「恋の進め方」
ふりだし
開き直ったら、迷わず積極的に、がモットーである。
明日は戦場の露となるかもしれないのに、もたもたしていたら時間がもったいない。
もっとも、他にはない珠玉が手に入りそうなのに、中途半端に倒れる気など毛頭無いが。
……とは言っても、肝心の相手がいないのでは、どうしようもない。
「おい、天祥。うちの大将は?」
「今日は洞府にお出かけですよ。朝まで戻らないと思います」
(……んにゃろう、逃げやがったな)
照れているのか、焦らしているのか。
目標不在のため、一回休み
その日は、混戦の中で怪我人が続出した。
多分に漏れず、天化もその一人。
大将をかばって負ったものだったので、今はその本人、手ずから手当てしてもらっている。
――こういう状況を狙っていなかったと言えば嘘になる。
「今日はありがとう。助かったよ」
「そんだけか?」
「え?」
「ごほーびは?」
こういうことを言うと困った顔をするのが分かっていて、からかいたくなる。
その当惑した表情がえらく可愛いから。
いつも通り、何をバカなことを、と怒られるのは覚悟の上だったのだが。
さすがに自分のために怪我した相手につれなくするのはためらわれたのか、それとも少しはその気になってくれたのか。
「……もう怪我なんかしないようにね」
耳元で小さく呟いて、頬に軽く口づけ。
それだけで、そそくさと部屋から出て行ってしまったが。
(こいつにしちゃ、大した進歩じゃねぇ?)
ちょっとばかりの怪我で、これなら安いもの。
明日はもう少し派手にやってみるかと計画してみたりなんかして。
上機嫌で五つ進む
「兄上、面会の女性が本陣にいらしてますが」
「女?」
はて、心当たりが無い。
本陣に顔を出してみると、見覚えの無い女が一人。
ちょっと派手目の化粧と着物は、やはり夜の商売だろうか。
「あ、いたいた! 来てくれるって言ったのに、ひどいわーっ!」
「な、な、な!?」
ちょっと待て、そんな約束はした覚えは無い。
少なくとも、ここ数ヶ月くらいは……いや、そういうことじゃなくって……。
「私、客取らないで待ってたのよ! 今夜は来てくれるわよねv」
「――なんか勘違いしてねぇか、俺はあんたなんか知らねぇぞ!」
「まぁっ! もう忘れたの? 約束してくれたじゃない!」
「知らねぇっつってんだろうが!!」
追い払おうとするのだが、女の方もムキになったのか、引き下がろうとしない。
そうこうするうちに、真後ろから、聞きなれた声が響いた。
「約束は……破っちゃいけないよね、天化殿?」
一度呼び捨てし始めて以来、殿なんてつけたことがなかったのに。
満面の笑顔が怖い。
「い、いや、だから、その……」
心当たりはないと言っているのに、こういう時、普段の行いが響いてくる。
これだけ長いこと共にいるのに、初めて会った女の言い分を信じられてしまうのが情けない。
くるりと背を向けて消えてしまった太公望を呆然と見送って、心の内で泣きながら、女に叫ぶ。
「おい、あんた! 本当に俺なのかよ! 俺はあんたなんか見覚えはねぇぞ!」
「変ねぇ、顔はそっくりだけど、確かにこんなに乱暴な口調じゃなかったし……」
いいかげん、彼女の方もおかしいと感じ始めたらしい。
……遅過ぎるが。
すったもんだの挙句、ようやく本陣から追い返した天化に、笑い出しそうな、申し訳なさそうな、複雑な表情の楊センが頭を下げた。
「天化殿。すいません」
「は?」
「実は今日街に聞きこみに行った際、あなたの姿をお借りしたんですよ」
「…………てめえかっ!」
楊センの変化術なら、一般人が見分けられなくても仕方がない。
しかし。
「なんだって俺なんだよ!?」
「情報集めとはいえ、花街に行ったなんて公主に知られたら、うるさいことになるだろうなぁと思いまして、つい……」
「俺にだって、うるさいのが大勢いるじゃねぇか! あれ(天祥)とか、あれ(嬋玉)とか……あれ(太公望)とか!!」
「はぁ……すいません」
すいませんで済ますなっての。
がくりと肩を落とす天化。
ようやく、苦労してここまで来たってのに――!
あの潔癖な大将殿を説得するのに、また一体どれだけかかるやら。
想像して、天化はがっくりと肩を落とした。
ふ・り・だ・し・に・戻・る
……あがり、は果てしなく遠そうである。
END
我らが大将殿は、こっそり二人のやりとり聞いてたりなんかして。
でも、面白いからしばらくいじめてみたり。
題名を戴いた時に、そのまんま「すごろく」が頭に思い浮かびまして。
まぁ、どんなに一生懸命コマ進めても、どこかで「ふりだしに戻る」は間違い無い
可哀想な天化さんw
タイトルいただいたのですが、内容に合わせてちょびっと変えちゃいました。ゴメンナサイ。
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