「親友」

「嬋玉と性格が入れ替わったんだって?」
ふふ、と笑いを含んだ声で言われ、キレかける天化。
「人が忘れようと努力してんのに、思い出させるんじゃねぇ!」
霊帝界。
ここで、仲間たちの性格が、別の者と入れ替わってしまった。
天化はよりによって、あの嬋玉と。
替わっていた間の言葉使いや態度を、自分で覚えているからたちが悪い。
唯一の救いは、全員が同じ目にあったために、誰かを笑うと自分に返ってくるのが分かっているので、この件については蒸し返さないというのが暗黙の了解になったことか。
だが、その場にいなかった太公望は面白がって天化をつつく。
「見てみたかったなぁ」
「やかましい! だーれが嬋玉に憧れてるってんだよ、畜生!」
「おや、そんな理由になってるのかい?」
「ああ、心の中で憧れてる相手と入れ替わったんだとさ。……ったく、冗談じゃないぜ。那咤と入れ替わった楊センあたりも必死に否定してたがな」
「ふーん」
「そういうお前はどうだったんだよ。聞仲か?」
見かけはともかく、商、周きっての知将同士だ。
入れ替わっても、それほど違和感はなかったかもしれない。
……もっとも、ほわーっとした聞仲というのは見ものだっただろうが。
「いや、僕は海棠さんだったよ」
「へぇ……まぁ、のほほんぶりでは、似たようなもんか。妙に楽天家なお前ってのは珍しかったかもな」
そこで、あることに思い当たる。
「ということは、待てよ、残ったのは……むぐっ!」
「天化……その先は言っちゃいけない」
太公望に、いきなり口をふさがれた。
その目には、何か切羽詰った真剣さがある。
だが、その奥には、必死に笑いをこらえているような微妙な光が宿っている。
「――てことは、やっぱり、その……」
ぼそぼそ話していると、噂の人が現れた。
聞仲。
いつもならわずかな隙も感じさせないほど、武人然としているのに。
心、ここにあらずといった雰囲気で、よろよろと歩いている。
「お、おい、なんかヤバくないか? あいつ影が薄くなって……」
「大変だ、ショックのあまり成仏しかけてる! ――天化、急いで黄飛虎殿を呼んできて!」
「親父を!? わ、分かった!」
「聞仲殿、お気を確かにーっ!」
太公望の悲鳴を背後に聞きつつ、天化は仲間たちがいるはずの方へ全速力で走り始めた。

 * * *

呆然と中空に視線を投げたまま、ぶつぶつと呟いている聞仲。
「私が……この私が……」
「聞仲!」
駆けつけた黄飛虎の叫びにも、返事がない。
「お前の気持ち……わしはよーーーく分かるぞ!」
黄飛虎が、肩をつかみ、がくがくと揺さぶる。
「わしも、あの雷震子と入れ替わってしまったのだ! この鎬京の司令、黄飛虎が、5歳の童子と!!」
「黄飛虎が……雷震子と……」
「しかも、周りに皆がいてすべて見られていたのだぞ! それに比べたら、聞仲、お主は何も気に病むことなどない!」
その言葉に、ようやく聞仲の目に生気が戻った。
「黄飛虎……!」
「聞仲……!」
「我が友よ!」
親友の手をがしっと掴む。
「おお、心の友よ!」
がしっと、握り返す黄飛虎。
鎬京で、処刑の場から救い出され、新たに友情を誓い直した時のような感動的な場面。
――なのだが。
その横で、人の気も知らずに戯れている子供たちがいる。
「らいちゃんたちも、ともだちだよねー」
「花鈴と雷ちゃん、仲良しだもんねー」
手を取り合ってくるくると踊っている幼子二人に、元商国の重臣二人が石化したのは言うまでもない。


END

おまけ

天化 「俺、嬋玉と変わったことくらい、たいしたことじゃないような気がしてきたぜ……」
太公望「そうそう。入れ替わった相手のことだけどね」
天化 「ん?」
太公望「あれって憧れの人がどうとかじゃなくて、単に隣にいた人だと思うよ」
天化 「…………そんだけかいっ!」


あとがき

やってしまいました。
聞仲さんでお笑い。
いや、本人たちはいたって真面目、それどころか封神されちゃいそうなくらいショック受けてるんですけど。

霊帝界での性格入れ替わり。
雷震子←→黄飛虎
のインパクトもすごかったですけど、やっぱり一番は
天化←→嬋玉
でした。
天化さん、シナつくらないで、お願い……。
天祥いなくてよかったですね、ほんと。

シナリオ担当者が太公望、聞仲が好きでどうしてもくずしたくなかったのか、
ムービーではこの二人+アルファがいなかったわけですが。
当然同じ世界にいるのだから、彼らも誰かと替わったに違いない。
そして残っているのは……。

ごめんね、聞仲サン(合掌)


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