旅路
枯れた枝は、鮮やかな炎をまとって燃え上がる。
音を立てて、火花が散った。
揺らめく焔の向こうには、見慣れた姿。
二人で旅するようになって、数ヶ月。
初めて会った頃は、こんなことは考えてもいなかった。
「怖かった? 俺が?」
意外そうに言われて、ちょっとふくれる。
「だって、いきなりケンカ腰で怒鳴るし。黄飛虎殿と真剣勝負し始めそうになるし」
「……お前たちは陳桐にいいようにやられてるわ、おやじは一服盛られて寝てるわ……これが俺の参加する軍かって、情けなくなったんだよ」
「だからって、八つ当たりは良くない」
あの時、「認めない」と言われてどれほど落ち込んだことか。
その後、戦場でも、足手まといだの、とろくさいだの言われ放題。戦闘能力が彼より低いことは確かなので言い返すこともできなくて。
けれど、荒っぽい言葉や態度に隠れた、優しさに気づいてから、見る目が変わった。
いつの間にか傍らになくてはならない存在になった。
戦場での最強の剣としても、心の支えとしても。
「で、なんだって今ごろそんなことを蒸し返すんだ」
今は、果たさなければならない使命も、勝たなければならない敵もいない。
行く場所も目的も無い、気ままな旅。
だからこそ、不安だった。
「天化はなんで僕について来てくれるんだ?」
もしかして、ムリにつきあわせてしまっているのではないだろうか。
彼には、今も確固とした目的があるのに。
天化は、投げ込もうとしていた薪を手にしたまま、何を今更という顔になった。
「お前は、結構有名人なわけだ」
「?」
「元始天尊様の直弟子、商との戦いでの総大将、周ではお偉方にも顔が利くし、霊力も高い」
「それが?」
望んで得た名声ではない。
周で勧められた官位を断り、仙界にも戻らない今、それらは何の意味ももたない。
天化の方こそ、名刀莫邪の使い手として名を馳せている。
どちらにしろ、天化はそういった「名声」を嫌っているはずなのに。
彼が欲しているのは、純粋な強さのみ。
「お前にとって意味は無くても、周りからは重要なことなのさ。特に、手っ取り早く名声を手に入れたいヤツにはな」
「? 何、それ」
「お前を倒せば、一気に名が上がる。何せ、妲己と蚩尤を倒した英雄サマだ。……それだけお前は狙われやすいってことだ。人間も妖魔も山ほど寄ってくる」
そういえば戦いを終えた後、一人で旅をしている間、様々な敵に襲われた。
商の残党、妖魔の生き残り。
今思えば、よく無事でいられたと思えるほどに。
それは今でも変わらない。しかし天化がいると、雑魚は近づいてこないので、格段に回数は減った。
「それじゃ……」
僕を守るために?
考えてもいなかった言葉に、思わず何か言い返してしまいそうになる。
子供扱いするなとか、一人でも大丈夫なのに、とか。
けれど、嬉しいという思いの方が大きくて。
迷った後、ようやくありがとう、と言おうとした時。
先に天化が口を開いた。
「さて、ここで問題。俺の目指していることはなんだ?」
突然話題を変えられて、戸惑いながらも答える。
「えーと。世界一強くなることだよね」
「強くなるには?」
「やっぱり修行……かな」
「特に実戦が一番だ」
天化はニヤニヤしている。
こういう顔の時は、遊んでいるに決まっている。
下手に真面目に答えるとバカを見る。
むっとしながら、しばらく必死に考えて……ようやく気づいた。
「……僕は鼠取りのエサか!?」
「当ったりー♪」
ぱちぱち、と手まで叩いて。
「ま、当分カモネギになってくれ」
「冗談じゃない! 天化のバカ、大っ嫌いだ!」
手にしていた粗朶(そだ)を投げつけて、背を向けて横になる。
完全にフテ寝モード。
揺れる火の向こうで、まだ天化が笑っている。
まったく、天化はおもちゃとでも思っているに違いない。
どう言い返してやろう、どうやって仕返ししてやろうと色々考えてみるものの、さらにいじめられるのが目に見えているのであきらめる。
それに、他愛ない言い合いを楽しんでいるのは、お互い様だ。
――いつまで、こうしていられるだろう。
そのことは、なるべく考えないようにしていたのに。
一度思い出してしまうと、頭から離れなくなる。
背を向けたまま、尋ねる。
「……当分って、いつまで?」
「とりあえず、俺が飽きるまでかな」
「そうか――」
天化は強いから。
直に、挑戦しようなどという考えを持つ者は現われなくなるだろう。
戦う相手がいなくなれば、退屈する。
きっと、師匠のいる仙界へ戻ってしまう。
そうすれば、自分はまた一人――。
「意外と、すぐかもね」
「そう簡単に飽きると思うか?」
「だって、人間界で天化より強いヤツなんて、そうそういないじゃないか」
「ばーか、俺が言ってんのは、お前のことだ」
「え?」
「こんなに面白いヤツは初めてだから、飽きるまで見てるって言ってんだよ」
また、からかって。
こういう時は、怒るべきなのに。
何故か、嬉しくて。
嬉しいのに、何故か涙が零れ落ちそうで。
――仙人の修行を続けることを迷ってた。
一人だった時は、なんとも思わなかったのに。
たくさんの人と知り合ってからは、永い時を生きることが怖くなった。
彼らがいなくなって、自分一人残されるのは辛い。
けれど、共にいてくれる人がいるのなら、百年を超える時も、そんなに永いものではないのかもしれない。
黙っていると、眠ったと思ったのだろう、そっと布がかけられた。
――どうか、この「時」が永く続くように。
心の中で呟いて、太公望は目を閉じた。
END
二人にしておくと、ケンカになりますね。
傍から見ると、「やってなさい」って言いたくなるような(笑)。
リクエストにお答えして、甘々を狙ったんですが。
深読みすると悲しい話になってしまいました。
そう、この後に「別離」がくるのですm(__)m
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