「孤軍」
「凍てつく炎もて、逆賊共をすみやかな死に至らしめよ!」
聞仲の声は、戮仙蛍晶剣の力を引き出し、千尋の谷を凍りつかせた。
いきなり光に包まれ、太公望は宙に運ばれた。
眼下で、たちまち谷が凍りついていくのが見えた。
白く染まった地面に倒れ付していく仲間たち。
「黄飛虎殿……楊セン殿!」
自分には何もできないとは分かっていても、必死に呼びかける。
だが手も声も届かない。
一人だけ本陣へ戻され、そこにいた申公豹に、それが聞仲の持つ戮仙蛍晶剣による技と知らされた。
そして、それに対抗できるのは、火雲洞にある通天神火柱だけだ、と。
不思議だった。何故申公豹が、自分を助けるようなことを言うのか。
申公豹は、封神傍を持つ自分を嫌っている。
けれど、少なくとも嘘を言ったことはない。
仲間たちを助ける術があるのなら、行かなくては。
――たとえ罠でも。
*
「そなたに、資格はありや?」
現われたのは、護法童子だった。
洞府を護るために、仙人たちがよく使う人造人間。
疲れを知らず、感情を知らず。
与えられた使命だけを忠実に果たす。
申公豹はこの存在を知っていたに違いない。
「通してくれ! どうしても、通天神火柱が必要なんだ!」
「そなたに、資格はありや?」
機械的に、その問いだけを繰り返す。
「分かった。お前に勝てばいいんだな?」
しかし、洞府の修行で、天化でさえ手こずる相手に自分は勝てるだろうか。
疲れを知らぬ護法童子。
持久戦になると、明らかに太公望は不利であった。
数合打ち合い、今までどれだけ仲間たちを頼りにしていたかを思い知った。
攻撃に徹すれば回復が間に合わず、回復を重視すれば宝貝を使う隙を与えてしまう。
自分の技量では、とても護法童子にはかなわない。
「だめだ……ごめん、皆……」
灼彩燦火を食らって、その場に崩れる。
意識が途切れかけた。
(しっかりして、太公望さん)
(太公望殿、大丈夫ですか?)
(こんなところで寝てんじゃねぇよ)
皆の声が聞こえた気がした。
必死に目を開けると、護法童子は自分に背を向けていた。
童子の役目はあくまで洞を護ること。
恐らく、侵入者の命をとれとまでは命じられていないのだろう。
それが、護法童子に課せられた役目。
それでは、僕の果たすべき役目は?
僕はまだ生きてる。
生きて、まだ動ける。
そして、皆は僕を待っている。
他の誰でもない、僕だけを。
「だめだ、こんなところで、負けられない――」
離れていこうとする護法同時の足を、太公望は掴んだ。
「だめだよ。僕の命は僕だけのものじゃない。僕が倒れたら、皆まで……。僕は、負けるわけにはいかないんだ!」
立ち向かってくる者に、守護者は容赦しない。
無表情のまま、槍を振り下ろそうとする護法童子。
その刃をくぐって、太公望は打神鞭を構えた。
「白虎襲!」
四神の一つ白虎を呼び出す技は、大地をえぐり、相手を打ち倒した。
護法童子が倒れ付す。
立ち上がらないでくれ。
祈るように見つめる。
しかし護法童子は、よろめきながら、その場に立ち上がった。
今度こそ、だめかもしれない。
そう思いながらも、太公望も打神鞭を構え直す。
動ける限り……気力が続く限りはあきらめるわけにはいかない。
皆が――待っているのだから。
だが、護法童子が槍を構える気配はなかった。
「そなた……資格あり……」
「あ、どこへ!?」
護法童子が洞窟の中に入っていく。
出てきた時、その手には、宝貝が握られていた。
手渡されたのは、通天神火柱。
――認められたのだ。仙界の宝の護り主に。
「あ、ありがとう! これで皆が……」
「我、再び、眠りにつく……」
それだけ言って、護法童子は洞窟に戻っていった。
彼は、彼の役目を果たしたのであった。
文字通り飛んで来た白鶴と合流し、太公望はようやく笑顔を見せた。
