優しい流れ ――諧謔曲(スケルツォ)
「俺は、いらないから」
きっぱりと言われて、小さな包みを渡そうとしていた少女は、駆け出して行ってしまった。
研究室に入りかけたところで、ぶつかりそうになってあわてて避け、見送ったカデンツァが苦笑する。
「可哀想に」
「下手に期待もたすよりマシ。それにアレは明日だろう。フライングしたり、作業の邪魔をしたのが気に食わん」
普段より手厳しく接したのは、それなりの理由がある。
「甘いのは苦手だから食べないし。第一、なんで俺なんだ」
「エレオスは将来有望株だから、結構狙われてるよ?」
「よく言うぜ、それはお前だろ。――毎年、受け取って始末に困ってるじゃないか」
「大丈夫。今年は対策考えてある」
「対策?」
「あげる側に回ることにした」
――どこをどうすれば、そういう結論に達するのか、小一時間問い詰めてみたい。
「ぼくの村では、男女関係なく普段のお礼に、料理とかお菓子をふるまう行事だったんだよ。女の子たちに、村で作ってたお菓子の作り方を聞かれてね。教えてあげることにしたんだ。その時、今年は受け取らないって言っておけば、角立たないだろ? できたものは、世話になっている人たちに配ろうと思ったんだけど」
そこで、ふうとため息。
「エレオスはいらないんだね。何か好きか聞きに来たのに、残念だなぁ」
「え、ちょ……」
ぱたん、と扉が閉まった。
エレオスは多分初めて、思ったことを口にする自分の性格を後悔した。
***
「お疲れさま。まだやってたのかい?」
「もう少しで、今の実験が終わりそうなんだ」
エレオスの研究は、セクンダディとは別の手段でソーマを抽出する方法。
それさえできれば、一つの組織が世界の要となっているエネルギーを独占している状況を崩せる。
別に上から課せられた仕事ではないが、ソーマとの感応力が高い自分がやるのが一番手っ取り早い。
「今日一日遊んでた、って怒らないんだね」
「元々今日は休養日だし。お前の場合、営業活動みたいなもんだろ。誰に対しても平等に、公平に。……教主候補ってのも大変だな。俺には無理だ」
「そんなつもりじゃないんだけど」
珍しく、すねたような口調。
――気分を害してしまったか。
別に皮肉ではなかったのだが。
誰にでも、穏やかに対応できる友人のことは尊敬している。
候補であるというだけで突っかかってくる人間に対しても、他と変わらずに接することができるのだから。
カデンツァのペースに乗せられて、いつの間にか熱烈な信奉者になってしまった者を何人も知っている。
謝ろうとした時。
「僕にだって特別な人くらい、いるよ?」
続けられた言葉に、悪かったと言う謝罪が、誰?という問いになりかけてしまった。
そのどちらも口に出せぬうちに、
「おやすみ」
あっさりと行ってしまった。
作業の手を止めて振り返ってみると、作業机の端に小箱が置かれていた。
蓋にわざわざ『甘くない』と書いてある。
時計を見ると、0時を回っている。
「……受け取ってやればよかったかな」
昨日のも、もしかすると一生懸命作ってくれたものだったかもしれない。
少し反省しつつ、一つ口に放り込んだ。
***
一方その頃。
カデンツァは自室で、今日配る小箱を並べて確認していた。
話のタネに作ったカカオ99%のチョコの箱が見当たらない。
しばらくして。
――エレオス宛に用意したはずの小箱を発見した。
おわり
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甘くないどころじゃありませんでした。
副題:「裁きの時」(こら)
「不穏な動き」とか、「漂う不安」でも似合いそうなのは仕様ですか。
最近、カカオ比率の高いものが増えてきて、ビター派の私には嬉しいのですが……
86%愛用の私でも、99%チョコはすごかった。
たった一欠片だったのに、会社のフロアのそこここで悲鳴が(笑)。
エレオスのキャラ紹介で、「温和なカデンツァに対して、エレオスは自分の考えや感情をはっきりと表に出すタイプ」というのが結構気に入ってます。
正論を、すぱっと言う人って、見てて気持ちいいですよね。
敵も多そうですが。
きっとエレオスは、教主に対してもズケズケ意見を言って嫌われてるw(許可下りねぇっ!)
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