「花占い」
いつまでもまとまりそうにない軍議を抜け出して、どこかゆっくりできるところはないかと物色していた天化の耳に、聞き慣れた声が入った。
「「好き、嫌い、好き、嫌い……」」
……一体何をやっているんだか。
覗いてみると、二人の少女が柔らかい草の上で、競うように花をむしっていた。
「嫌い……またーっ!」
「こうなったら、いいのが出るまでやってやるわ!」
犠牲になった花が、彼女たちの周りに散らばっている。
どうやら、意中の相手のことを占っているらしい。……花がいい迷惑だ。
「まったく、ヒマな連中だな。そんなので結果が出たって、何も変わらないだろうが」
あきれて声をかけると、二人が同時に振り返り、叫んだ。
「「黙ってて! こういうのは気分の問題なんだから!」」
……この二人、こういう時だけ恐ろしく息が合う。
これ以上関わるまいと背を向けようと思ったが、この場所が昼寝にはちょうどいいことに気がついた。
背の低い草のじゅうたん、大きな木が投げかける影、心地よく流れる風。
どうせ、しばらくしたら誰かが呼びに来るだろうし。
ここでいいか。
「ま、がんばれよ。無駄な努力だと思うがなぁ」
「「うっさいわね!!」」
また悪い結果が出たらしい花を投げ捨てて、叫ぶ二人。
「「好き、嫌い、好き……」」
にぎやかな声をバックミュージックに、天化はあくびを一つして眼を閉じた。
*
太陽はもう真上に近い。あれから、二時間ほどというところか。
「…き、嫌い、好き……」
さっきと変わらぬ……いや、多少疲れた声が聞こえてきた。
(おいおい、あれからずっとやってたのかよ。信じられねぇ。女ってのはホントにわけのわからないことにエネルギー使うよな……)
妙に感心したものの、目にした光景に唖然とする。
二人の前には、犠牲になった花の屍が累々としていた。
これはちょっとあんまりでは?
すっかりムキになってしまっている二人。多分、よい結果が出るまで続けるつもりだろう。
……角を立てずに、これ以上の自然破壊を食い止める方法は……。
天化は自分の手の届くところに生えている、同じ花を手に取った。
「あー、妲己に勝てない、勝てる、勝てない……」
いきなり参加し始めた天化に、少女二人がぎょっとして手を止める。
「ちょ、ちょっと! あんまり不吉な占いはやめてよ!」
「そーよー、悪い結果が出たらどうするのっ」
非難の声もなんのその、天化は構わず花びらを引き続ける。
「勝てる、勝てない、勝てる……」
枚数が減るにつれて、つい嬋玉と白鶴も真剣になって見守ってしまう。
最後に残った一枚。
どうだと言わんばかりににやりとする天化。
「「勝てる!」」
上から伸びた手が、引き抜こうとした花びらを奪っていった。
「お?」
「ししょー!」
「太公望さん!」
「まったくもう、どこに行ったかと思えば、こんなところで遊んでるなんて」
少し怒ったような口調。
だが、手にした花びらを眺めながら、その顔は笑っていた。
「さ、皆。本陣に戻るよ」
大将自ら呼びに来たとあっては、逆らうわけにもいくまい。
伸びをして立ちあがった天化の後ろで、嬋玉と白鶴は太公望が迎えに来てくれたことを素直に喜び、にこにこしている。
「でも天化だけいい結果っていうのは、ちょっと納得いかないわよねー。あんなにやったのに」
歩きながら、まだぶつぶつと文句を言っている嬋玉に、太公望が不思議そうに振り返った。
「嬋玉。あの花は偶数花弁だから、たまたま切れてたとか、虫に食われたとかでないかぎり、結果は必ず「二つ目」になるんだよ?」
「あ、バカ、太公望! 言うな!!」
天化の制止は一瞬遅かった。
「「「え?」」」
一人は、きょとんとして。
二人は眉をつりあげて。
「天化……あんた、知ってたわねー!!」
「ゆるさないーっ」
「やべえっ」
独角烏焔獣もかくや、という勢いで走り出す三人。
あっというまに、その姿は太公望の視界から消えた。
「出陣までには戻ってきてくれよー」
彼らに声が聞こえたかどうか。
やれやれ、と肩をすくめ、
「今日は勝てる――がんばらなくちゃね」
太公望は手にした花びらを、軽く口付けてから風に流した。
END
嬋玉と白鶴って可愛いですよね。
いたなぁ、こういう人たち、クラスメートに(笑)。
私は、そのパワーを、呆然と見守っている方でした(^^;
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封神演義編