古都アマティー ――結婚行進曲(ウェディングマーチ)



「え、カデンツァ様が結婚!?」
「バカ、しっ!」
一人が制止したが、もう遅い。
どさっと、重い紙の束が落ちる音がした。
((……今回の研究レポート、300ぺージくらいあったよな……))
部下たちは、恐る恐る装置の向こうを覗き込む。
案の定。
エレオスが、ばらばらになった用紙の山を見下ろしていた。
「あのう……手伝いましょうか?」
「いい、自分でやる」
追い払われた二人は元の場所に戻り、精一杯声をひそめて続きを始める。
しかし、いくら小声でも狭い研究室の中、奥までつつぬけである。
(さっきのホント?)
(いやだから、第七のメンバーの会話をたまたま聞きかじっただけで……)
(一体なんて言ってたんですか)
(ポニーテールの彼女が「それで結婚式はいつ?」、ショートカットの彼女は「時間は?」って)
(で、カデンツァ様が)
(日取りを答えてたから)

――沈黙。

「出かけてくる」
二人の傍を足早に通り過ぎ、エレオスが出て行ってしまった。
彼の居たところをこっそり覗いてみると、奥の作業机には、手荒く整えた書類が机に置いてあった。
ページが2から始まっている。
(相当動揺してる)
原因となった二人は、こっそり1から順に並べ直しておいた。

***

「わたしも早く結婚式挙げたいですぅ〜」
花嫁を眺めてうっとりとするフォルテを、エレオスは怪訝な顔で見る。
「誰かと結婚したいじゃなくて、式を挙げたいのか」
「花嫁衣裳も着たいです」
「……」
そうじゃなくて、と言いたかったが、話が噛みあいそうにないのであきらめた。
壇上に上がった新郎新婦は、神妙に司祭の言葉に聞き入っている。
――結局のところ、部下たちの話は勘違い。
古都アマティーへ視察に行く日、リネル神殿では結婚式があるので、司祭と会う時間をどう調整するかという話であったらしい。
真偽を確かめようとセクンダディ本部近くまで行ったものの、どう聞けばいいのだと凹んでいたエレオスは、ちょうど戻ってきた第七隊員たちに発見され、いつの間にやら視察の一員に加えられてしまった。
一応教主に報告したところ、むしろ神殿は教主庁の管轄である、監視して来いと厳命された。
……そんなわけで、現在に至る。
「エレオスは地方司祭の資格持ってるよね」
「資格はな」
フォルテが目を輝かせる。
「それじゃ、誓いの言葉、できるんですかぁ?」
「……できないことはないが」
やってやってとねだられて、仕方なく口を開く。
「汝、健やかなる時も、病める時も、これを愛し、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」
すらすらと淀みなく。
だがしかし。
「すっっごい棒読み」
当然ながら、不評である。
カデンツァも苦笑する。
「もう少しくらい、感情こめてあげようよ」
「対象がいないのに、気を使ったって無駄だろうが」
徹底した合理主義。
むしろ、なんで? と言いたげな顔に、
((コイツ絶対モテない))
フォルテとミラーズがぼそっと呟いた。
式は滞りなく進み、あとはくだんの誓いの言葉を残すのみ。
冷やかしていた新郎新婦の友人たちも静かになり、特別参加の視察の面々も(いいなー)という顔で見守っている。
ふとカデンツァは、エレオスが不思議そうに自分を見ていることに気づいた。
「何?」
「お前までうらやましそうな顔してるのが、意外」
「一生一緒にいたいと思える人と出会えたこと、素直にいいなって思うから」
そういうものなのかと、エレオスはまだ腑に落ちない表情のまま、呟いた。
「……その時は、俺が司祭やってやるよ」
発した言葉に、隣の笑顔が凍りついたのには気づかなかった。

***

何事もなく式が終わりそうなことに安心し、司祭は神殿の一番奥に目をやった。
(目立つな、彼らは)
ファルズフと教主庁のメンバーは、式の関係者でないことを差し引いても、ひときわ目を引く。
なんとなくそちらを眺めながら、言葉を続ける。
「それでは誓いの……」

(――エレオス様がぶん殴られた!?)

「……キスを」
動揺を隠して式を続けるのは、これまで培ってきた精神力、総動員であった。

       おわり。

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アマティーの司祭様、てっきり再登場するものと思っていたのですが。
…名前出して欲しかったな。

さて。
居ますよね。
大抵のことはソツなくこなすのに、心の機微にはてんで疎い人。
この後、かんかんに怒ったカデンツァ様には無視され、フォルテとミラーズにはお前が悪いと言われ、事情を聞いた司祭様にまで謝ってきなさいと諭され。
それでもエレオスは「何で!?」と喚いていたとかなんとか。

ページが2からというのは、私が「自作文庫本」で必ずお目にかかる状態です。
ページ数が多いと、直すのが大変なのです(笑)。

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