垂糸釣(チュイスーディアオ)
水の音に誘われて茂みを抜け、川岸に出ると、すでに先客がいた。
長い竹の竿で、深い河の中に糸を垂れているのは――太公望。
「お前が釣りなんて珍しいな」
魚なんか食わないくせに。
首だけをかしげて、太公望が答えた。
「マオルにお魚上げようかと思って。それに……一人になれるし」
「……そうか、悪ぃ」
考え事をしているのなら、邪魔をしては悪い。
別の場所を探そうと背を向けかける。
だが、当の本人が、止めた。
「いいよ、天化なら」
のんびりした声。
別に気を使ったとか、社交辞令というわけではなさそうだ。
なら、遠慮することもないか。
「帰る時、声かけてくれ」
それだけ言って、隣に寝転がる。
水の流れる音、鳥の鳴き声、梢のざわめき。
「平和だね」
「ああ」
つかの間の静けさと分かってはいても。
もう戦いは終わってしまったような錯覚に陥り、ふと尋ねてみる。
「お前、仙界に戻るのか?」
「ん……しばらく、人界を旅してみようかと思ってる」
「一人旅か? 絶対嬋玉と白鶴がついていくな」
天化の予想に、太公望は困ったように笑う。
「……天化は?」
「当分、朝歌で親父の手伝いだな」
「あまり黄飛虎殿とケンカしちゃだめだよ」
「うるせえ」
これから、妲妃との総決戦が待っている。
語る未来が、どこまで叶うかも分からない。
どちらもそのことは言い出さない。
太公望の、竿を持つ手が震えているのに気づいたが、天化は見なかったことにして目を閉じた。
*
「天化!」
心地よい午睡を、動転しきった叫びが破った。
「な、な、なんか、かかってる!」
竿がしなり、糸が水面に向かってピン、と張りつめていた。
今にも泣きだしそうな顔に、思わず笑ってしまう。
「釣りしてんだから、魚がかかったことに驚くなよ」
「だ、だって……うわっ」
「太公望!」
引きずられて、河につっこみそうになったのを受け止め、そのまま竿を取り上げる。
一瞬動きが止まったものの、竿は再びぐん、と引かれた。
力ずくでは糸が切れそうだ。
「こりゃ随分でかい……」
この河の主でもかかったか。
タイミングを逃さず、思い切り引き上げる。
水しぶきを上げて、巨大な魚影が宙を舞った。
赤い……1mはあるかという、鯉のような……人面……。
反射的に天化は莫邪を引き抜き、四神技を食らわせ、謎の生き物を川面に叩き落していた。
赤い影が水中深く沈んでいく。
「……」
「……」
「天化、今のは一体……」
「忘れろ! 気のせいだ! 俺たちは何も見ちゃいねぇ!!」
まだ呆然としている太公望をひきずって、天化は一目散に本陣に戻った。
*
「おや、太公望殿。釣りはいかがでした?」
楊センに尋ねられて半泣きになっている太公望を、仲間たちは、一匹も釣れなくてすねているのだと思いくすくすと笑っていた。
END
いや、その。
……忘れてください。
単なるお遊びです(^^;
(そんなに気に入ってるのか、アレを)
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