――自分は一人ではない。
離れていても、支えてくれる仲間たちがいる。
必要としてくれる人たちがいる限り、負けられない。
敵にも……そして、自分にも。
火雲洞に来て太公望が得たものは、宝貝以上に大切なものだった。
**
「強くなったのう、太公望」
水鏡を通して様子を見ていた元始天尊が、ぽつりと呟く。
「護法童子は自分の強さを映す鏡のようなもの。武力のみで押せば、その分同じ力で返しおる」
「動きを止められるのは、唯一、その思いが護法童子を上回った時のみ……でしたね。元始天尊様、彼の心の強さはあなたがよくご存知のはずですのに、何故こんな試すようなことを?」
人界の様子を知り、崑崙派総帥の元へ駆けつけていた道徳真君が尋ねる。
「大将としての自覚を促した、ということですか? ……確かに、彼はいまだに大将然とはしていませんけれど。あの不安定さが、かえって仲間をひっぱっているように見えますがね」
「これからはそうはいかぬ。あれは、封神傍を渡して以来、ずっと迷っておる。迷ったままでは、妲妃たちには勝てぬ。あやつらは、人の迷いにつけこむ妖魔じゃ」
「心のどこかで、自分は死んでも……と思っていたら負ける、ということですか。――自分よりも周りを大切にする彼には、辛い戦いになりますね」
本当の敵は、あきらめそうになる自分。
自分との戦いは、何よりも厳しい。
けれど、それを乗り越えることが出来た太公望なら、きっとこれからも戦い抜いていけるだろう。
何よりも彼には、彼を支える仲間たちがいる。
水鏡には、命を吹き返していく谷が映し出されていた。
END
でも、この後に、「通魔鬼」が来ます。
まだまだ迷ってますね、ししょー。
ししょーと護法童子の1対1の戦い。
きつかったです。
全然修行させてなかったので、打神鞭もレベル1のまま。
よく勝てたものです。
回復している暇がないので、隙を見てどんどん攻撃していかないと、ダメージばかりが溜まってしまうし。
でも、きつかった理由は護法童子が強かっただけじゃなくて……合間にアイテム探ししてたから(笑)。
「ちょっと、そこに○○が埋まってるんだから、どいてよ!」って喚きながら戦ってました。
なんて、緊迫感のないししょー……。
↓以下、自分の作品にパロディをつける馬鹿。
課題:もし、白鶴が戦いに間に合ったら。
「負けるが勝ち」
「だめだ……ごめん、皆……」
灼彩燦火を食らって、太公望はその場に崩れる。
意識が途切れた。
「ししょー!!」
駆けつけてきたのは白鶴童子だった。
「ししょー、しっかりして!!」
叫んで抱き起こすが、太公望は目を開けない。
「……あんたがやったのね?」
きっと護法童子を睨みつける。
恐れを知らぬはずの護法童子が、確かにあとずさった。
「よくも、よくも、あたしのししょーを! 宝貝、四不象!」
降って来た獣が、護法童子を蹴飛ばす。
「板角大青牛!」
続いて降って来た大きな獣が、護法童子を角でつく。
「三宝玉如意!」
特大の宝貝技を連発されて、さすがの護法童子もスクラップになってしまった。
「うーん……」
「ししょー、気が付いた?」
「白鶴?」
「もう大丈夫よ。邪魔者はあたしが倒したから! ね、あたし、偉い? 偉い?」
「う、うん。お前はすごいよ、白鶴。さ、早く、通天神火柱を手に入れて、皆を助けなきゃ」
「あーん、ししょー、もっと誉めてよぉ〜」
*
「……」
「……」
「育て方を……間違えたかのう」
「いいんじゃありませんか? 最強の仲間がいるというのも、実力のうち、ということで」
「うぬ〜っ」
唸っている元始天尊の横で、道徳真君はくっくっと笑い続けていた。
おわり。
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