読書記録



(2004/01/26)
原作側封神演義に手を出してみました。
「封神演義―中国原典抄訳版 」 
陸 西星 選/川合章子訳/プラスアルファ文庫
光栄の完訳封神演義(全三巻の方)を書かれた方。文章は流暢にて華麗。
選ばれた物語も、女性ならでは、戦いよりも戦場での粋な恋の説話が多数。
ただ、「全ての話を掲載するには長すぎるため、思いきって割愛した」という部分によって、一部まったく異なる話になってしまっているのが気になる。
ジョカの命を受けず享楽が目的の妲己、紂王の元に寄らずに西岐へ向かう子牙……。
(まるで、TV放送の時に004復活シーンを削除されて話が違ってしまった映画009のような。 ……若い人知らないって!)
珍しい一人称「俺」のやたら格好いい楊センと、「私」な天化がちと見物。
「光栄封神演義」の天化と楊センが入れ替わったようで面白いです。
でも天化さん、ほとんど出番ないまま倒れます。南無〜。
表紙及び挿絵イラストは、各種ある「封神演義」の中でも、特出して美麗。
(水上有理さん。爆笑でも描かれてますね)
嬋玉にやられて、いたた〜って座りこんでる那咤と天化がいい感じです。

それにしても。それにしてもですよ。

「お父様。(中略)さっさと攻めて武王と姜子牙を殺し、
黄飛虎を捕まえて、朝歌に凱旋しましょうよ。(中略)
いいわよ、あたしがやっつけてきてあげるから」

嬋玉だ……嬋ちゃんがいるよ……。
誰が書いても嬋玉だけは同じなんだろうか。


* * *

(2004/02/4)
久しぶりに、原作側封神演義に手を出してみました、第二弾。
「封神演義」 
八木原一恵/集英社文庫
文庫本のくせに960円というだけあって、分厚くて読みがいあります。
上でご紹介したプラスアルファ文庫に比べて、登場人物、主要な場面をかなり網羅。
原典の主要な流れをつかむなら、1冊でまとめている本としては一番お勧め。
その代わり、あらすじだけをざっと並べたような感じになってしまい、
キャラの印象が薄いのが残念。

那咤に輪をかけたむちゃくちゃさが目立つ太乙様、
敵につかまりまくる黄飛虎・天化親子、
大活躍する哮天犬(楊セン氏ではナイ)。

彼らが妙に記憶に残ってます。
とりあえず、読み終わってから言いたいことは ジョカ様、遅すぎます ……かな。

* * *

(2004/02/8)
上の「封神演義」について、妙にウケたページにメモを挟んでいたので、
ちょっとご紹介。(一部文略についてはご容赦)
ここは笑うところなのか!?と一瞬迷いつつ笑ってました。
原作版の絵が描けるなら、4コママンガにでもしているとこです。

九曲黄河陣
雲霄「子牙、この陣を知っているか?」
子牙「言うまでもあるまい。門に名前が書いてあるではないか

万仙陣
南極仙人「(キュウ首仙に向かって)元の姿を表せ!」
キュウ首仙は、青い毛の獅子となった。
元始天尊は、青い獅子の首にキュウ首仙と名札をかけさせた。
(以下、霊牙仙、金光仙も同じ目に合う)

申ちゃん、蒲団蒸し
元始天尊(申公豹のことを黄巾力士に命じ)
「こやつを風火蒲団にくるんで、北海眼に閉じ込めよ!」

楊セン氏の正義を問う
楊セン(梅山の朱子真の心臓を握り)
「生きていたいになら、周の陣地にひざまずき、はいつくばるのだ」
(朱子真がそうしたのに、子牙に向かい)
「元帥。どうぞこの妖怪をお切りになって、後の憂いをお断ちください」
諸侯は口々に楊センを誉めた。

いいのかそれで。
(この本の楊セン氏だと、「助けるとは一言も言ってない」とか言いそう。

* * *


(2004/02/14)
久しぶりに、原作側封神演義に手を出してみました、第三弾。
「封神演義(上)」 中 下 っと。
安能務訳/講談社文庫

申し訳ないのですが、安能氏版、最高、大好き!!
……と思っている方は、読まない方がいいです。
多分不快に感じると思いますので。

ご存知、安能氏版。多分、日本で封神演義というと、恐らくこちらが一般的。(いやジャンプ版は別として(笑)

