再会
(今の『気』は……まさか!)
戦いの最中だというのに、炳霊公は振り返った。
崩れた壁の向こう。お宝を探しに行った悟空が、何かを手に入れた。
その瞬間に感じた気配。あれは……。
1800年もの間探し続けた「あいつ」を間違うわけがない。
「おい、三蔵! こんなザコどもさっさを片付けろ!」
頭上から怒鳴られて、三蔵は仰天した。今まで戦いのフォローとして技を借りることはあっても、神将が直接何か言ってくることはなかった。一体何があったのだろう。
周りには、そんなにすごい連中ではないが、数で押してくる妖魔たちがひしめいている。
「え、あの、僕は全体攻撃持ってませんから、それはちょっと……」
「まどろっこしいヤツだな、もういい、その身体ちょっと貸せ!」
「え? え? わあああ―――っ」
悲鳴を聞きつけて駆け戻ってきた悟空が、叫ぶ。
「三蔵、おい、どうした、大丈夫なのか!?」
それに対して、三蔵はえらく元気な声で答えた。
「てめえら、怪我したくなかったら引っ込んでろ!!」
周りの仲間たちが、真っ白になる。
「い、いやーっ、三蔵の顔でそんな口利かないでーっ」
「今のは炳霊公様? 本当に三蔵さんに入ってしまったんですの?」
もう、どうしたらよいのか分からない。敵がまだたくさんいるのに、皆、パニック状態だ。
それらを完全に無視して、三蔵は実体化した剣を堂にいった構えで振りかざしている。
「天の竜、地の竜よ、太古の眠りから覚め、今ここに我の召喚に応えよ! 天地……争鳴!!」
空に暗雲がたちこめ、そこかしこで稲妻が光っている。
「なんかやべえ、皆、伏せろーっ!」
悟空の叫びに、全員が頭を抱えて座り込む。その判断は間違っていなかった。
天から駆け下った雷が、大地を貫き、凄まじい雷光と震動を発する。
ようやく目を開いた頃には、その場にいた妖魔たちは一掃されていた。その場の大敵であるヤクシャでさえも、天の雷の直撃を受けて倒れ付していたのである。
三蔵=炳霊公が剣を下ろし、振り返る。
「悟空、その玉を……」
叫んだところで、三蔵の視界は暗転した。
*
「悟空、その玉を……って、なんで錫杖に戻ってんだよ、おい!」
辺りの景色がなくなっていることに気づき、炳霊公が叫ぶ。
実体を持てぬ神将が宿る三蔵の錫杖。
その中にいる間、彼らに外の様子は見えない。
閉ざされた部屋の中にいるようなものだった。
壁(のようなもの)を叩いて怒鳴り続ける背後で、仲間たちが言う。
「あなたが三蔵殿に無理をさせるから……気を失ってしまわれたのですよ。我々は、彼の意識がない時は出られません。よくご存知でしょうに」
「あなたでないと使えない技を無理やり使うんですもの。……当分気がつかれないと思いますわ、三蔵さん」
「う……」
少しは悪かった、という気はあるらしい。
だが、またすぐに怒鳴り始める。
「三蔵、おいこら、根性出しやがれ、ちくしょう! 目を覚ませーーーっ」
その様子を見ながらゲラゲラ笑い続ける那咤の横で、
「急いてはことを仕損じる」
「急がば回れ」
「昔の人はいいこと言いましたわねぇ」
他の神将たちが、はぁ、とため息をついた。
**
敵の総大将であるアスラとの出会い。
観音からの、16年前に起こった天界の話。
めまぐるしい出来事が立て続けに起こったせいで、三蔵がようやく神将の一件を思い出したのは、天界に入ったあとだった。
悟空が持っていた例の宝玉を柔らかな草の上に置き、錫杖をかざす。
錫杖は、対象と共鳴しあって、りぃ……ん、と涼やかな音を響かせあう。
……はずだった。
ところが。
りぃん!りぃん!りぃん!りぃん!りぃん!
一方的に錫杖が鳴り響いている。
そのやかましさたるや……正月の祭りの囃子でさえ、ここまではうるさくないだろうと言うほどだ。
「ご、悟空、どうしようっ」
「中で暴れまくってるって感じだな」
「忘れてたの、すごく怒ってるみたい。この宝玉に入ってる人とどういう関係なんだろう。親の仇……とか? 出して大丈夫かなぁ、ちょっと怖い」
「出さなかったら、もっと怖いと思うぜ」
「それは言えてる……」
恐る恐る、三蔵がもう一度錫杖を宝玉の前にかざす。
出現したのは、やはり炳霊公だった。中で相当騒いでいたのだろう、ぜいぜいと肩で息をしている。
しかし、肝心の宝玉を目の前にして、予想外に炳霊公は怒鳴らなかった。
皆が驚いて見守る中で、宝玉の前にそっと膝をつき、囁くように呼びかける。
「出て来いよ、姜公……いや、太公望。そこにいるんだろう?」
1800年の時を経た、万感の思いを込めて。
そして、今まで深い青色に沈んでいた宝玉が反応した。
きらきらと、瑠璃色の輝きに包まれる。
ふわりと、その場所に人の姿が現われた。
神将たちと同じく実体ではないが、青みを帯びた漆黒の髪に透き通るような肌、夕闇の紫を映したような瞳。
まだ少し寝ぼけたような表情は、西王母や、感応仙姑とはまた違った優しげな風情だった。
(うわぁ、綺麗な人だなぁ)
男性なのは間違いないのに、見とれたのは、三蔵だけではなかった。
炳霊公が、これだけ必死に呼び起こそうとした人。
一体、どんな人物なのだろう。
その口からはどのような言葉が漏れるのだろう。
ようやく、その唇が動いた。
「あの……」
その場の全員が、息を飲んでその言葉を待つ。
注目の中、その人はちょっと首をかしげ、言った。
「どちらさまでしたっけ」
マップ全体を凍りつかせた姜公(太公望)が、その後、炳霊公(天化)にどれだけ絞られたか。
それはその場にいた仲間たちだけが知っている。
おまけ:
楊セン「1800年ぶりの登場で、きっちりボケてくれましたね、太公望殿」
竜吉公主「炳霊公……いえ、天化様、ちょっとお可哀想でしたわ」
那咤「へへーん、天化のヤツ、忘れられてやんの。俺様のことはちゃーんと覚えてたぜ」
雲霄「那咤さんは、まったく変わっておられませんから、比較するのはちょっとお気の毒かと……」
END
はい、「西遊記」です。
姜公の魂があるというので、大雷音寺まで直行しましたよ。
意地で炳霊公で箱を開けました。
でもゲームではなんの反応もなかったので、書いてしまった話です。
これじゃ天化があんまり可哀想なので、いつか、つづきを書いてフォローしようと思いまふ。
m(__)m
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