「暖かい雪の日」


「オレだ!」
「いーや、俺だ!」
「あたしよ!」
軍議の後、天祥の作った雪像のある広場はえらく賑やかだった。
那咤、天化、嬋玉という、西岐軍きっての暴れ者……もとい、血の気の多い者たちがにらみ合っていた。
遅れて現れた太公望は、驚いて天祥に尋ねる。
「……一体なんの騒ぎだい?」
「それが、明日の戦場で、誰が敵陣に一番乗りするかで言い合いになっちゃって……」
「なるほど」
あの三人ときたら、ことあるごとに実力を争ってケンカになる。
それが敵に向かってくれればいいのに、必ずと言っていいほど、こちらにとばっちりがくるのだからたまらない。
はらはらしながら様子を見ていると、那咤が偉そうに胸を張って叫んだ。
「オレは飛べるからな。雪なんかへでもねぇぜ。間違いなく、オレが一番だ!」
「忘れてんじゃねぇか、那咤。崑崙山の上は万年雪だ。この程度、慣れてんだよ。だから、俺に決まってる」
「あーら、戦場には敵がいるってこと忘れてないかしら、二人とも。その間をかいくぐって行くのは、素早さが一番のあたしに決まってるでしょ」
「ムリすんなよ、冷え性のくせに」
「お前の重さじゃ、埋もれて動けなくなるのがオチだぜ」
「きーっ! 言ったわね!!」
……きりがなさそうだ。
あきらめて、太公望は天祥の方を振り返った。
「あれ、その雪像、またきれいになったね。天祥って、こういうのも才能あったんだ」
「韋護さんに、色々教えてもらったんです」
「そうか、韋護殿は器用だもんね。……僕にも教えてもらえます?」
「ああ」
隣で繰り広げられている騒ぎなど、完全に忘れ去ったのどかな会話。
普通は、仲間ならこうあってしかるべきなのだが――。

*

さて、こちらは火属性集団。
いよいよ、兄弟喧嘩(もどき)が佳境に入っていた。
「ひでえ料理食わせやがってよ、この暴力女!」
「ちょっとは口の聞き方ってもんを覚えろ、このガキ!」
「太公望さんのそばから離れなさいよね、このならず者!」
すでに、言い争いの趣旨が変わってしまっているようだ。
誰一人、それに気づいていないのが、直情すぎる火属性の怖いところ。
「火尖鎗!」
「朱雀剣!」
「五竜輪!(←公主から借り物)」
同時に放たれたそれぞれの必殺技は、辺り一面を火の海にするのに十分な威力だった。

**

「う、うわっ!?」
突然一面が、真っ白になった。
雪原とは思えない熱気が辺りを包む。
「一体、何……」
ようやく風に白い靄が飛ばされ、視界が晴れる。
そして、何が起きたか気がついた者たちが、一斉に叫んだ。
「「あ……ああーっ!!」」
「あ」
放った術と宝貝による炎が、一面の雪を溶かしていた。
そして、かなり離れていたというのに――。
「解け……ちゃった……」
元が人の形をしていたことすら分からない、雪の塊を前に、呆然と呟く天祥。
「き――君達、ちょっとこっちに来なさいーっ!!」
怒鳴ったのは、我らが大将殿だった。

***

さすがに、今回は言い訳できないと覚悟したか、全員がおとなしく頭を下げた。
「その……悪かったぜ」
「天祥、すまん」
「天祥くん、ごめんなさい、ごめんなさい!」
天祥は、雪の塊を前にまだ呆然としている。
「大体、お前があんなこと言い出すから……」
「あらっ、あたしのせいだって言うの? それを言うなら、途中で割りこんできたコイツが……」
「なんだと!?」 
「や・め・な・さ・い!!」
太公望に思いきり怒鳴られて、またちょっとだけ反省する三人。
「まったく、本当に君たちときたら! ケンカするのはいいけど、少しは周りの迷惑も考えてくれないと!」
ようやく我に返った天祥が、太公望を止める。
「太公望さん、もういいですから」
「天祥……」
「ホントにいいんです、皆、わざとじゃないですし……」
ムリに浮かべている笑顔が痛々しい。
「どうせすぐ解けてしまうものでしたし……」
そう言いながらも、辛そうな顔は隠せない。
「僕、先に本陣に戻ってますね」
駆け出して行く背中は、ひどく寂しそうだった。

****

一刻ほどして、天祥が呼び出されたのは、先ほどの広場だった。
半ば予想した通り、例の三人がひどく決まり悪そうな顔で並んでいる。
そして、その前には。
「雪姫!」
先ほど解けたはずの雪像が、そこにあった。
いや、自分が作ったものとは少し違う。
丁寧に作られた顔は虹色に透き通り、目は紫色、服は淡い緑、髪は蒼に輝いている。どうやら、仕上げに花で作った染料を使ったらしい。……この季節にそれらを探してくるのは大変だったろうに。
「みんなが作ってくれたんだよ。……正確には、韋護殿が作ってくれて、皆が染料用の花を探して来てくれたんだけど」
最初は彼らだけで作ろうとしたのだが、すぐケンカになってしまうので、人の形にすらならなかったというのは内緒である。
天祥が微笑んだので、三人は露骨にほっとした表情になった。
それで安心してしまったのか、また余計なことを言い始める。
「まぁ、敵陣一番乗りは俺に決まってるからな、それで怒るのは大人気無かったぜ」
「なんだと、てめえ! まだそんなこと言ってやがんのか!」
「言っとくけど、あたしだってば!」
再び、一触即発でにらみ合う三人。
それぞれが武器を引きぬいたのは同時だった。
「朱雀剣!」
「火尖鎗!」
「五竜輪!」
「縛竜索!(←公明からの借り物)」
最後に発せられた言葉が、再び辺りが火の海になるのを食いとめた。
「君達に反省って言葉はないのかい? ……一刻くらいそうしてなさい。さ、天祥、行こう」
「は、はい……でも、あの……」
雪の上で、硬直している人たちは?
「いいの! これぐらいやらないと、全然効かないんだから。さ、本陣に帰るよ!」
「……風邪ひかないでね、皆……」
一番怒らなくてはいけないはずの少年がこっそり漏らした呟きを、風が三人の元へ運ぶ。
運んだからと言ってどうなるものでもなかったが。

結局、翌日の敵陣への一番乗りは、太公望だったらしい。

END


暖かいどころじゃなくて、暑い雪の日でしたね(笑)。
火属性の人が近くにいたら、冬も暖かそうです。
(夏はうっとおしそうだ……)


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