序章

『うーん、また失敗か』
『困りましたねぇ』
『うん、困った』
困った困ったと言いながらも、特に困ったような雰囲気ではない。
何せ彼らは、かれこれ3000年もこうしてふよふよと漂っているのだから。
今話していることも、実は三年前のことだったりする。
『なんとかしてやりたいのだけどねぇ』
『彼らが勝手にしでかしたこととはいえ』
『我々の力の影響なのは確かですから』
『なんとかしたいねぇ』
ふよふよふわふわと、話がまた元に戻ってしまう。
そう、それは3000年も昔のこと。
宇宙を漂っているうちに、新しい星で生命体を見つけた。
それは身体という殻を持ち、空を飛ぶことも、海にもぐることも出来ない。
けれど、あれをしたい、これをしたいという意欲に満ち溢れていた。
長いこと、漂うだけの生き方をしていた彼らにとって、それは実に面白い生き物だった。
それらの生活を体験してみたいと一部の者が望み、接触を取った。
地上の生き物は、驚くほどの早さで情報を取り入れ、代わりに彼らに似た殻を作ってくれた。
貪欲なまでの吸収力で彼らは新しい知識を得、こちらは生き物として懐かしい行動力と思考を思い出させてもらった。
異なる生命体同士の邂逅は、互いに良い影響を与えたのだと、思ったのだ。
――彼らが、予想もしない行動を取るまでは。
『困ったなぁ』
『放置してもいいんだけど』
『寝覚め悪いですしねぇ』
地上の生き物は、なんと空から来た生命体から力を抜き出し、彼らのものとして使い始めたのだ。
しかも、仕返しを恐れたらしく、ご丁寧に追い出してまで。
彼らの行動にも驚いたが、その後、彼らが力を扱いきれずにあわてふためく様にも驚いた。
さらに、そういう事態になってもなお、力を手放そうとしないことにも驚いた。
元の生活に戻る、それを選ぶだけで自分たちの被害を避けることができるのに、彼らはそれを拒否したのだ。
これでは、助けの手を差し伸べることもできない。
『困ったねぇ』
『三年前のも失敗したしねぇ』
『もう一回やってみますぅ?』
『そうだねぇ、やってみようか』
相変わらずのんびりのほほんと、彼らは話し合い、地上を眺めていたふよふよの一つを呼んだ。
『お前、ちょっと行っておいで』
『嫌ですよ!』
『即答したな』
『あんな野蛮で愚かで生意気な生き物、怖いです!』
『そういう風に感じること自体、かなり地上に影響されてるね』
『何度も他に降りて失敗してるんでしょ!?』
『そうだね、でも今度は成功するかもしれない』
もし彼らに表情というものがあるのなら、たぶん、にっこりという表現が似合うような雰囲気を湛えて。
『行っておいで』
『ぎゃーっ! 行きたくない、行きたくない、行きたく……』

その日、ふよふよが一つ、青い地上へと派遣された。
そのふよふよは、便宜上、アドニスと呼ばれることになった。

                                   


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アレーティアは、意識まで全体で共有した、超越した精神生命体ではないかと思ってます。
だから本当はこんな「会話」などないのでしょうけど。

たとえば、人間がアリの巣の近くにエサを置いたり、障害物を置いたりして、観察。
ところがそのエサのせいで、アリ同士で争いが起こってしまったり。
あわてて手を出してみたら、よけいに手がつけられなくなってしまったり。
なんとかしてやりたいけど、アリだしなぁ……。

アレーティア側の困惑ぶりは、こんな感じではないかと!







