拾いもの


「ねぇ、天化、これあげる」
嬋玉がぽい、と投げてよこしたものを受け止めて、天化があきれる。
「これ……って、おい、宝貝じゃねぇか! お前なぁ、仙人が数百年かけて作ったものをなんて扱いするんだよ」
「だって、使い方よく分からないし」
「……ったく、自分で持っていった癖に。拾いグセと飽きっぽいところは全然変わってねぇな」
「あら、失礼ね。誰が拾いグセですって?」
「だって、そうだろうが。ガキの頃――」
言いかけて、天化は口を閉ざした。
何か、嫌なことを思い出した、とでも言いたげに。
「何よ」
「いや、なんでもねぇ」
「ちょっと、なんなのよー!」
嬋玉の叫びから逃げるように、天化は本陣から抜け出した。

*

机に向っていた天化は、背後から聞こえる何度目かの、ことん、という音に、とうとう振り返った。
窓のところに、小さな手が二人分覗いている。
「……おい」
「あ、見つかっちゃった」
「みつかっちゃったー」
最初から気づいてるっつーに。
調べものをしていて、こいつらの相手をしている暇がないので無視していたのに。
これ以上放っておくと、こいつらが運んでくる怪しげな品々で、窓が埋まりそうだ。
「天化、これあげる」
「あげるー」
並べられた統一性のない品々に、天化はため息をつく。
「……あのな、どっからこんなもん、持って来るんだよ、お前ら」
「拾ったのよ」
「ひろったの」
「ウソつけ」
一言の元に切って捨てる。
「あった場所に戻して来い、今すぐだ!」
怒鳴られても、嬋玉と天祥は動じない。やっとかまってくれたのが嬉しかったのか、楽しそうに笑っている。
「どこだったか忘れちゃった」
「わすれたー」
よく言えば天真爛漫、悪く言えば自分勝手な、自己中。
悪気のないお子様というのはタチが悪い。
「お前ら、家の中でおとなしくしてろ!」
「嫌ー」
「いやー」
きゃははは、と駆け出していってしまう豆台風共の後姿に、大きなため息。
一体、後始末は誰がすると思っているのだ。
「天爵、天禄、ちょっと手伝え」
心配そうに覗き込んでいる弟たちに気づいて、声をかける。
二人は、素直に駆け寄ってきた。
一、ニ年前まで、この二人も奴らと一緒に駆け回っていたことを思えば、今は随分楽になったものだ。
その分、あの豆台風たちがパワーアップしているような気がしないでもないが。
「これは西門の竜の置物が咥えてた珠、これは蔵書庫に置いてあった文鎮、これは客間の掛け軸……の紐!」
次々に、謎の品々の正体を暴いていく天化に、天爵と天禄が感動したように呟く。
「……僕、兄上のことすごいって思います」
「僕も」
こんなことで尊敬されても嬉しくない。
「慣れだ、慣れ。……好きで慣れたわけじゃねぇけどな」
……ったく、誰のせいだ、とぶつぶつ言っている兄に、弟たちは苦笑しながら、指示されたところに嬋玉たちの拾ってきたお宝を運び始めた。

*

「それにしても、なんでお前ら、いちいち俺のところに運んでくるんだ?」
彼らが持ってくるものを元に戻すのに、一日無駄にしてしまったような気がする。
まだ少し不機嫌をひきずったまま尋ねると、嬋玉たちもふくれて言い返してきた。
「だって、天化ったら、全然相手してくれないんだもん」
「あにうえ、あそんでくれないですー」
子供たちなりに、言いたいことはあったらしい。
嬋玉がこの屋敷にいるのは、トウ九公が公務で訪れる数日間だけ。
貴重な数日に、天化が相手をしてくれないのが、悔しかったのだろう。
滅多に会えない幼馴染みを無視していたのは、確かにちょっと悪かったかもしれない。
少しだけ反省した時、嬋玉が何かを取り出した。
「あ、そうだ。これあげる」
「あげるー」
「……ったく、今度は何……」
嬋玉の手元で、シャン、と涼やかな音がした。
五色の紐のついた、小さな銀色の鈴だった。
その澄んだ音には覚えがあった。
「嬋玉、これ、どこで……」
「? あたしが泊まってる部屋よ」
混じりけのない銀色。
間違いない。
一ヶ月ほど前に、この屋敷に逗留した、異国の神子が身に付けていたものだった。
「なんかね、部屋の隅に、隠すみたいに置いてあったのよ、それ」
あの神子が、月李の代わりに置いて行ったのだろうか。
妙に律儀そうな奴だったし。
考えてみれば、嬋玉たちの相手をしないで机に向かうようになったのも、あれが原因のようなものだ。
あの神子に会って、この家を出る決心が固まった。
もっと広い世界を見て回ろうと。
自分の力だけでどこまでできるか、確かめるために。
そのためには、ここで得られるだけの知識をつめこんでいかなくてはならない。
ここ以上の蔵書や教師は、そうそうないだろうから。
(嬋玉の拾いグセも、たまには役に立つこともあるんだな)
手の中の鈴を見ながら、考える。
そんなことを言うと、またさらにひどくなりそうなので、絶対に本人には言ってやらないが。

