茸狩り
「副司令殿、お目にかかりたいという方が……」
「こんな時間に、一体何の用だ。明日にしろ」
「しかし……」
取次ぎに来た兵士が困り果てた顔をしている。
しかし、機嫌の悪い天化はそれ以上聞く耳を持たない。
「うるせえな。いきなり来る方が悪いんだろうが。どこのどいつか知らねぇが、放っておけ!」
怒鳴りつけて、私室に戻ろうとする。
その背中に、
「えらい応対だね、副司令殿」
笑いと怒りを半分くらいずつ含んだ、聞き覚えのある声。
「げ、太公望!」
「帰る」
「ちょ、ちょっと待て!」
くるりと踵を返すのを、あわてて引き止める。
「なんだい、忙しいんだろう。また来るよ。――1年後くらいに」
「待てっつーに!」
こいつの場合、本気で次回が一年後になりそうで怖い。
謝り倒し、なだめすかして、ようやく引き止める。
都の副司令として活躍する天化にも苦手なものがあったのか。
意外な姿に、警備の兵士たちが笑いをこらえていた。
*
「はい、お土産」
目の前に置かれた小さな篭。
中には、白や橙色のキノコ。
「……お前、俺をいじめて、そんなに楽しいか?」
ツキヨタケにテングタケ、その他色々。
それは、薬学にも通じている天化をからかうために用意してきたものに決まっている。
一口で昇天間違いなしの毒キノコばかりであった。
「うん、楽しい」
「……」
「天化をからかえるのなんて、嬋玉か僕くらいだろう? たまには鼻っ柱を折っておかないと、天狗になっちゃう」
――余計なお世話だ。
だが、からかう目的でも会いに来るのなら。
まぁ、いいか。
「ホントのお土産はこっち」
笑って怪しげなキノコを手元に引き戻し、同じ篭に入った別のキノコを置いた。
こちらは食べられる。
食通好みの珍しいものが多い。
「ありがとよ。それにしても、なんでキノコなんだ?」
「キノコ博士っていただろう」
そんな奴もいたな。
キノコは世界を救うのだとか、訳のわからないことを言っていたっけ。
珍しいキノコを持っていくと、道士には貴重な宝珠と交換してくれるので重宝した覚えがある。
「彼に色々教えてもらってね。ぼくも子牙も、キノコ探しにはまっちゃって」
そういえば、確かにそんなことを言っていたような。
受王との戦いの後、自分の誘いを蹴って、子牙も太公望も二人して都から離れてしまった。
キノコ狩りに行くから、と言われた時には、この野郎と思ったが。
人界の被害を確認するために、各地を回ることを冗談めかしているのだと思い直して、見送ったのに。
まさか、本気でキノコがメインだったのか?
「天化も一緒に行ければいいのにね」
残念そうに言われると、ちょっと嬉しくなる。
「都が落ち着けば、キノコだろうが蛮獣だろうがつきあうさ」
「ホントに? 約束だよ?」
同い年のくせに、ぱっと顔を輝かせる様子が偉く可愛い。
――久しぶりに会えたんだし。
自分から私室に来たってことは、ちょっとくらい手を出してもいいんだよな?
「なぁ、今日は泊まっていけるんだろう?」
相変わらず白い手を、期待を隠さず掴む。
弄んでいた毒キノコが机に転がった。
「あ――」
太公望が、何か答えようとした、その時。
「太公望! 珍しいキノコが天水にあるって情報が!」
一緒に来て、兵士たちの宿舎で夕餉を食べていたはずの子牙だった。
その言葉に、太公望は天化を蹴飛ばすようにして席を立った。
「今行く! 天化、それじゃまたね!!」
叩きつけるように閉められた扉。
遠ざかっていく足音。
「……ぉぃ……」
キノコに負けた――!
取り残された副司令が、敗北感に打ちのめされていた。
それから数ヶ月。
副司令の前で、キノコは禁句となっていたらしい。
おまけ
昨々年だったか、キノコの勉強会に参加してきました。
先生は、菌類研究の有名な方だったみたいでしたが、さばけた人で、
「とりあえず、見つけたキノコ、持ってきてくださーい」
山に適当に放り出され(笑)、1時間後くらいに全員集合。
(参加者五十人くらいだったかな)
雨が少なかった時期だったのであまりないなーと思っていたのですが。
予想外に、全部で百種類くらい見つかったんです。
「えーと、これと、これと、これ。一口で死ねます」
……そんなに危険なものが、そこらに生えているんですね(苦笑)
俗信に、お酒と一緒なら平気とか、縦に裂けるのは平気とかありますけど、
あれは全然アテにならないそうです。
今まで毒はないとされていた種類でも、誰かが食べて、毒がある変種があることが確認されちゃったり。
それにキノコ類で名前がちゃんとついているものは、40%くらい、毒もまだほとんど解明されていないそうです。
……恐るべしキノコ。
とりあえず素人は、自分で取ったものを食べるのは危険、ということだけ学びましたヨ。
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