「我吃看イ尓」
仙界に来て数ヶ月。
いつものように滝に打たれた後、少し開けた砂地に、何か書かれていることに気づいた。自分以外にも、この場所で修行をしている者がいるのだろう。
読んでみて驚いた。
辛い修行や師匠に対する愚痴だった。
砂に書いた文字はすぐに消えると思ったか。その素直な罵倒ぶりに苦笑してしまう。
言葉は悪いのに嫌な感じがしないのは、辛いから逃げているのではなく、明日こそはという気合いが読み取れるからだ。
砂文字を消し、その後に書いておく。
辛苦了、哥哥、加油(お疲れ様。お兄さん、がんばって)
こんなことをしても、気づかないかもしれない。
それでも、別に構わない。
仙界に来て、多分初めて、楽しい気分で洞府へ戻った。
数日後。
我ロ下(驚いた)
その場所に、一言書かれていた。
決まり悪そうな雰囲気が伝わってくる。
ここに来る者が他にいるとは思ってもいなかったに違いない。
思わず噴き出して、また書いておく。
対不起 別在意(すいません 気にしないで)
恐らく、自分と丁度すれ違う日に来ているのだろう。
水行に来る日は、自分の属性によって決まっている。
会うことは無いけれど。
友人ができたような気がして、少しだけ嬉しくなった。
早上好(おはよう)
文字の横に、まだ固い梨が置いてあった。
我喜歡果 謝謝(果物大好きです ありがとう)
そんなわずかな言葉だけのやりとりが数年続いた。
なんとなく分かったのは、相手の修行が術よりも、武術が中心であること。
同じ位の時期に仙界に入ったこと。
そして、書かれる言葉は荒っぽく見えるが、時々使われる文字や口調から、かなり高貴な家柄の出らしいということだった。
どんな人なのだろう。
ある時、とうとうこう書いてみた。
我吃看イ尓(あなたに会いたい)
翌日から、青嵐となった。
風が砂を巻き上げ、雨が大地を叩く。
ようやく外に出られた日、いつもの場所には、何も書かれてなかった。
答えは、
看イ尓だったのか
不看イ尓だったのか
それとも、目に入らないうちに文字が消えてしまったのか。
そのことについての返答はなく、その後も他愛ないやりとりだけが続いた。
もう一度だけ、書いてみよう。
そう思った日。
我去旅人界 再見(人界に行く さよなら)
消えないように、いつもよりも、少し深めに書かれた文字。
しばらく眺めて、ため息。
名前すら聞けなかった。
戻ってくるのなら、また会えるかもしれないけれど。
また一人になってしまった。
再見の文字を指でたどると、少しだけ涙がこぼれた。
END
人称と名前を一切書かないでどこまで分かってもらえるかに挑戦してみました。
深読みできなかったらごめんなさい。それは私が下手なだけm(__)m。
天化の方は、結構ヒントを入れたのですが。(←答)
ところで、これってメル友?(笑)
途中の中国語は、基本会話集から取りましたので、間違ってはいないと思うのですが……信用しないでください(笑)。
なお「イ尓」は一文字なのですが、日本語フォントにないので、慣例となっているこの二文字で代用しました。(よく使う文字くらい、JIS標準に入れてくれー)
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