しばらくして、また二人が駆け込んできた。
「天化ー」
「あにうえー」
「今度はなんだ?」
少しだけ、語調を弱めて聞いてやる。
「拾っちゃった」
「ひろったの」
二人がずるずると運んできたのは、人間だった。
「……行き倒れまで拾ってくるな!」
天化は叫んで、がっくりと肩を落とした。

**

「うまくいったな」
「トウ家の娘はどこだ?」
「こっちだ、早く!」
黒尽くめの男たちを先導しているのは、夕方、嬋玉たちに見つけられた男だった。
月李園を抜けて、まっすぐに、客間のある離れへ向かおうとする。
「お前ら、どこに行くつもりだ?」
呼び止められて、彼らはぎくりと動きを止めた。
「やばい、見つかった!」
「なんでぇ、ガキが一人じゃねぇか」
剣を抜く男たちに、天化は冷たい視線を向ける。
まったく、嬋玉にはもう少し人を見る目を養ってもらわないと。
「――ったく、見逃してやるから、さっさと出て行け」
「やかましい!」
近くにいた二人が、切りかかる。
その刃を鮮やかにかわし、自分は鞘から剣も抜かずにそのまま叩きのめす。
二人が倒れて、ようやく彼らは相手の腕前に気づいたらしい。
全員で切りつけようとした男たちの足元に、するりと月李のトゲだらけの蔓がからみついた。
悲鳴が上がる。
「な、なんだ、てめえ、妖術使いか!?」
「盗人ごときにそういうことを言われたくねぇな」
ようやく抜かれた刃を向けられて、男たちはあわてふためいて逃げ出していく。
「若様、逃がして良かったんですか?」
月李の間から、心配そうな顔で青年が姿を現した。
「捕まえたら、嬋玉に知られるだろ? ……助けてやった連中が悪人で、しかも自分を攫おうとしていたなんて、知らなくて済むなら、その方がいいさ」
その言葉に、「庭師」はにこりと微笑む。
「そうですね。……それでは、嬋玉さんにはこれを」
「? なんだ?」
「彼が、助けてもらったお礼に置いていったとでも言っておきましょう」
「奴らが落としていったのか! そいつはいいや」

翌日嬋玉は、朝早く旅立った行き倒れ、もとい旅人が残していったという、綺麗な細工がほどこされた短刀を渡された。
しかし、味を占めた嬋玉によって、天化の部屋に持ち込まれる謎の品々は倍増してしまった。

**

「手当たり次第拾ってきてたよな、あいつは。あの心理はよく分からん」
物や人に執着しない、というのも仙道を目指す者の心がけの一つ。
なんでもかんでも自分の手元に持ってきてしまうようでは、とても身一つで過ごすことなんかできるまい。
まぁ、あいつも仙道を目指すつもりもないようだから、別に構わないが。
肩をすくめ、幕営を張った時から目をつけていた、大きな桐の樹に向かう。
程よく茂った葉が、気持ちの良さそうな木陰を作っている。
ところが、先客がいた。
その下に、我らが軍師殿が「落ちていた」。
丸くなって、気持ちよさそうに眠っている。
その腕の中で、白い子猫が一緒になって寝ていた。
風が通り過ぎるたびに、その首につけられた銀の鈴が、かすかな涼しい音を立てる。
「まぁ……こういうものを拾いたくなる気持ちは分からなくもない……か」
それが、一体どれのことかは、自分でも特定せずに。
天化はその傍らに腰を下ろし、目を閉じた。

END


はい。
現在、マオルの首についている鈴でした。
ってことは、神子さんは、ちゃんと自分の鈴で舞ったってことですね。
おお、見事につながった(笑)。



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