「連理光」
ことの発端は、天祥が「自分も何か特技が欲しい」と言い出したことだった。
西岐軍には、特殊な能力を持った者が多い。
石を自在に使いこなす者、風や雷を扱う者。
そんな中で、普通の武器しか使えない天祥は周りがうらやましくなったのだろう。
とは言っても、瀕死状態でしか発動しない自分の特技を伝授するわけにもいかず、天化は考え込んでいた。
可愛い弟の希望だ、できれば何か教えてやりたいが。
自軍のメンバーの顔を一通り思い浮かべた後、天化はよし、と立ち上がった。
*
「ええと……おだんごのついてない木咤」
「天化殿……妙な枕詞をつけないでいただけると嬉しいのですが――」
「わりぃ、ちょっとまだ区別がな」
「まぁ、合ってますからいいですけど。なんでしょう」
「実はな、連理光を教えてもらいたいんだ」
「連理光を? あれは一人では……ああ、天祥君ですね」
「あいつ、なんか特技が欲しいって言ってただろ。俺の特技はあんなんだし、一通り考えてみたんだが、うちの陣でまともな技って言えるのは……」
「そういえば、そうかもしれませんね」
木咤が噴き出した。
弟のナタの感情表現が激しすぎるせいで、無表情と思われがちな兄二人だが、よく見るとそうでもない。
「いいですよ。その代わり、お願いがあります」
「ん?」
「私の剣の稽古におつきあいいただけませんか?」
「俺がか? お前には普賢真人様がいるだろうが」
「あの方は……その、剣を持つとちょっと性格が変わるもので、普段の練習にはちょっと……」
「刃物を持つとやばい人ってか」
天化は、普賢真人の顔を思い浮かべる。
ニ、三度、師匠のところに遊びに来た時に会ったことがある。穏やかで優しげな雰囲気に見えたが……
仙人と言うものは、見かけによらないのかもしれない。
「構わないぜ。もっとも、俺は教えるってのは性に合わんから、実戦になるが」
「もちろんです、ありがとうございます!」
よほど嬉しかったのか、早く早く、と腕を引っ張っていく。
天祥に反応が似てるな。
しっかり者の兄とばかり思っていた木咤の、意外な面を見て苦笑する。
途中で合流した金咤にまで引っ張られ、午後は有意義な剣技の訓練となりそうだった。
**
半刻ほど打ち合った後、汗だくになった木咤がとうとう音を上げた。
「ふう、やっぱり全然敵いません……」
「そんなことはないぜ。うちの軍では二番目の剣の使い手だな。……もちろん、一番は俺だが」
自信過剰なセリフも、実力が伴っているからこそ。
そこに、木咤がつっこむ。
「嬋玉さんは?」
「あれは……番外だ」
天化は思い切り嫌そうな顔をした。
人間苦手なものはあるものだ。
しかもその相手が、道士でもないくせに、自分に近い戦闘能力を持っているとなれば。
「ありがとうございました。それではそろそろ、お約束通り。兄上、お願いします!」
「分かった!」
稽古の様子を楽しそうに見ていた金咤が、駆けつけてくる。
しばらく何を目標にするか話し合い、3丈(10メートル)ほど間合いを取った。
「「連理光!!」」
二人の声が重なる。
両者の間に雷のような気が発され、それが中央でぶつかり合った。二つの力は相殺されるどころか、融合して強い力場を作る。それが、真下に落ち、目標としていた岩は、一瞬にして砕け散った。
「……なるほど、気攻術の応用ってわけか。仕掛ける方が目標の方向に撃ち、受ける方がその位置で叩き落す……。こりゃあ、相当息が合ってないと難しいな」
「さすが、天化殿。一回でそこまで分かりましたか」
「慣れるまでは、受ける方がうまく誘導する必要があります」
「試してみますか?」
誘われて、早速見よう見真似で試してみる。
気攻術自体は得意だった。
だが、どのくらいの強さで発すればいいのかが、見当がつかない。
案の定、
「うわっ」
受け損ねた木咤が、弾き飛ばされた。強すぎたようだ。
「悪い、大丈夫か!」
「木咤!」
「あいたたた……そういえば、天化殿、気攻術を習得済みでしたね。すごい力です。まともに打たれては、僕じゃ跳ね返せませんよ」
「……ちょっと力加減をした方がよいかもしれませんね」
「強さを加減してもらって、もう一回やってみましょう」
数回繰り返してみると、だんだんコツが分かってきた。
金咤木咤兄弟のように、力の融合とまではいかないが、確かに両方の術の力で相乗効果となっている。
先ほどの兄弟技と同様、岩を砕くに至って、そっくりな兄弟は満面の笑顔を浮かべた。
「完璧です! ……天化殿に手加減してもらわなくてはならないのが、もったいないですけど」
「相性というのもあります。もしかしたら、天祥君とならうまくいくかもしれませんね」
「練習するしかないな。後で天祥も連れてくるぜ。しばらく、弟子入りだ」
「「がんばりましょう!」」
そっくりな顔が、笑顔で答えた。
****
その日は、久しぶりの戦闘となった。
いつもなら真後ろにいるはずの太公望が、気が付くとかなり離れていた。
後衛につくわけでもなく、中途半端な位置にいる。あれでは、敵に突っ込まれたらいい的になってしまう。
(何やってやがんだ、あいつ!)