意外に思われるかもしれませんが、私が何度も挑戦して何度も挫折していた作品だったりします。(今回は、二回目ですが)

下の方の人たち(崑崙でも下山した道士たちや、武吉、天祥など)は非常に魅力的で、数ある「封神演義」の中でも個々のファンが多いのはこの作品なのは間違いありません。
しかし、恐らく安能氏は、偉そうな人やいわゆる納得できない「天命」というものがよほどお嫌いなのでしょう……。
その端々が伺える文章、老子様や崑崙の仙人たち、姜子牙、姫発などのキャラクターの描写や加えられた物語、説明が、共感する前に「なんだコイツ」的なイヤな印象を受けてしまって。(つまり、作者の「こいつ嫌い」という感情が伝わってくる。何度もそれにうんざりして途中で止めていた……)
私が今書いている感想文や論述ならともかく、「小説」において、登場人物をイヤだと感じるのって致命的(T-T)。
同様に「原典があるけれども、創作部分が大部分を占める」と認知されている作品でありながら、吉川氏の「三国志」を読み終わった後、何故か分からないけど出てきた人たち皆好きーっ、という不思議な感覚は、作者が作品中に「好き」以外の私情を持ちこんでいないからだと思うのです。

ま、それはともかくとして。
この作品で特出しているのはもちろん申公豹……というより、クロこと、黒点虎。
「人間サマのやること、言うことはよくわかんないや」
「ボクは虎のままでいい」
と、考えようによっては一番仙人然としてます(笑)。

さて、安能氏版には、オリジナルの設定や追加の物語などがかなり盛り込まれており、 名前の読み方、登場する宝貝にも他と大きな違いがあるのは、皆様もご存知の通り。
また、前書きでの「封神」紹介については、研究者からは許せない内容であったのでしょう、 上でご紹介した八木原一恵氏「封神演義」で後書きを書いている二階堂氏が、 かなり糾弾しておられます(^^;
(『封神演義の世界』 の作者さんです。
「正しい『封神演義』普及の会」にて解説しておられるので、一読をお勧めします。
(今サイト、どちらにあるのかな)

私としては、中国語の読み方が違うのですから、那咤をナタと読もうがナタクと読もうが、 読み方がちがーう!なんてツッコミは言うだけ虚しいと思っているのですが、 「三大怪奇小説」や「雷公鞭」については、二階堂氏のおっしゃることがもっともです。

安能氏版申公豹は、「雷公鞭」という最強の武器を持ち、 老子から絶対の庇護を受け、皇帝の座を蹴って耳を洗ったということで特別待遇を受けています。
しかし、雷公鞭や老子からの庇護という話は他では見られませんし、 皇帝の座に至っては、別の人の説話ですよね。
何故申公豹、ここまで作者に気に入られたのやら。
この「封神演義」では、作者の意見代理人とでも言うべき存在なので、 「布団蒸し」は許せなかったのかなぁ、なんて。

というわけで、この作品しか原作版「封神演義」は読んでない、と言う方は、
他のものも読んでおくことをお勧め致します。

* * *

(2004/02/14)
光栄版「封神演義」7冊も読んだのですが、その後に勢いで
「幻妖草子西遊記 上下」(光栄「西遊記」ノベライズ)を読んだのでご紹介。

「幻妖草子西遊記地怪篇」  「幻妖草子西遊記天変篇」  角川スニーカー文庫

ノベライズというものは、ファンに受け入れられるかどうか、とかく極端に分かれると思います。
文章がうまい下手というより、どれだけ元作品のキャラクターを把握して、思い入れたっぷりに書けているか。これにつきます。
読者は元作品が大好きで、「他のメディアでもその作品を見てみたい」という人が圧倒的なはずですから。
さて、ノベライズというと、とにかく作品通りに描こうとして、ただのあらすじみたいになってしまうケースと、逆に元と同じなのは罪だとでも言わんばかりに、アレンジを加えるケースがあります。
あらすじみたいなのは、面白くはないけど、少なくともファンは怒ることはないでしょう。(多分一度読んで終わりになっちゃうでしょうけど)
しかし、アレンジの方は大問題。本人が「気の利いたアレンジ!」と思っていたとしても、ファンが「イメージ違う……」と感じたとしたら、それはたとえ小説としてどんなにすばらしい作品でも、ノベライズとしては大失敗。
そういう意味で成功作ってものすごーく少ないです。

