白銀の山麓 ――重奏曲(アンサンブル)
ざくざくと雪を踏む音が、冷たく張り詰めた空気に響く。
山麓の村へと続く、なんとか道の形を留めた山道に、新しい足跡が残る。
目的地はゾーリャ村。
日拝石に守られて春の陽気を保っていた小さな村が、ソーマ消失後、どのような状況になっているか。
寒さに弱いという木人たちは、無事にすごせているだろうか。
山麓の村からは特に救難の連絡は入っていないが、放置して一種族が取り返しのつかないことになってはいけない、という懸念から、調査隊が派遣された。
――今回の調査の編成は少し変わっている。
セクンダディのファルズフと、教主庁の僧兵隊の隊員が数人ずつ。
犬猿の仲で有名な二組織が同行しているのは珍しい。
後ろの隊員たちは、隣が雪に足を取られれば互いに手を差し出し、雑談も交わしていたが。
先頭のリーダー格の二人は顔を合わせず、黙々と歩いている。
その中間をほてほてと歩いていた若者が、その雰囲気を気にする様子もなく口を開く。
「そういえば隊長、ヴェルトの入隊は、ぼくらの時と同じように隊長の一存だったそうですけど……学科が相当悪かったのに、どの辺りをそんなに気に入ったんですか?」
「カカカ、カデンツァさん、どうして俺の学科が悪かったこと知ってるんですか!?」
後輩の叫びに、カデンツァが振り返る。
にこっ。
笑顔で質問を封じられた。
世の中には、隠し事ができない人間というものがいるのだと、ヴェルトは改めて思い知る。
「そうだな。ソーマとの親和力が飛びぬけた数値を出していたことと、身体的能力の高さと――」
隊長の言葉に、ヴェルトがほっとした顔になる。
そこを狙ったかのように。
「面接が終了して、
出て行く時にドアをノックしたのが面白かったからだな」
カデンツァがくすくすと笑い、僧兵隊の者たちが沈黙し、ヴェルトがこけて雪に人型の穴を作った。
「隊長」
苦い顔で、ジャディスが割って入る。
てっきり、皆をからかうなと注意するのかと思いきや。
「ネタで隊員を決めるのは自重しろと、あれほどイシュタルに……」
――冗談じゃなかったんだ。
さらに深くなった人型の穴から、教主庁の隊員たちが苦笑しながら若者を掘り出していた。
***
村の広場でヴェルトたちを待っていたのは、ナノン少年と、プックル係のバヤン。
山麓の村を訪れる者は少ない。
来訪者を大喜びで迎えた後、そのうちの一人を見てバヤンが叫んだ。
「あーっ! ペジェンタの実泥棒!」
「は?」
指を突きつけられたのは、エレオスだった。
一体どういう間違いだと睨み返してみるが、バヤンはひるまない。
周りの視線を浴びて、エレオスは仕方なく言い返した。
「俺はこの村に来るのは初めてだぞ。どうやって盗めるっていうんだ」
「でも間違いない! 忘れるもんか、村に知らない人がいて変だと思ったら、ペジェンタの実がなくなってたんだ!」
「あれは、あの子が一羽(ひとり)で食べちゃった、ってオチじゃなかったかい?」
カデンツァが首をかしげると、バヤンは深くうなずいた。
「食べたのはあいつだけど、あの実は鍵のかかった小屋に保管してるんだ。誰かが開けなきゃ食べられないだろ?」
「その時に、彼を見たんだ?」
「ああ! 服は今のと違って真っ黒だったけどさ」
「……それって――」
第七中隊がここを訪れたのは、遺跡から飛び立ったエンハンブレの行き先を探している時だった。
あの時、村の近くにいたのは、ファルズフの第七のメンバーと、アドニスとウンブラスたち。
つまり。
カデンツァの腕の中で、一匹のテイルが実にわざとらしく、あさっての方を向いていた。
***
エンハンブレがゾーリャ山頂に着陸した後、必要なエネルギーを取り込むまでの間、待っていろと言われた。
だが、存在自体が生まれたばかりの新入りには、待てというのが一番辛い。
自分の得た力を試したくてうずうずしているというのに。
暇で暇で地上を見下ろしてみると……山の中ほどに、一箇所だけ雪に埋もれていないところがあるのに気づいた。
集中してみると、雑多な生命の動きが感じられる。
人間たちの村。
ちょっと覗いてみるか。
そう思ったのは、ただの気まぐれだった。