プロローグ:樹海の少年

「うわっ、大変だ、寝坊したーっ」
「新入り、遅刻とはいい度胸だね」
「ミラーズさんこそ、寝坊のくせにっ」
「なんだと!」
二周目以降は、新入りも生意気になるものだ。
ぎゃーぎゃーと喚きあいながら艦から出た途端、二人の額に模擬弾が当たった。
モデルガンを手にしているのは、エレオス。
「飯抜きと艦内清掃、どっちにする?」
「どっちも嫌……」
「ていうか、なんでお前がここにいるんだよ」
「決まってるだろ、『交代』の二人目だ」
「ということは、アレが敵に回るわけか……」
ジャディスが、遠い目で遥か彼方を見やって、やがて来る対決に身を震わせる。
「食事抜きは二人には辛いよね。艦内掃除なら手伝うよ」
後輩と同期を思いやって申し出たカデンツァの手を、がしっと握ってエレオスが言う。
「ダメだ! 手が荒れたらどうすんだ!」
「うわ、すんごい対応の差」
「ひいきだひいきだ!」
「当たり前だ! カデンツァに怪我させてみろ、お前ら命はないと思え!」
朝っぱらから小バトルが展開される。
「……話が先に進みませんから、そろそろ行きましょうか、隊長」
「そうだな」
いつものことなので、誰も驚かなかった。

***

そんなこんなでジュネル大森林。
「繭みたいだね」
「中に……誰かいます。――裸の……男!?」
光る丸いものを見上げてヴェルトが言った途端、男性陣がざざっと後ずさった。
見たくない、という声が聞こえてきそうな退き具合。
逆に、女性陣が一歩前に出る。
「美少年!?」
「か、顔までは分からないです……」
「見栄えが悪かったらどうなるか分かってるんでしょうね?」
「そんなの俺に言われても〜」
「ちょっと皆、落ち着いて。なんだか繭が怯えてるみたいだ」
「怯える?」
第七中隊のメンバーが見上げた途端。
視線に耐え切れなかったかのように、繭がはじけた。

***

「あのう……」
シクトクレーテの艦橋に現れた少年は、端から見て分かるほど、震えていた。
「こここ、ここはどどど、どこ――」
「君、怯えすぎ」
フォルテに言われて、ますます小さくなる。
「ここはシルトクレーテ。セクンダディの戦闘部門、ファルズフの第七中隊の艦だよ」
「シル? セク? ファル?」
「めんどくせーな、もう全部知ってることで進めよーぜ」
ミラーズに乱暴に小突かれると、倒れそうなほど真っ青になっている。
「心配しないで。皆、性格に問題はあるけど、よく観察してれば少しは優しいところもある人ばかりだから」
さりげなくひどいことを言っている者がいる。
「大丈夫! 売れる美少年は大歓迎ですよぉっ」
「ううう、売る!?」
「ファルズフ男性隊員のセミヌード写真、結構売れるんです」
えええ!? と仰天したのはジャディスとヴェルトだけ。
「そういえば、本部のシャワー室に隠しカメラがあったね」
「気づいたならはずしとけよ!」
「そ、そんなもの、売れるんですか?」
「やっぱり隊長が一番ですぅ。幅広い女性に大人気。エレオスさんは若い女の子ですねぇ。ヴェルト君は全然需要ありません」
出回るのは嫌だが、いらないと言われるのも凹む。
「お、俺は?」
「副長はそこそこですね」
「ほほう、違いの分かる妙齢の人妻系か」
「いいえ、ガタイのいいお兄様方がまとめ買いを」
「ぎゃーーーっ!!」
「あれ? カデンツァさんは? 一番売れそうなのに」
「言い値で買ってくれる人がいるので、いまのところ外部には出てませぇん」
カデンツァが隣を見る。
「……エレオス。ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
それはそれは爽やかな笑顔を浮かべたカデンツァが、蒼白になったエレオスを引きずっていく。
彼らの姿が消えた後、アインザッツが新入りの肩を叩いた。
「……まぁ、こんな感じだ。気楽にするといい」

――これで怯えるなという方が、無理というものだった。


           つづくらしい ヽ(´―`)ノ






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一方、その頃。
「……エレオス」
「お、俺はあんな写真が外部に出ちゃまずいと思っただけで、決してやましい気持ちがあったわけじゃ……」
「本物がここにいるのに、写真なんかにお金払っちゃもったいないでしょ!」
「え、そっち!?」

――ごちそうさまです。
なんだかうちのエレオスは、写真に弱いらしい。


イデアは、心配するヴェルトの優しい心に感応したとのことでしたが。
アドニス君は、裸の男に当惑し、女性陣の勢いにびびったヴェルトに感応してしまいました!
おかげでえらい怯えまくった状態に。
どうしましょう? (どうしようもない)





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