案の定、その背後に敵兵が現われたのが見えた。
鈍く光る剣を持っている。
その構えは、鷲鷹乱舞剣。
まずい、このままではまともに食らう!
こちらからの攻撃は届かない。
後衛からの弓も無理だろう。
「天祥!」
ひとつだけ方法を思い出し、一番奥で皆の援護をしている弟を呼ぶ。
「はい、兄上!」
かすかに返事が聞こえた。さすが、飲み込みの早い天祥だ、すぐに分かったらしい。
ここ数日、共に練習した「連理光」。
実戦で使うのは初めてだが……。
距離があるので、手加減はしなかった。あとは、天祥の天性のカンに頼るのみ。
太公望もに当たるのではとひやりとしたが、光の攻撃はまともに敵兵だけを打ち倒した。
(これは結構使えるかもしれないな。攻撃力はいまいちだが、発動までの時間が短いし、二人の間が射程範囲ってのが。これなら、前衛の俺と後衛の天祥で、戦場のほぼ全面がカバーできる……)
光の落ちた場所に駆けつけてから考えていると、足元からとぼけた声が聞こえた。
「今のは連理光? どうして天化と天祥が……」
ぽかんとして座り込んでいる太公望。
まったく、この大将ときたら。
怒鳴りつけようとしたところに、天祥が駆けつけてきた。
「太公望さん、大丈夫ですか? ――兄上、うまくいきましたね!」
「お前がよく練習したからだ、天祥。たいしたもんだぜ」
「僕、もっともっと練習して、木咤さんや金咤さんと同じくらい使えるようになりますから!」
「すぐに追いつけるさ。俺の弟だからな。まぁ、お前の場合、弓の方が強力だから、あくまで補助ということでいいだろう。どうだ、立派な特技だろうが。……借り物だがな」
「はい!」
「さてと――このバカ、何をぼさっとしてやがった!?」
ふと、太公望を怒鳴るのは随分久しぶりなような気がした。
ここのところ、連理光の特訓にかかりきりで、ほとんど会っていなかったからだろう。
聞いているのかいないのか、見当違いの呟き。
「そっかあ、金咤と木咤に連理光を習ってたんだ……」
なんで、怒鳴られて嬉しそうな顔をしているんだ、こいつは。
さらに怒鳴りつけてみるが、どうも手ごたえがない。
まぁ、無事だったからよかったとするか……。
天化はあきらめて、次回から連理光を使う羽目にならないよう、この世話の焼ける大将から目を離さないことを決心した。
END
つぶやきネタからの小説でした。
「天祥君と天化殿の連理光ですか、見てみたいですね」(木咤)
はい、見てみたかったので書いてみました。
黄兄弟、さらに無敵ですー。
「福気」と完全リンクです。
同じ時間軸でありながら、まったく違う話となりました。
同じ場面を互いの目から書くとこんな感じ……すれ違いまくってます。
TOP/小説/
封神演義編