さて、こんな風に書いていると心配になってしまうかもしれませんが、実は「光栄西遊記」のノベライズ「幻妖草子西遊記」はその両方に成功している数少ない作品のひとつです。

ゲームにはない三蔵の特殊な能力の設定は、妖怪たちとの交流に説得力を持たせ、またゲームではただの「悪い」敵であったキャラたちをぐっと身近にしてくれました。
どうしてもゲームは「プレイを楽しむ」ことを前提にしないといけませんから、どんなにすばらしいテーマの物語でも、戦略やグラフィックに意識が向いて、緊迫感や悲壮さが持続しにくい。
鬼神たちとの戦いも、終わってみると彼らが言っていた言葉はあまり覚えてなくて、「強かったなぁ」くらいの印象になっちゃったり。
この小説は、ゲーム側の弱点を見事に補ってくれました。
そして何より嬉しいのは、キャラたちが本当にゲームそのままの存在で動き出していること。
キャラのイメージは、普通はプレイヤーによって異なってしまうもの。孫悟空は誰が書いても同じとしても(笑)、全員イメージ通りだったんです。最初はゲームのシナリオライターさんが書いたのかと思ったくらい。
数箇所、ゲームと解釈が違う場所があって、アレ?ということはありましたが、これは作者さんのこだわりかな、と納得してみたり。
(涼鈴はゲームでは雪山の寒さに凍えてしまうが、小説では「金属性は火(熱)に弱い」ということで逆に雪山で元気とか)

アンタゲームやってないでしょ(−−)?というノベライズ作家も多い中、本当に楽しんで、キャラを愛して、書き上げられた作品だと思います。(締め切りの修羅場は味わったようですが)

上下巻という文章量は、物語をぎゅっと圧縮して軽快なテンポを作り出してくれましたが、キャラたちがあんまり魅力的なので、短くて本当に残念。もっともっと旅を楽しませて欲しかったです。

物語中、一番好きなのが、作品の中で語られる天真爛漫で悩み一つなさそうな孫悟空の、意外な寂しさ。
この世に石猿はただ独り。親も兄弟もいない。
どんなに強くても、どんなに子分を増やしても、心の中にある空洞。
それを眺めて、悟空が出した答が本当にものすごく素敵なのです。
これはぜひ自分の目で読んでいただきたい!

ゲームをやった人だけでなく、たくさんの人に読んでもらいたい作品です。
絶版のようですが、図書館でリクエストすれば手に入ると思います。

最後に。
実は、炳霊公(天化)のセリフの解釈と孫悟空への言葉が、アレ?と思うことの最たるものです。
三蔵への「昔……俺が知ってた奴に似ている」という言葉は、「光栄封神」やった人なら迷わず太公望のことだろーと思うのですが、これを別解釈にしたのは、小説設定上のキーワードにしてしまったから仕方ないとして。
「孫悟空! 大将の言うことには従わんか!」の言葉に大爆笑した人は多いはず。
よりによって、あんたがそれを言うか!って(笑)
たったこれだけで、この人は「光栄封神」はやってないのかな?という印象を持ったのですが、読み返してみて、もしかしたら、そのツッコミを期待して書かれたものかもと……
だとしたら、神とあがめたいくらい尊敬すべき作家さんだと思うようになりました。
(さてどっちかな 笑)


* * *

(2004/03/11)
光栄歴史ポケット文庫「封神演義」であります。
前に紹介しました 川合章子さんの文章なので、7冊という量にもかかわらず、読みやすさは「封神演義」の中でも一番。もっとも字が大きいので、7冊とは言っても、実質厚めの文庫本3冊程度でしょう。(字が大きいから読みやすいというわけでは……わけでは……)

中国語版原典はとても手が出せませんので><比べることができませんが、ストーリーは原典にこだわった八木原一恵氏の集英社版とほぼ同じ、しかも矛盾点までそのまま掲載(しかも、巻末で爆笑風に突っ込まれている)しているあたり、一番「原作」に近いと言えるのではないかと思います。(訳者が「勘違い訳」しただけだったらどうしよう)

