「風招き(かざおき)」
副題:いかにして人面魚が下界に叩き落されたか
雲間に霞む下界。
蓬莱山の頂きから眺める人界は遥か遠い。
「そんなに端に行くと危ないぞ」
連れは、切り立った崖近くを軽い足取りで散策している。
それが振り返り、いたずらっぽく微笑むのが見えた。
まとっている柔らかな衣が風に翻る。
次の瞬間、その姿は崖の向こうに消えていた。
「!?」
全身が総毛立つ。
ようやく取り戻したと思ったのに。
また自分はあの存在を失ってしまうのか?
「太公望!」
咄嗟に後を追う。
――崖の真下には段差があった。
そこに、ちょこんと姜公が座っていた。
「……」
「……」
目が合ったのは、一瞬。
「――っ!!!」
「天化ぁっ!?」
自分宛の叫びは上から降ってきた。
*
「……お前は神将を殺す気か」
ふてくされている炳霊公。
神将は自在に宙を浮遊できる。
だが、驚いたのと、慌てたのと、安心したのとで、反応が遅れてえらい目にあったのだ。
擦り傷だらけの神将というのも珍しいに違いない。
「だって……まさか、確認もしないで飛び降りるなんて」
手当てをしながらも、姜公はくすくすと笑いっぱなしである。
そんなにも心配してくれたことが、嬉しくて、くすぐったくて。
だが。
「……心臓が止まるかと思った」
真面目にぼそりと呟かれた言葉に、胸を突かれた。
「今度失ったら、俺は――」
かすかに震える声。
自分のほんの出来心のいたずらが、どれほど相手を心痛させていたかに、今更ながら気づく。
「ごめん、もうこんなことは二度としない」
「絶対だな?」
「悪かった、本当に……」
「姜公殿〜」
いいところだったのに。
後ろの木の間から、おなじみとなった人面魚――今はなんとか人型――が登場した。
「そんな男に触れてはなりません〜」
「……(疲)」
「……(怒)」
穏やかだった空に、雷鳴が閃く。
崖から赤い人面魚を遥か下界へ蹴り飛ばしたのは……姜公だった。
*
姜公「もうあんなの放っておこうよ!!」
炳霊公「一応預かりモンだし……生死くらいは確認しておかないと……」
今後姜公を決して本気で怒らせるまいと堅く心に誓う炳霊公。
そして、「梅香里」に続く。
END
昔書いたメモの中に、こんな話が残ってました(汗)
せっかくなので、文章化してみました。
神界から落とされて、悟空に食べられそうになった人面魚。
蹴落としたのは、炳霊公じゃなくて姜公だったんですね。
姜公最強ー。
蛇足ですが状況説明。
「梅香里」の前ということは、姜公が尚の身体に入った後。
実体になってるのに、魂だけの時みたいに、危ないところでもひょこひょこ行ってしまうので、炳霊公は胃が痛い……。
今度何かあったら、尚と姜公、同時に失ってしまうわけですから、気が気じゃないのです。
そんな思いを知ってはいても、やっぱりうろうろしてしまう姜公。
だってししょーですもん(笑)
まぁ、どんなに真面目になってみても、アレがいる限り、甘々にはなりません。にゃはは。
【風招き(かざおき)】
風を呼び起こすこと。かぜおき。
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