決意 ――叙事詩 (エピック)
店の入り口に、でん、と大きな顔をした置物が鎮座していた。
背丈30センチくらいの雪だるま。
そろそろ春の気配だというのに、少し季節はずれではないだろうか。
それにしても、菓子店に何故雪だるま。
不思議に思いながらもそのまま通り過ぎようとしたが、目に入った案内カードに足が止まった。
★今年の新作マシュダルマ★
――マシュマロ! これ全部!?
一体誰が食べるんだ、この量。
いや待てよ、ファルズフの訓練生の娘たちなら、これくらいいけるのかもしれない。
どうせ食べるのはそちらだろうし。
迫力ある見た目にしては、値段はそこそこ。
……ウケ狙いにはちょうどいいか。
店主に声をかけると、ほくほくした顔で包み始めた。
「話のタネに二つ作ってね、さっき一つ売れたところなんだよ」
自分の他にもモノ好きがいたか。
抱えて歩くわけにもいかないので、セクンダディに届けてもらうように頼む。
実物を前にした時の顔を、その場で見られないのがちょっと残念だった。
***
さて、三月半ば。
図書室で資料をあさっていたエレオスに、友人が声をかけた。
「ファルズフの機関誌、見たか?」
「いや」
最近、教主庁内でもこっそり出回っているようだ。
実はエレオスも、時々まとめて押しつけられている。
……そういえば、今回はまだ届いていない。
「すごかったぜ、ファルズフのホワイトデー記事」
「すごい?」
「ひな祭りと鏡開きしたんだって」
「鏡開きは1月で、ひな祭りは3月だが3日、全然違うイベントだぞ?」
「そうなのか? 本来の行事はよく知らないけど、容赦なしって感じでさ。さすがグラナーダ様、格好いい!」
「!?」
何故、その名がそこで出る。
友人の手から、くだんの冊子を取り上げる。
探すまでもなく、表紙に大きな料理用ナイフを手にしたグラナーダと、文字通り八つ裂きにされた白い物体の写真がでかでかと掲載されていた。
元の姿の参考にということなのか、桃色のダルマがわざわざ隣に置かれている。
マシュダルマ、バラバラ事件だと呑気に笑ってる友人たちの傍らで、エレオスは声もない。
考えすぎではないことは、紅ダルマの後ろでカデンツァが合掌しているのが証拠である。
店主の言っていた「もう一つ」を買ったのはカデンツァだったのか、とか。
これ以上各種イベントを混合するのはやめておけ、とか。
言いたいことは色々あったが。
――来年からは、奇をてらわず、普通のにしよう。
とりあえず、エレオスは固く心に誓ったのであった。
おわり。
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白エレ、もとい白マシュダルマ、尊い犠牲になりました。
ま、切らないと食べられないし。
思い切り良く、さくさくっとね。
下手に関わるとこうなるぞという無言の脅し。
カデンツァ様とお近づきになるには、相当の覚悟が必要です。
でも紅白ダルマ、ひな祭りネタの間は並んでたのですよ。
たとえ数分だったとしても。
エピック。
ソーマにおいては、レジェンドのさらに上のモンスターなわけですが。
エレオスにとってのエピックは、まぁ、その、ねぇ?
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