初めて読む人だと抵抗があるであろう十絶陣の「とりあえず生贄」パターン(真打の仙人が挑戦する前に、弟子や普通の人間を入らせて死なせてしまう)は、安能氏版のように、仙人側の冷酷さを際立たせることなく、「天命だから仕方ないじゃん」とさくっと進めています。元々講談として発達した物語、この箇所は「陣のすごさを客に聞かせるための場面」なのだから、これでよいのではないでしょか。

表紙イラストがゲームのものを使用しているので、太公望の中身との違いに戸惑ってしまったり(どうせこのイラストを使うのならゲームノベライズでやってほしかった……)、作中イラストが爆笑でおなじみの河泊りょうさんなので「太公望爺ちゃんが変なヤツ」というイメージを植えつけられたりしますけど(笑)、今までの小説「封神演義」の中では文句なしに一番のお勧めです。
通常、ずらずらと並べられるだけの封神名簿や、各地に封ぜられた国・領主の説明などの詳しさも特出しているので、調べ物好きな人なら、小説以降の年代も楽しめます。


ところで、周が成ったあと復縁を求めた馬氏(奥さん)に「覆水盆に返らず」と言ったと、ことわざ辞典には書いてありますが、小説「封神演義」には全然出てこないんですよね。(自分の不明を嘆いた馬氏は、復縁を迫ったりせず自殺しちゃう)
調べて直してみたら「漢書(朱買臣伝)」に朱買臣と奥さんの同様の故事があり、「拾遺記」では太公望の話として載っているとのこと。
また、太公望の故事として知られる「竜を釣り上げた」または「大きな鯉を釣り上げ中から兵法書<六韜>が出てきた」とかの説話も小説「封神演義」にはなし。
これらの元を調べてみるのも面白そうですにゃ。


* * *
(2004/03/16)
「西遊記」
呉承恩作 君島久子訳 福音館書店
ご存知西遊記。暴れん坊の孫悟空や、食いしん坊の猪八戒、河童のような沙悟浄、竜の化身の白馬という弟子たちに守られて、唐から遥か天竺へ経を取りに行く三蔵法師。
痛快無比な荒唐無稽さが愛されて、日本では古くからアニメ、人形劇、ドラマ、マンガとなってきたので、原作を読んだことがない人でも、大体の人物関係やあらすじを知っている人も多いかと。
日本では夏目雅子さんが三蔵法師役をやって以来、美しい和尚様が定着(笑)。原作では「臆病で太った年寄りの和尚」と表現されちゃってますが、悟空たちの心酔っぷりや、女妖怪に惚れ込まれるくだりは、男女問わず魅了しまくる美男子の方がしっくりきたりして。

ひたすら手のつけられない暴れん坊のイメージがある孫悟空ですが、原作を読むと、予想外に「礼儀正しく、情が厚く、師匠のためならたとえ火の中水の中」な悟空にお目にかかれます。
もっとも、妖怪とくれば容赦なく叩きのめし、一族郎党皆殺しにしてしまうような残虐さも合わせ持っているアンバランスさが、悟空の魅力なのでしょうか。
多くの人が作り上げてきた物語なだけに、性格が少々分裂気味なのは仕方がない(苦笑)。慈悲心あふれるかと思えば、終盤になっても盗賊をあっさり殺してしまったり。(後から百話にするために、前とそっくりな話を持ってきたりしているので性格が戻っちゃったんでしょう)
元は天界の武将でありながら不精で女好きな猪八戒(三蔵の登場を待つ間、結婚してるし!)、個性の強すぎる二人を前に登場後は妙におとなしい沙悟浄、途中で一度奮起したもののあっさり返り討ちにあってからはただの馬と化す小竜(普通、一度くらい花を持たせてあげないか?)、ネズミとりのエサ状態だと言うのに最後まで「妖怪」と聞いただけでがくがくぶるぶるしてしまう師匠……(いい加減慣れなさい)。
約百話という長い物語ですが、最後まで楽しく読むことができます。
特に、この福音館書店版は、子供向けでありながら、ほぼ全話をはしょらずに(重複している話は注釈つきで省略)掲載している上に、多少大人向けな描写も割愛していないのでお勧めです。

那咤太子や次郎神君(楊セン)、恵岸行者こと木叉(木咤)の登場など、「封神演義」との関わりも深いので、知っている人ならより楽しめるでしょう。

ところで、中国にも男女の縁を司る「赤い糸」の考えがありますが、こちらはとっても思い切りよくて「赤い縄」なんですよね。
こりゃ逃れられないやって感じ。




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