「大博打」
「やぁ、久しぶりだね、炳霊公君」
「帰れ」
相手を確認するなり、扉を閉める炳霊公。
嫌なものを見てしまったと、不機嫌なまま宮の奥に戻る。
――が、追い返したはずの相手は、客室でお茶を飲んでいた。
「なんで先に中にいる! ――お前も茶なんか出してんじゃねぇよ!!」
「一応兄弟子だし、なんとなくこうしないといけないような気がして……」
当然のようにくつろいでいる分水将軍を前に、姜公は自分でも首をかしげている。
「飲んだら出てけ!」
「おやおや、そんなこと言っていいのかな。――君たちに関わる人の所在について情報を持ってきたのに」
「なんだと……見つかったのか!?」
思わせぶりな分水将軍の言葉に、ようやく炳霊公は耳を向ける。
「どういうことだい、天化」
「妖魔大戦で封神された連中のほとんどが、この神界にいることは知ってるよな?」
「申公豹さんや趙公明殿にはお会いしたけど……他にもいるんだね」
「先日のアスラとの戦いの際、地上に降りたのは俺たち神将だけじゃない。他の連中も、合流できれば三蔵の力になれるようにと、地上に降りていたはずだ。その中に……」
「天化に関わり深い人……あ、もしかして天祥?」
「神将クラスの力の持ち主なら、アスラを倒して地上の気が安定した後、自分たちで帰ってきたんだがな。――おい、それでどこなんだ?」
お茶を飲み終わった分水将軍が、おもむろに立ち上がる。
「案内しよう」
「あ? 場所さえ教えてくれりゃ、俺たちだけで……」
「いや、僕も一緒に行くよ」
「……何企んでやがる?」
「いやだなぁ、好意に決まってるじゃないか。ずっと探してただろう?」
「めっちゃ怪しい……」
思いきり炳霊公が分水将軍を不信の目で睨んだ時。
「面白そうじゃん! オレも行くぜーっ!」
「よろしければ、わたくしも……」
「俺も行くぜ!!」
いきなり覚えのある声が飛びこんできた。
窓から身を乗り出し……いや、部屋に身を乗り入れている者たちが三人ほどいる。
「那咤、雲霄殿、趙公明殿」
「ひっさしぶりに悟空と勝負したいしよ!」
「妹たちが、まだ下界にいるのかもしれないのです。ご一緒させてくださいましな」
「碧霄、瓊霄、必ず見つけるぞーーっ!」
「――どうでもいいが、お前らなんで窓から登場するんだ」
炳霊公のしごくまともな疑問は、何気なく黙殺されたようだ。
* * *
「おい、本当にここかよ?」
申公豹に案内されたのは、吐火羅の町の酒場であった。
「本当だとも。地上に降りる際、彼らは観音の力で宝玉の形を取ったらしいんだよね。おかげで大切に扱われたものの、人間たちに取引されて今は……賭けの景品になっている」
「け……景品だと!?」
「取り戻す……ぜぇったい取り戻す!!」
俄然燃えあがる炳霊公と玄壇真君に、姜公が冷静にブレーキをかける。
「でもどうするんだい。僕らは実体じゃないから直接交渉するわけにもいかないし……」
「お、いいところに奴らがいるぜ!」
那咤が、見覚えのある者たちを見つけて叫んだ!
