「大好き!」
「くきぇ!」
瓊霄の声が聞こえた。
確か、あの言葉は……雷震子が使っている「鳥の言葉」とやらだ。
その意味は。
『大好き!』
一人で練習しているのだろうか。
そう言えば、さっき自分に抱きついて、同じことを言っていたっけ。
可愛い妹の無邪気な姿を思い出し、浮かべた笑みが、聞こえてきた声に凍りついた。
「くきぇ!」
今度は、男――とは言ってもまだ幼い少年――の声だった。
趙公明は目をむいた。
一体、どこのどいつが、瓊霄に手を出してやがる!?
茂みをごそごそかき分けて、声のした方に進む。
「くきぇ!」
「くきぇ!」
まるで仲の良い鳥が鳴き交わしているようだ。
そっと覗きこんで、その相手を確認する。
――黄天祥。
幼いながら、最近では小飛虎とまで呼ばれるほどの武器の使い手。西岐軍の主要メンバーとして活躍している。
(と、年下じゃねぇか!)
とは思ったものの。
瓊霄の楽しそうな顔を見ていると、そんな無粋な苦情を言ってはいけないような気がしてきた。
(待てよ、年上の女房は、金のわらじをはいてでも探せって言うし、最近は年下の男が流行りみたいだし……)
下手なことを言って、妹の笑顔を曇らせるのは辛い。
(……瓊霄ももうそんな歳なんだなぁ……)
可愛い妹三人。特に歳の離れた瓊霄に対する思いは、娘に近かった。
(だがしかし! この俺サマの妹に手を出そうってんだ。そう簡単には認められんぞ!)
すっかり、お父さんモードに入っている趙公明。
さっそく、黄天祥のチェックに入る。
家柄は……申し分なし。
何せ、あの商の名門、黄家の末息子だ。この戦いが終われば、間違いなくこの国で一番の豪族である。
才能は……十分だ。
あの黄飛虎の息子だけあって、これから先の伸びも期待できるし、道術も武術も並外れて覚えがいいときている。
あと足りないのは、歳と身長だけだが……これはあと数年もすればクリアするだろう。
瓊霄は、もう仙籍に入っているから、ほとんど歳を食わないし。
問題があるとすれば、あのいけ好かない野郎がアニキだってことだが……奴は道士だ。戦いが終われば、仙界に戻るに違いない。
ってことは、黄家の跡取りはあのチビ助――。
むむ……コレ以上の相手はそうそういないかもしれない。
仕方ねぇ、認めてやる!
半ば涙目になりつつ、公明は茂みから飛び出し、瓊霄を抱きしめた。
「瓊霄……幸せになれよっ!!」
それだけ言って、駆け出す。
「お、お兄様ーっ!?」
あっと言う間に見えなくなった兄に、瓊霄はむなしく手を伸ばす。
伊達に長いこと妹をやっているわけではない。兄が何を勘違いしたのか、すぐに分かった。
――まったく、早とちりにもほどがある。天祥とは、今日習った鳥語を復習しているだけなのに。
焦りながら振り返って謝る。
「天祥くん、ごめんねぇ、兄様が変なこと言って。気にしないで」
「うん、全然。――公明殿って、本当に瓊霄さんのこと大切にしているんですね、うらやましいな」
にっこりと微笑まれて、瓊霄はどきりとした。
今までなんとも思っていなかったのに、兄のせいで、妙に意識してしまう。
(お、落ち着くのよ、瓊霄! こんな子供に何を……)
自分に言い聞かせたが、突然、はたと考え直す。
今は子供とは言っても、そんなに歳が違うわけではない。
年齢以上にしっかりしているし、頭もいい。
今、すでに西岐軍の一人として活躍しているのだから、数年もすればきっと立派な武将となるだろう。
「ね、ねぇ、天祥くん? 年上の女性ってどう思う?」
「え? 好きですけど」
公主って優しいですよね、と言っているのを、瓊霄はもう聞いていない。
「天祥くんは、大人になったら何になりたいの?」
「そうですね、父上みたいな武将か、兄上みたいな道士か……」
「道士! 道士になりなさいな! 天祥くんなら、仙人になれるわよ!」
そしたら、ずーっと一緒にいられるわ!
あ、でも、黄家に玉の輿ってのも捨て難いかもーっ。
かくして、兄しか目に入っていなかった瓊霄の男性ランキングの中に、ポーンと天祥が飛びこんだのだった。
瓊霄の、女性らしい打算的な将来計画に気づかず、天祥はにこにこしていた。
**
「――っつーワケで、もしかすると、おめぇとは親戚になるかもしれねぇ! よろしく頼むぜ!」
「はぁ?」
何言ってんだ、コイツ。
思いきり呆れ顔の天化の前で、公明は喚き続けている。
自分から可愛い妹を奪って行く相手に言えない恨みを、そのアニキにぶつけて憂さ晴らしするつもりらしい。
「おめぇはいいよなっ、弟だからよっ! この気持ちは分からねぇだろうよ……妹が嫁に行くってのは寂しいんだぞぉっ! 俺はな、俺は――くぅぅ!」
感極まって、男泣き。
天化は一応、把握している現状を伝えてみる。
「あのなぁ……「くきぇ」ってのは、あの二人、陣の連中に言いまくってたぜ。……って、聞いてねぇな、おい」
「瓊霄、幸せになれよぉーっ!」
西岐軍の陣に、すっかり見送りモードになった兄の叫びが木霊していた。
END
おまけ
太公望「くきぇ♪」
天化 「お前がそこいら中に言って回るのは、すごく問題ありだと思うぞ……」
太公望「そう?(にっこり+天然魅了)」
趙公明殿、兄バカ全開(笑)。
お兄様の目に適う男って、西岐軍にはいなさそう……と思っていたら。
しっかりいましたね、将来有望株が!
この後どうなったかは私も知りません(笑)。
妙に古臭そうなお兄様のことだから、妹が姉より先に行くのはイカン!と、雲霄、碧霄の相手も探しまわっていたりして……。
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封神演義編