
「お気をつけて」
「いってらっしゃーい」
船側に残されたのは、ダイン、ベルクート、リヒャルト、そしてゼラセとジーン。
自分を含め、声をかけられなかった面々をちらりと確認し、ダインは納得する。
(紋章砲は群島諸国の内政に関わること。あちらの関係者と、ファレナ王家に近い者で固めたのだろうな。無意識に分けたのだろうが……)
咄嗟に的確な判断を下せる。
それも上に立つ者に必要な資質だ。
王子殿下は、やはり女王陛下や騎士長閣下の、そういった素質を受け継いでいるに違いない。
でなければ、これだけの短期間に、ゴドウィンに抵抗できるだけの勢力をまとめあげることなどできなかっただろう。
内乱の発生時、義は当然王家側にあったが、セーブルを守るためにはどちらにつくべきか、正直迷う局面もあったのだ。
しかし、王子は着々と味方を増やし、さらには海を渡って群島諸国がファレナに関わらぬ、という言質を取り付けた。
あの行動力と判断力。
きっとファレナを正しい方向へと導いてくれるだろう。
自分が王子の側についたのは間違いではなかった、と改めて思う。
王子とその一行が、難破して連なった船を渡っていくのを見送った後。
ふと隣の青年を見て、あやうく噴き出しそうになってしまった。
王子に置いていかれて、へこんでいるだろうとは予想してはいた。
同い年の男性に向かって、可愛いなどと言ったら失礼極まりないのだが。
戦闘では後衛に決して攻撃を届かせぬ腕を持つ剣士と、今の留守番を言いつけられた子犬のような落差がおかしくてならない。
「ベルクート殿は、王子殿下ばかり見ておられますね」
「えっ!? ……それは、その、心配ですから」
うろたえながらも、船の残骸の合間に見え隠れする人々から目を離そうとしない。
その様子に、彼は部隊長や軍団長といった立場には向いていないな、と考える。
剣の腕は立つし、戦場での判断も的確だが、あまりにも個々に目を奪われすぎる。
彼には、目の前にいる誰かを見捨てる、ということが決してできないに違いない。
仲間を大切にするのはもちろん賞賛すべき美徳だが、大勢の命を預かる立場では、それは他を危険にさらす可能性もある。
同じ剣を振るうのでも、誰か一人の護衛のような立ち位置であれば、きっとこれからも彼らしくいられるだろう。
もっとも、その相手はもう決まっているようだ。
難破船をつたいながら奥へ向かう集団が足をすべらせかけたり、海の魔物にからまれたりするたび、はらはら、おろおろしている様子が面白くて、少しからかってみようかと悪戯心を起こした時。
見計らったように、ひょい、と顔を覗かせた者がいた。
「そういう隊長さんは、剣士さんばっかり見てるよ」
――ヤブヘビ。
「!? リ、リヒャルト君、私はそんなつもりは……っ!!」
「あはは。ぼくもリンドブルムにいる時は、ミューラーさんだけ見てるけどー」
必要以上に動揺した騎馬隊長殿に軽く笑い、
「ところで隊長さん、剣士さん。待ってる間、ちょっと協力してもらっていいかなぁ?」
リヒャルトは、何かの一覧が書かれた用紙を二人に見せた。
***
一方、その頃。
探検隊は難破船の一番奥、古いながらも、とても頑丈に作られた軍艦らしき船にたどり着いていた。
そこにいたのは、見るからに堅気ではない、男たち。
恐らく、外海にいる時には海賊を生業にしているのだろうと想像できる姿。
しかし、今は。
人だ、助かった、と涙ながらに訴える様子からすると、今までの自らの行いを、心底後悔する状況に陥っていたようだ。
彼らは、船の墓場に流れ着いてしまい、このまま死ぬくらいならと最後の望みをかけて紋章砲を撃ったのだという。
使用した武器に問題はあれど、助けを求める合図としては役に立ったようだ。
紋章砲の処理は、群島諸国の問題。
あとの判断はベルナデットたちに任せることにして、王子たちはエルメラークへ戻るべく、難破船の道を戻り始める。
その時、一行の前に、水しぶきをあげて巨大な姿が現れた。
先ほど退治したとばかり思っていた大海蛇だ。
だが、それは彼らではなく、別の獲物を見つけたらしい。
……洞窟の入り口近くに停泊している、エルメラーク号。
「ヤール、ネリス! 紋章砲を!」
「し、しかし、これは……」
「ネリス! 生きて帰らないと紋章砲をどうこうする話もできないぞ」
「う……」
