真実の光2  ――聖歌(サーム)



木々や飾りにつるされたロウソクに、一つずつ火が点されてゆく。
暗闇に、ふわふわと光が揺れる不思議な光景。
「グラナーダ、エレオス、ありがとう」
「俺は何もしてないぜ」
「私は何もしておりません」
二人が、む、とにらみ合う。
「教主様を車に乗り込ませてくれたのはグラナーダだよね、服は着て下さっても、やっぱり来るのは迷ってたと思う。それから、エレオスがここまで案内してくれたんだろう? 普通に来たら、あの時間に着けるはずないもの」
「……こちらのことを忘れておられるようでしたので、思い出していただいただけです」
「……年末の忙しい時期に、公道をとろとろ歩いてるウマがいたから、蹴飛ばしただけさ」
教主庁からここまで、教主は結構大変だったかもしれない。
「僧兵隊の動きが思ったより早くて、間に合わないかと思った。回避できたのは、二人のおかげだよ」
「「……」」
元より礼を期待してやったことではないが、嬉しくないと言えば嘘になる。
「おー、きれいなもんだ」
「平和の灯か。美しいな」
背後から、聞き覚えのある声が上がった。
見事な銀髪と、大きな体躯の、青年二人。
大きな方が、がしがしとカデンツァの頭をなでた。
「間に合わないかと思った、だって? よく言うぜ。その時のために、俺たちも呼び出しておいたくせに」
「なんのことでしょう。お祭りがあるから、誘っただけですよ?」
「わざわざ私服で来るよう、注意書き入りの案内だったがな」
ひらり、と示されたのは、差出人のない一枚のカード。

-------------
本日、移民区にて異国のお祭りが開催されます。
お気軽な格好でお越しください。
-------------

エレオスは無言で取り上げ、傍らで燃えるロウソクにかざし、灰にした。
証拠隠滅。
教主候補がファルズフとつながりがあるなどという火種を残す必要はない。
「不要な争いが避けられた、それだけで十分だわ」
住民に混じって警戒していたファルズフの人員に解散の指示を出し、若い女性がにこりと微笑んだ。

***

――数刻後。
教主庁の奥で、側近の一人が教主に詰め寄っていた。
「教主様、カデンツァ様を甘やかしすぎるのはどうかと思います。このままでは、教主庁を乗っ取られかねません!」
「では、そなた。どうするべきだと言うのじゃ」
「あの方は危険すぎます。教主候補からはずすことも視野に入れた方がよろしいかと」
その言葉に、教主はやれやれと肩をすくめる。
「おぬしを含め、我らはあれを教主にするべく動いていたのではなかったか?」
「それは……」
「いっそのこと、乗っ取ってくれれば話が早いのだがのう。……もしおぬしの言うように、あれを追放したらどうなる?」
「恐らくはセクンダディに――あっ!?」
それは、カデンツァの望み通り。
「どちらに転んでも、あれの想定内。おぬしもわしも、いつの間にやら手の内じゃ」
「な、なんという……」
僧兵隊との対立さえ計算済みとは。
大きな大きなため息の後。
「ところで教主様。その服はそろそろお脱ぎになってもよろしいのでは」
「これはとても暖かくてな。冬の間、外出着にしてはいかんかの?」
「それはさすがに……っ」
「では部屋着で」
「教主様。よもや、プレゼントが嬉しかっただけではないでしょうね」
「最近耳が遠くてのう」
「こんな時ばかりお年のフリをしないでください」

とりあえず、今年の年末は平穏に終わりそうであった。

         おわり





   おまけ

―― 一年後。

なにやら異国の行事という認識が広がったようで、今年は教主庁側の通りも綺麗な飾りや灯りで彩られていた。
町の人々は、目新しい祭りに目を輝かせながら店を見て歩いている。
「クリスマスってなんだっけ?」
「たしか、新年を迎える儀式だよ」
「いやいや、好きな人にキスしていい日だって!」
「あれ? お年寄りに赤い服をプレゼントする日じゃなかった?」
民衆の受け入れ方は様々である。
一人は呆れ、一人は微笑ましく、それらを眺めている。
「……なんか、おかしな伝わり方してるぞ?」
「いいんじゃない? 余計な争いさえおきなければ」
この柔軟さが、異文化の混合する国で平和を保つ秘訣なのかもしれない。
「ところでエレオス」
「ん?」
「今の聞いた? 好きな人にキスしていい日だって」
「――っ!?」
「新しい風習まで加わってるね……って、なんで逃げるのさ!」

今年も平穏に終わりそうである。たぶん。






----------------------------------------------------------------------



クリスマスはサント・クラウス(聖ニコラウス)の記念日から始まったとされますが、本来の聖ニコラウスの記念日は12/6。
キリストの生誕節は年始のところもある。
さらに古くは、北欧に冬至を祝うユールの祭りというものがありました。
……つまり、現在のクリスマスイヴの行事は、冬至の祭りと、キリスト生誕と、サンタクロースの伝説がごっちゃになってしまったんですね。
ヨーロッパでさえそんな感じですから、日本ですっかり年末のお祭りとして定着しちゃったのも仕方がない……(嘘です。企業戦略とお祭り好きのせい)

今回、そのままクリスマスやサンタという言葉を使いましたが、実際には「異国の宗教と伝説」と脳内変換していただけると幸いですw
「ウマ」は町のはずれにいる、行商人が連れているトカゲみたいな子です。丈夫そうだが遅そうだ。

日本は元が多神教であるせいか、宗教に関しては本当に寛容です。(適当とも言……もごもご)。
他の神様を信じていても、他の宗教であろうと、もちろん無宗教でも、それで争いになることは滅多にありません。
しかし、海外、特に一神教のところでは、異教徒=敵、教義の異なる宗派を信じる者=異端者、とされることも少なくない。
そのために戦いになることも。

戦いを諌めるはずの神様が、なぜ自分以外を信じる者を認めず、戦いに向かわせてしまうのかな。

せめてクリスマス、少しでも世界の子供たちが暖かいところで過ごせますように。



TOP小説