ソーマ術の応用での空間転移。
到着したのは、村の奥の広場だった。
「お、でけぇ鳥」
早朝のせいか、辺りに村人の気配は無い。
代わりに、人の数倍はある巨大な鳥が、そこここで、うとうとしていた。
人に馴れているようで、近づいても逃げる様子はない。
プックル。ゾーリャ村において、人や荷物の運搬をしている巨大鳥。
そんな情報が頭の中に浮かぶ。
この体の元の持ち主の知識だ。
実物は見たことがないようだが、必要な情報はそろっている。
「面白いな。お前、ちょっと乗せろよ」
つつかれた鳥が、目を覚まして不思議そうな顔をし、やがて何か訴えるように鳴いた。
「くくるっ、くくくぅ!」
「何? 乗せて欲しけりゃ報酬払え? ……鳥のくせに、しっかりしてやがんな」
鳥の言葉が直接分かるわけではないが、生き物の意思は大体読み取ることができる。
「報酬ったって、何を――」
ペジェンタの実。プックルが好む木の実。
また情報が取り出せた。
飼っている鳥のエサなら、きっと近くにあるはず。
辺りを見回すと、それらしい小屋が目に入った。
ひっかけただけの鍵を開け、どのくらい食べるのか分からなかったので、とりあず小屋にあった実を、置いてあった篭いっぱいにして運んでみる。
「これでいいか?」
プックルは大喜びで食べ始め、あっという間に篭を空にしてしまった。
満足したプックルが、乗れ、と翼を広げる。
本来は大きな篭をかけて人や物を運ぶのだが、一人なら背中で十分ということらしい。
背によじ登ると、プックルがふわり、と舞い上がった。
「お、飛んだ飛んだ」
空間転移を使えれば、移動するのにわざわざ鳥に乗る必要など無い。
人間というのはなんと手間のかかる非効率な生き物なんだろう。
そう思いつつも、今まで自分が居た場所を見下ろすというのは面白い。
しばらくその周辺を飛んで回らせ、村の元の場所へと戻った。
プックルの背から下りたちょうどその時。
「おい! そこで何してる!?」
広場に入ってきた少年が叫ぶ。
「いけね、見つかったか。面白かったぜ、じゃあな!」
「くくー!」
味をしめたプックルが、また来いと言わんばかりに翼を振って、消える姿を見送った。
***
「俺は他に、どこでお尋ね者になっているんだ……?」
がっくりとしたエレオスの肩を、ぽすぽす、と何かが触れた。
振り返ると、テイルが大きな尻尾で「まぁ、気にするな」とでも言わんばかりに叩いている。
「――誰のせいだ、誰の!!」
しっぽをつかもうとした手をすり抜け、テイルが雪の積もった広場をぴょんぴょんと跳ねていく。
その後をエレオスが、銃を構えて追っていく。
更にその後を、カデンツァが追いかける。
……彼がついていれば、村の中で一人と一匹の死闘が繰り広げられても、適当にごまかしてくれるだろう。
見送った後、アインザッツが呟いた。
「やはり彼らは面白いな。セットで欲しいところだが」
「ネタで隊員増やすの止めて下さい」
「うちの隊長は差し上げられません」
副長と教主庁の隊員たちから釘を刺され、アインザッツが口の中で小さく舌打ちしたのは、恐らく、聞き間違いではない。
おわり
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副題:クロのお散歩
公式シナリオの合間で遊ぶのが大好きですw
うちの隊長、面白いものが大好きな人になってきましたよ。
エレオスは隊長に対抗意識全開だけど、隊長は大人の余裕でさらっとかわしているといい。
第七にはつっかかってくるタイプがいないので、逆に可愛く見えてそう。
木人たちは、冬眠して春を待ってるのでしょうか。
それはそれで本来の姿に戻ったのだと思ってみたり。
必要に応じて、マランアサの砂漠地帯に連れていって解凍すれば大丈夫(こら)。
ところで、ソーマをアクションゲームとして見るのであれば、
ナバル人(犬猫タイプ!)と、木人も、使用キャラとして欲しかったですね。
モニカやニーにもっと活躍して欲しかった。
面接で出て行く時にノックするというのは、就職面接で聞く笑い話ですw
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