砂棺の神殿 ――挽歌(スレノディ)
せっかく遺跡に来たというのに、遺跡自体の調査は部下に任せ、エレオスはソーマの測定にかかりきりだった。
「何か気になるのかい?」
「ここにはまだ、相当量のソーマが残ってるからな」
アデル砂漠の奥に眠っていた巨大な神殿。
ソーマ嵐やウンブラスに邪魔され、調査はそれきりになっていた。
再調査の計画を知らせると、案の定カデンツァは食いついてきた。
それを見越して、第七がマラン・アサに戻っている日に調査期間をぶつけたのはナイショである。
これで数日は独り占め……いやそうじゃなくて。
「俺が地上に戻った時にはまだヤツが居た。何故ヤツがまだ動けたのかが分かれば……」
「ヤツって、もしかして」
アレ? とカデンツァがエレオスの背後を指差した。
遺跡の壁にもたれかかるような姿の、巨大な岩の彫像。
それが、ゆらりと身を起こしていた。
エレオスは舌打ちした。
「あいつめ、まだ動けるのか。……総員退避! 全員神殿から出ろ!」
命じられるまでもなく、戦闘に向いていないと自覚している調査員たちは、脱兎のごとく広間から外に駆け出している。
「カデンツァも行け、俺が足止めする」
「待って、あの人は……」
巨大な岩の戦士は、ゆっくりと周りを見回している。
『何故ここは砂に埋もれている?』
声としては聞こえない、乾いた風のような声。
『滅びたのか、私の国は?』
大きな、深い、嘆きの気配。
『私は私の民を守れなかったのか』
哀しみが――ふいに、怒りの炎に変わる。
『侵略者はお前たちか!?』
憤怒の矛先が、足元にいる人間たちに向けられた。
両の手に握られた巨大な剣が振り上げられる。
「貴方の国は滅びていません!」
その言葉に、黒光りする切っ先が止まった。
「水の流れにそって移動したんです。色々な国の人が集まって、平和に暮らしている国です。――貴方が望んだように」
遥か砂の彼方。
『私の……国』
指し示された方に、ゆっくりと顔が向けられた。
『私の……望み』
握られていた剣が、砂となって崩れる。
『そうか……良かった』
小さなつむじ風が巻き上がり、視界をふさぐ。
目を開いた時にはその姿は砂塵にまぎれて消えていた。
英霊レグネド=セーバーソウル。
かつてこの地の都を守護した英雄。
彼が亡くなった後、人々がこの神殿に奉り偲んだというだけでも、どれだけ尊敬と敬愛を集めていたかが分かる。
だからこそ、数千年を経てもなお、その魂は自分の国の行く末を憂いていたのだろうか。
完全にその存在が辺りのソーマに溶け込んだのを確認し、エレオスはようやく安堵の息をついた。
あれはこの場に記録された残留思念のようなもの。
本来、話など通じるはずもない存在だ。
それを言葉だけで、説得しまうとは、相変わらず恐ろしい奴。
「教主国がここの後継ってのは本当なのか?」
「多分ね。前に読んだ歴史書に、水脈の移動に沿って海沿いに移ったのがマラン・アサの始まりだって書いてあったし。それに」
色褪せてはいるが、まだくっきりと残っている紋様を指差す。
「クイント神殿のレリーフって、教主国のものによく似てるだろ?」
「お前の遠い先祖かもしれないってことか。――おかげで、現存するソーマが何か分かったな」
地上に戻った頃からずっと感じていた違和感。
アレーティアが自らのソーマを取り戻して去ったにも関わらず、まだソーマはあるという矛盾。
今もソーマ術を使える自分。
その答えは。
「アレーティアが持っていったソーマは彼らのもので、現在残っているソーマは地上の生命体のものってことだ」
「地上の人間や動物、植物にだって、生体エネルギーはあるはずだものね」
薄々気づいてはいたが、これで確信が持てた。
現存するソーマが前に比べて格段に扱いにくいのも、精神生命体であるアレーティアの純粋なソーマに比べ、地上の生き物たちの多様な生命と思念が含まれているとすれば至極当然である。
しかし、ということは。
自分は知らずに先祖をこき使っていたのか。
エレオスは、今後、ソーマ術を自重しようと決心した。
***
秋の終わり。
マラン・アサは、すっかり子供たちの祭りとして定着したハロウィンでにぎわっていた。
暗くなり始めた通りには、お化けをかたどったランプが並び、魔女や妖精に扮装した人々を導いている。
警備を兼ねて町を回っていたカデンツァとエレオスは、隣の地区担当のフォルテとミラーズにばったり会った。
「あらカデンツァ君、いいところに」
「向こうで、すごい出し物やってるぜ、早く見て来いよ!」
「出し物?」
カデンツァとエレオスは、思わず顔を見合わせた。
第七の二人を驚かせるような出し物の計画などあっただろうか?
「こーんな大きな玉座っぽい神輿(みこし)にさ」
「こーんな大きな岩みたいな王様が座ってますの」
よほど大きさに感心したのか、二人して腕を大きく広げてみせる。
「担いでる連中がまた、見事なスケルトンでさ」
「ホント、よく出来てましたよねぇ」
「「……」」
書類を確認するまでもなく、そんな申請は出されていない。
広場の中央に駆けつけてみると、二人の言った通り、それは大きな彫像があった。
玉座の上から、取り囲む人々を楽しげ(?)に見回している。
そして、二人に気がついて手を振った。
一体どうやって動かしているのだろうと、周りからわっと歓声が上がる。
「おい」
「ん?」
「アレに案内を出したな?」
「うん、お祭りがあるから、よかったらどうぞって。来てくれたんだね」
ハロウィンは、精霊や魔女と一緒に、先祖の霊が帰ってくる日。
確かにそれはそうなのだが。
いいのかそれで、とか、どうやってここまで来たんだ、あいつら、とか。
笑顔で手を振り返すカデンツァに、エレオスはそれ以上考えるのを放棄した。
***
数日後。
こちらは砂漠の王宮跡。
地下では気の早いスケルトンたちが、いそいそと来年の支度を始めていた。
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レグネド様、大人気。
来年も参加するつもりのようです。
レグネド様は、カデの爆弾の前に、立てないまま倒れるという酷い目にあわせてしまいましたからね…。
どこかで花を持たせてあげたいと、常々思っていたのです。
書けてよかった(笑)。
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