世界を翔る者 ――変奏曲(partita)
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10月31日
大海老屋にて
ハロウィンパーティを開催します
時間:夜7時より
参加条件:必ず仮装してくること!
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「……」
机の上に置かれたカードは、可愛らしい文字とカボチャやコウモリのイラストに彩られている。
ちら、と一瞥した後、エレオスはぽいと傍らのゴミ箱に放り込んだ。
次の瞬間。
ベッドの枕が飛んできた。
「捨てるなんてヒドイ!」
「どっから出てくるんだ、お前はっ!」
留守の間に勝手に入っているのはもう慣れたが、ベッドに潜り込んで隠れているのは想定外。
しかも、カードを捨てる前から枕を構えていたと思われる。
「来るよね?」
「行かないよ」
てっきり非難の言葉が雨あられと降ってくると思ったのに、予想外に静かだ。
振り返ってみると、唇を噛みしめてうつむき、目元に涙を浮かべている。
「……!? 行く! 行くから!!」
「よかった。それじゃ店で待ってるよ」
こぼれかけた涙などどこへやら。
それはそれは見事な笑顔を残して、友人は去っていった。
取り残された者が、敗北感に打ちのめされていたのは言うまでもない。
***
「よーうーこーそー」
ぎぎぎぎ、と効果音つきでドアを開けたのは、顔にツギハギ、頭にボルトを貼り付けた大男。
「第七の副長殿。似合いすぎですが」
「うるさい」
「5分前。相変わらず正確だな」
白いスーツに黒マントという嫌味なほどキザな姿で、赤ワインを傾けているのは第七の隊長殿。
「そちらは吸血鬼ですか」
「似合うだろう?」
さらっと言われると、うなずくしかない。
さて、カデンツァは。
見回してみると、トレイに飲み物を乗せてテーブルを回っている者が目に入った。
黒い燕尾服に、白く長い耳と丸い尻尾。
つまりバニー……
「カ、カデンツァ! なんて格好を!?」
「じゃんけんで負けちゃってね」
はい、とカクテルグラスを渡される。
似合わないないかな? と上目遣いで尋ねるが、真面目な友人はまともに見ることもできず固まったまま。
それを蹴飛ばして、一人、もとい一匹が割り込んだ。
『カデ、似合ってるぞ、すんごい可愛いぞ!』
言葉は分からずとも、ぱたぱた動く耳と尻尾を見れば、最大限に誉めていると理解できる。
「ありがと」
それに比べて。
理性が邪魔をして誉めるわけにも、嫌われたくなくてけなすわけにもいかず、エレオスは沈黙するばかり。
「クロとあいつって一応別人設定だけどさ」
「何気にエレオスさんの本音っぽいですよね」
ネコパンチグラブをつけた猫娘のミラーズと、勇者杖持ちの魔女っ娘フォルテがこそっと囁き交わす。
「ところでエレオス、仮装してこなかったんだね」
「……こんな格好できるか」
「大丈夫、ちゃんと用意してあるから」
「!?」
にっこりと差し出されたのは、銀色のとがった耳と、銀色の大きな尻尾。
「……!! ちょっ、やめーーっ!」
一応抵抗してみるものの、カデンツァを振り払えるわけもなく、あっという間に料理された。
「はーい、ワーウルフの一丁上がりでーっす」
完成品が皆の前に押し出される。
「……」
「狼男というよりは」
「まんま、ワールド○ストラクションのナジャだな」
「ある意味それも仮装だからいいんじゃない?」
(
マンガ版WD。内緒につき期間限定。……両方似すぎだw)
「だから嫌だと言ったのに……」
自己嫌悪に陥っているエレオスのそばに、それまで店の奥にいた数人が、わらわらと集まってきた。
「結構似合ってますよ」
「写真撮りまーす」
エレオスの部下たちだった。
「……なんでお前らがここにいる」
「なんでってお呼ばれしたからです」
「仮装してないじゃないか!」
不条理な事態にはまった者は、得てして知り合いを自分と同じ目に引きずり込もうとするものである。
「一応設定はありますよ」
「設定?」
三人が、それぞれ自分の耳、目、口に手を当てる。
「?」
当惑するエレオスの後ろから声が上がった。
「見ザル言ワザル聞カザルだそうだ」
「それは仮装なのか……って、なんで大隊長までいるんですか!」
「ちなみに私は悪霊退治の僧侶(クレリック)だ」
「服装、教主庁服のままですが」
「細かいことは気にするな」
出世するには、こういうことにも慣れないといけないのかと悩むエレオスを、カデンツァが慰める。
宴もたけなわになった頃、呼び出し音が響いた。
3D通信に現れたのは、セクンダディの有能な女性監査官。
さりげなく頭に犬耳がついている。
……ファルズフ本部でも、こっそりパーティが開かれているらしい。
「時間外に悪いわね、緊急よ。至急現場に向かってちょうだい」
「了解した」
裏地が赤い黒マントを翻し、アインザッツが命じる。
「第七中隊、出動する!」
「「「「おーー!」」」」
他の客たちの拍手に送られ、ファルズフのメンバーたちは颯爽と店を出て行いった。
***
――翌日。
マラン・アサの新聞には『妖怪変化が強盗を討伐!?』という大見出しが踊っていた。
それを読みながらエレオスが「強盗も気の毒に……」と呟いたのを、部下たちは聞き逃さなかった。
おわり
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エレオスの必死の説得で、カデンツァは耳と尻尾を外して行った模様です。
後日、フォルテからバニーカデの写真を高く売りつけられていそう。
ウサギカデと、オオカミエレと、テイルクロ。
ケモ耳シッポで揃えてみましたよ。
記念写真見てみたい。
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