それは、アスラとの戦いで辛苦を共にした人間+妖怪たちであった。
* * *
そして数刻後。
「2000元。まぁまぁかしら。ね、炳霊公様?」
『そうだな。涼鈴、お前素質あるぜ』
「うふふ。炳霊公様のアドバイスがいいからよ」
『本当はもう少し張りたいところだが、すっちまっちゃ元も子もねぇからな。……他の連中はどうだ?』
「さて、どこかしら」
「だから言っただろ、那咤! あそこは右の札だったって!」
『うっせーな、悟空! てめえだって左かもって言ってただろうが!』
「あーあ、すっからかんになっちまった……」
『ちぇ、てめえと組むんじゃなかったぜ』
「なんだとこの野郎!」
『ごめんなさいね、八戒さん』
「い……いやぁ、美女のお役に立てるなら本望でっせ。ただ、自分に才能なかったばっかりに役に立てなくてすまんです」
『まさか借金の代わりに皿洗いだなんて……ホントにごめんなさいねぇ』
「ははは……」
「だめね、これは……」
『あいつら連れてくるんじゃなかったな』
「えーと、悟浄はどこかしら。やだ、お酒飲み過ぎて倒れてる! 中入ってるの誰だっけ!?」
『趙公明だな。……ったく』
「いやーん、八戒と悟浄の借金払ったらお金なくなっちゃったぁ!」
『1からやり直しかよ! ん、待てよ、もう一人は?』
「三蔵、頭はいいけど、賭け事なんかやったことないから、頼りにはなりそうもないわよねぇ」
賭場は酒場の奥にある。
何時の間にか、人だかりができていた。
その中心にいるのは――
「三蔵!? な、なんだか目が据わってる……」
『あいつには、太公望が入ってたよな……あいつも賭け事なんぞしたことないと思ってたが……』
『「勝負!」』
声が重なって聞こえた気がする。
「賭けのおじさん、蒼ざめてるわよ」
『あのコインの枚数……次勝つと、この酒場買い取れるんじゃねぇか?』
「うっわー、三蔵! 姜公様! がんばれ!」
札が開かれる。
おおっという人々の歓声。
余裕の笑みを浮かべる三蔵+姜公の前で、賭場の主がひっくり返っていた。
* * *
「みんな、お待たせー」
「三蔵はん、お疲れさんです。……で、酒場買い取ったんでっか?」
八戒の問に、三蔵が無邪気に笑う。
「さすがにそういうワケにはいかないから……お金を少しと、神将様たちが探していた宝玉をもらってきた」
「三蔵は欲がないな。そこが良いところだが」
「神将様方、こちらが宝玉です。ただちょっと問題がありまして……」
三蔵が、懐から取り出したのは、確かに宝玉だった。
だが。
『―――5つ?』
よく似た輝き、大きさの玉。
てっきり、天祥の分と玄壇真君の妹たちの分で3つだと思ったのだが。
『確かに全部神界の気配がする……』
『おおーっ! これとこれ! 碧霄と瓊霄に間違いねぇ!』
悩む炳霊公の前で、玄壇真君が迷いなく2つを手に取った。
止める間もなく、玄壇真君と感応仙姑が玉に力を送りこむ。
ふわりと姿を取り戻したのは、確かにその妹たちだった。
『『お兄様、お姉様ーーー!』』
『妹たち! 相変わらず美人で何よりだ!!』
四兄妹、感動の再会である。
それはさておき。
『さて、残りは……』
『やぁ、手に入れたようだね、おめでとう』
現れたのは、酒場にいる間、ちゃっかり姿を消していた分水将軍であった。
『おい、申公豹! 残り3つってのはどういうことなんだよ!?』
『やだな、まだ分からないのかい? 君たちに関わりが深い者達だって言っただろう』
『もしかして……』
『嬋玉と白鶴?』
『はっはっは。早いところ太公望君と会わせてあげたらどうだい? きっと喜ぶだろうねぇ。それじゃ僕は失礼するよ』
呆然と消えるのを見送り、炳霊公がようやく呟く。
『申公豹の野郎、さては白鶴を戻すのが目的だったな』
『で、どうするんだい、天化』
宝玉をつつきながら、困った表情の姜公。
天祥以外の二人が現れた場合、一番大変な目に会うのは、彼である。
『どうするって……白鶴と嬋玉にいきなり対峙する勇気はねぇ』
『趙公明殿みたいに、天祥を選び出してごらんよ』
『無茶言うな! あいつの妹センサーは特別製だろうが!』
『だったら、出してみないと分からないねぇ……』
『三分の一の確率かよ、畜生〜っ』
いろんな意味で、人生最大の大博打になりそうであった。
END
リクエストで
、
起 分水将軍が炳霊公に会いに来る。
承 天祥、嬋玉、白鶴の魂を手に入れるため、分水将軍と炳霊公と姜公と自発的についてきた那咤と感応仙姑と下界に行く。賭けをすることになり、偶然とおりかかった三蔵たちを金ずるにする。
転 妹を心配して公明がやってくる。
結 玉を手に入れる。
と、大筋を立ててくださったので、私のところの設定で味付けです。
さすがに人数が限界だったので、桔花さん+竜吉さんは今回お休み。(この人出すと一緒に楊センさんも出したくなる。
お兄様には早々に登場してもらっちゃいました。
……意気込みの割に、とっとと寝てるし。
でも妹センサーは健在。
(ちゃんと「水」の沙悟浄に入っていたの、気づいていただけたでしょうかv)
最後の節で那咤と悟空がいないのは、賭けのことでどっかでケンカしてるから(笑)。
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