星の声
誰かに呼ばれたような気がした。
(太公望?)
何故か、そう思った。
このところ、都に避難して来る者が増え、口々にバケモノが現われたことを訴えている。
武王の許可を待たずに調査に向かおうと兵を集めているところだった。
人界に妖魔がらみの異変があれば、仙界も動いているはず。
恐らくその任に当たっているのは、三年前に妲己たちを鎮めた太公望。
――何かあったのだろうか。
最低限の人数だけを集めて、早々に都を立つ。
嫌な予感がした。
そしてそれは、太公望が異界に飛ばされて行方不明という最悪な形で現実になったのだった。
* * *
子牙たちと共に蛮獣を追い、九竜派の復活とその陰謀が垣間見えてきた。
核心には迫っているはずだ。
それなのに、いつまで経ってもあいつがどこにいるのかさえ分からないままだった。
行方不明の愛弟子を、元始天尊が放っておくわけがない。
恐らく情報収集に長けた楊センあたりが捜索に当たっているだろう。
手がかりがない以上、自分には何もできない。
――分かっていても、苛立つ。
八つ当たりで薪を焚き火に放り込む。
鮮やかな火花が闇に散った。
こういう時の夜番は嫌いだ。
どうしても不吉な想像ばかりが先に立つ。
「太公望、早く見つかるといいな」
先に眠っていたはずの子牙が、いつのまにか傍らに来ていた。
「これ、天化が持っとくか?」
差し出されたのは、太公望の打神鞭。
人界に再び満ち始めた妖気に反応して、わずかに光っている。
反射的に受け取りかけ……天化は手を引いた。
「いや、お前が持っててくれ」
今、自分には何も出来ないと分かっているからこそ、あえて考えないようにしているのに。
こんなものを持ったりしたら、気が散って仕方がない。
「そっか」
察したのか、それ以上言わずに懐にしまいこむ。
村を救ってくれた恩人からの預かり物。
そう言って、子牙は打神鞭を大切に扱っている。
「早く、戻ってくるといいな」
またぽつりと呟いて、子牙は抱え込んだ膝に、顔を埋める。
「俺、友達いなくなるのがどんだけ悲しいか、知ってっから……だから……」
麗蘭や花鈴の前では決して見せない姿。
微かに震えている肩は見なかったことにして、もう一つ薪を火にくべる。
(――早く戻って来い)
見上げる遥かな天空の星は、地上の人間の思いなど知らぬ風に、いつもと変わらずに輝いていた。
* * *
太公望がようやく異界から人界に戻った時は、療養のためと仙界に連れ去られてしまい、一言も話せず終いだった。
直に合流するだろうと待っていれば、無断で仙界から抜け出すわ、一人で九竜派の絶界陣に乗り込むわ。
一体どこまで人に心配をかければ気が済むのだ、こいつは。
顔をあわせたら怒鳴りつけてやろうと色々考えていたのに。
「異界にいる間、何度か天化の声が聞こえたよ」
いきなり言われた言葉に驚いて絶句してしまった。
期待もしていなかった星への祈り。
すぐ近くにありながら、果てしなく遠い場所である異界に、届いていたのか。
「時間も空間もはっきりしない世界で、あの声がなかったら、とうに意識を手放してたかもしれない。……ありがとう」
言いたいことはたくさんあったのだが。
――まぁいいか。
計算づくで言っていると分かっているので、少々悔しいけれども。
「返事は、星に伝えといたから」
「は?」
「おやすみ」
やっと会えたってのに、そんだけかい。
と言いたくなるようなあっさりとした挨拶を残して、視界から消えてしまう。
ちら、と空を見上げると。
(ただいま)
確かに、その一言が聞こえた。
そういうことは、直接言えっての。
苦笑しつつ、空に向かってぼそりと呟く。
(おかえり)
新しい言葉を受け取った星が、ひときわ鮮やかに煌いた。
END
おまけ
妖魔大戦から1800年。
神界で見る星は、人界よりも高い分、少し近くなったように見える。
結界近くを荒らしていた妖獣を片付けて、炳霊公は空を見上げる。
悠久の年月を経ても、変わらない輝き。
今も、必要としている者へ大切な言葉を伝える。
「天化ー、蛾眉山寄って李(すもも)取ってきてねー」
「天化さまぁ、あたし北海の三眼魚っての食べてみたいにゃあ」
「天化様、今度の儀式で使う聖水を大帝様よりいただいてきて下さい」
――近くなった分、星はただの伝言板(しかもお使いメモ)と化しているようだ。
(この辺に、がっくり肩落とした炳霊公サマ)
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封神演義2&バトル封神編