裁きの時 ――鎮魂歌(レクイエム)
離れていても君は変わらない。
今までも、きっとこれからも。
そう、信じていた。
これは――君に甘え過ぎた罰だろうか?
***
通りすがりに、銃口がカデンツァのこめかみに当てられた。
「まず一人」
だが引き金は引かれず、そのまま突き飛ばすようにして離れる。
代わりに手から放たれた爆薬。
風魔法を放ったフォルテが、避けきれずに爆弾の余波で吹き飛ばされた。
「フォルテ! ……てめぇ!」
ミラーズが、エレオスに殴りかかる。
ひらりとかわして、彼はまたカデンツァの傍らを過ぎる。
銃口が、今度は後頭部に当たった。
だが、また引き金を引かぬまま離れる。
「もう一人」
不吉な宣告の後、銃が火を噴いた。
ミラーズは、防弾服を着ていたものの、その衝撃に吹き飛ばされる。
「ミラーズさん!」
「よくも!!」
ヴェルトの剣を身軽に避け、またエレオスはカデンツァの背後を取る。
銃口が首に当てられた。
「さらに二人」
くく、と笑い、手に集めたソーマの塊を術に変換して放つ。
ヴェルトと、氷魔法で動きを止めようとしたイデアが、炎の術を食らって倒れた。
――強い。
セクンダディでも戦闘部門であるファルズフのメンバーを、こんなにも翻弄するとは。
無尽蔵のソーマの力を得ているだけでなく、相手の動きを瞬時に判断し、的確に反撃している。
教主庁において、若くして第一僧兵隊に抜擢されたのは、彼が元々の才能に加えて、奢ることなく努力し続けたからだ。
けれど。
エレオスは、無防備な人間を手にかけるような人間ではない。
これは、絶対に違う。
仲間たちが次々と倒れていくのを、カデンツァは動くこともできずに見つめていた。
頭では理解しても、目に映るのは友の姿なのだ。
なぜ、彼と自分の仲間たちが戦っているのだろう。
目の前で起こっている事態が、壁の向こうの出来事のようで現実味がない。
ジャディスの戦斧を身軽に避け、再びエレオスが傍らを通り過ぎた。
すれ違いざまに、銃口が左胸に当たった。
「お前、もう四回死んでるぜ?」
からかうように耳元で囁いて、また離れる。
紡がれる言葉は恐ろしいものなのに、それは確かに懐かしい彼の声。
これは一体なんの悪夢なのか。
――眩暈がする。
ふいに、エレオスは立ち止まった。
「お前には敵わないようなことを考えてたから、よほど腕が立つのかと思えば……とんだ期待外れだ。『こいつ』、自分の身体を使いこなせてなかったんじゃねぇの?」
広間を見渡して、肩をすくめる。
「そろそろ片付けるか」
その言葉に、部下を守ろうと、アインザッツはヴェルトとイデアの元へ、ジャディスはフォルテとミラーズ、そしてグラナーダの前へ立った。
しかし、そのために、カデンツァが無防備に一人取り残される。
「――目障りだ。先にお前をやろう」
エレオスが銃を持ち替えた。
大型の銃が、カデンツァに向けられる。
……刹那。
エレオスの前から、その姿が消えた。
「取り消せ。彼を貶めることは許さない」
銃口が、エレオスの眉間に当たった。
「誰が、使いこなせてなかったって?」
放たれた火炎を避け、今度は左胸を突く。
一瞬遅れて、エレオスがその場から飛びのいた。
着地したところに同時に降り立ち、背後を取る。
「今の攻撃くらい、彼なら全部避けていたよ」
自分もエレオスも、争いは好まなかった。
それでも、どうしても武器を取らなくてはならないのなら、攻撃の威力を調整できるものにしようと、銃とトラップを選んだ。
教主候補が武器を持つなど言語道断、と言うに決まっている者たちの目を逃れ、二人で訓練を重ねた。
だから、攻撃のタイミングも、術の使い方も、誰よりもよく知っている。
そう、偶然飛び込んだだけの、間借り人などよりも。
エレオスはさすがに戸惑った表情になっていたが、しばらくすると、記憶から読み取ったのか、避けるタイミングが合い始めた。
真剣な表情になった彼の顔を見ていると、あの頃と同じ訓練をしているような錯覚に陥りそうになる。
攻撃を避け、踊るように広間を駆けながら、交錯しつつ、何度目か。
正面から、互いの銃が向き合った。
相撃ちは覚悟の上。
もう彼の意思がどこにもないのなら、せめて自分の手で。
君一人を逝かせはしない。
引き金に指がかかった瞬間、両者の間に銀の光が閃いた。
――銃声は一つだった。
胸に弾丸を受けたエレオスが、鏡のような床に倒れた。
撃つのは、自分が後のはずだった。
撃たれた衝撃で引き金を引くように、指をかけて一拍待ったのだ。
それなのに。
「……エレオス――?」
無言のまま、友が手を差し伸べる。
その手を取ろうとしたが、ふいに彼の姿がぼやけた。
ソーマゲートに似た転移反応。
つかもうとした手は、空を切った。
何か言いたげ自分に見たのは、エレオス自身だったのか、それとも入り込んだソーマの別人格だったのか。
もう確かめることもできない。
声もなく、その場に膝をつく。
「カデンツァ様。お辛いでしょうが、先に進みましょう」
立ち止まれば、その時間だけ地上に被害が広がってしまう。
グラナーダにうながされ、ともすれば崩れそうになる足を叱咤して立ち上がる。
「隊長、ありがとうございました」
隊員たちへの指示を終えたアインザッツの隣に立った時、他の隊員に気付かれぬよう、頭を下げた。
あの瞬間、アインザッツの両剣が、エレオスの向けた銃口を押さえていた。
エレオスが引き金を引いていたとしても、自分は助かっただろう。
「彼は、撃たなかったんです。ぼくは、最後の最後で彼を裏切ってしまった……」
「それは違う。お前が使ったのは、例の麻痺弾だろう?」
ソーマの塊というのがビジターのようなものであれば、宿主を仮死状態にすれば、離れる可能性がある。
一縷の望みに、カデンツァは賭けた。
「転移させたのが、アドニスか、ウンブラスの者かは分からないが――、生きていたからこそだ」
その言葉に、かすかな希望の火が灯る。
「……いけるか?」
「――はい!」
そうだ。
あきらめるには、まだ早い。
カデンツァは、残されたエレオスの銃を拾い上げ、仲間たちの後を追って駆け出した。
END
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