なおもネリスはためらっていたが、海蛇が完全にエルメラークへ狙いを定めたのを見て、覚悟を決めた。
紋章砲が動作可能であることは、すでに確認済み。
二人は、手際よく発射準備を整える。
ハイドラの巨体が、洞窟の入り口に重なったのを見定めて、王子が命じる。
「今だ、撃て!」
ニルバ島から、海上に見たのと同じ、不思議な輝きが洞窟内を満たした。
発射の反動だけでも、船が沈んでしまうのではと思うような衝撃。
――光が消え、ようやく彼らが目を開いた時、巨大なモンスターは文字通り、海の藻屑と消えていた。
「これが、紋章砲の威力……」
予想以上の破壊力。
こんなものが、国同士の争いに使われるようなことになれば……。
顔を見合わせた一同は、無言のまま、紋章砲の処分について、うなずきあったのだった。
***
その様子は、エルメラーク号からも見えていた。
白いしぶきを上げて、水面から表れた巨大な水蛇。
王子の紋章魔法やゲオルグの剣によって、意外とあっさりと撃退できたとばかり思っていた。
それが、再び水面から姿を現し、あきらかにこちらに向かってくる。
あれほどの巨体に襲われては、どれほど頑丈な船であっても、航行に支障をきたすだろう。
ここに流れ着いた船は、潮目に流されただけではなく、このモンスターに襲われて舵を失ったのかもしれない。
王子たちも、エルメラークを失うことに危機感を持ったのだろう。
――紋章砲によって、それは水中へ没した。
ほっとしたものの、今度はエルメラークと奥の軍艦の中ほどに、別の個体が現れた。
先ほどよりは小型だが、巨大な海蛇であることは変わりない。
向こうの軍艦から、新たなハイドラとエルメラークが直線状になる。
紋章砲は撃てない。
このままでは――。
ダインとベルクートは、それぞれの剣を抜く。
駆け出そうとした二人の肩に、やんわりと、しかし逆らえぬ強さで手が置かれた。
「あなたたちの紋章は、何だったかしら?」
ベルクートの肩には、ジーンの白い手が。
「一度だけですよ」
同様に、ダインの肩にはゼラセの手が。
そして――。
***
「さっきの凄かったね。二人共、紋章魔法も練習したらかなり使えるようになるんじゃない?」
無事に戻ってきた王子が、ダインとベルクートをねぎらった。
「いえ、先ほどのは」
「まぐれのようなものですから」
打ち合わせもなしに、それぞれの紋章魔法が融合した強力な攻撃となったのは、恐らくジーンやゼラセが力添えしてくれたからであろう。
本来なら入らないはずの、ツバメの紋章の必殺効果も混じっていたようだし。
謙遜し、互いに手柄を譲りあっている二人に、王子は微笑む。
「それじゃ、帰ろうか」
王子の言葉に、剣士二人が声を合わせた。
「「サザエがまだです!」」
ゲオルグが呆れて尋ねる。
「……お前ら、待ってる間、何してたんだ?」
「食材集めだよー」
二人の間から、少年剣士が顔を出す。
「お城のコックさんに頼まれたんだ。ミューラーさんに美味しい物食べてもらいたいしね」
「カニとアワビは見つけたのですが」
「あのモンスターの背に、それらしい貝が!」
探索組が船に戻ったのと入れ違いに、今度は彼らが難破船の方に駆け出してしまう。
三人を見送って、王子が寂しそうにぽつりと呟く。
「……ぼくは釣りでもしてようかな」
「大物は歓迎だが、ハイドラは釣るなよ」
食べ物の話を聞いて何かを思い出したのか、ゲオルグは船内に姿を消してしまった。
大海蛇の巣くう船の墓場で、海の珍味集めに熱中している面々を、九死に一生を得た元海賊たちは呆然と眺めていた。
終わり
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海からの贈り物。
それは海の幸。
――ごめんなさい、サザエ投げないでっ!
でも実際、船の墓場は、いい食材集めの場なんですよね。
今回の目玉は、剣豪コンビの合体魔法でした。
実は私、一週目プレイでは合体魔法の存在に気付かなかったという大ボケでした。
二週目も、思い出したのはかなり中盤。
流水持ちのベルさんと、旋風持ちのダインさんで、風水竜!
おおお、格好いいやん!
――素直に剣豪攻撃やった方が強かったよね、とは王子のお言葉。
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