「負けるが勝ち」
(なんでこんなことになったんだっけか?)
仲間たちの無責任なやんやの喝采を浴びつつ、天化は何度目か、自問する。
目の前には嬋玉。
やる気満々でこちらに剣を構えている。
その構えの堂に入ったこと。
狙われているのが自分と分かっていても、感心してしまう。
時をさかのぼること数分前。
敵との交戦を終え、傷の手当てを受けていたところに、えらい形相の幼馴染が飛び込んできた。
「ちょっと、いつまで太公望さんにへばりついてんのよ!」
「なんだよそりゃ! 回復術受けてるだけだろ!?」
「そんなの自分でやりなさいよ、道士のくせに!」
「こいつ守ってて怪我したんだ、これくらいバチ当たらないだろうが!」
「太公望さんの守りは、あたしに任せておけばいいのよ!」
「よく言うぜ、頼りなくて任せてられるか!」
「なーんですってぇ!? 頼りになるかならないか、勝負よ、表に出なさい!!」
「おお、望むところだ! ……って、あれ?」
売り言葉に買い言葉、ようやく我に返った時には、嬋玉はもう駆け出していた。
傍らで呆然と成り行きを見守っていた太公望が、深く深くため息をついた。
そして現在に至る。
(まさか女相手に本気だす訳にもいかないだろ。かといって手を抜くと、こいつの剣の腕、馬鹿にできないものがある、万が一ってことも……いやいや)
色々考えているのだが、嬋玉は一向に意に介さない。
「さぁ、行くわよ!」
「お、おう」
「四連斬!」
言うが早いか、女ならではのしなやかな動きで、剣が振られる。
一撃二撃をかわし、あとは剣で受け流す。
女とは思えない攻撃の鋭さ。確かに、「任せろ」と言えるだけの腕ではある。
(昔から、武術の方は目を見張るものがあったが、それにしても上達しやがったよなぁ……)
半分くらい、料理とか裁縫に才能が向けばよかったのに、と思ったのは内緒である。
剣を叩き落せば、決着がつくだろうと思っていたのだが、嬋玉はなかなか隙を見せない。
それどころか、攻撃の手はまったく容赦がない。
「朱雀剣!」
「どわーーっ!」
必殺技を出されるに至って、完全に劣勢に回る。
太公望の傍らの座を得るためなら、本気で幼馴染を片付ける気ではないだろうか。
本気で身の危険を感じ始める。
「じょ、冗談だろ、おい」
いわれのない嫉妬で怪我をするのも馬鹿らしい。
悔しいが、ここはさっさと退散して、仙界にでも行ってほとぼり冷めるまで待つか……
「ちょっと、逃げる気?」
背を向けた途端、怒りに燃えた声が追いかけてきた。
「五光石!」
嬋玉の手から放たれる五つの石は、的確に標的を追いかける。
五光石の放つ輝きに驚いて、人垣がざっと分かれる。
1、2、3、4……避けた石を数えつつ、人の輪を抜けようとする。
あと一つ、というところで、行く手に立つ人物にぎょっとした。
野次馬の後ろで、様子を見ようとうろうろしていたらしい太公望だった。
逃げ遅れて、きょとんとしている。
最後の石は、真後ろ。
ここで避けたら、こいつに当たってしまう。
「この馬鹿野……」
苦情は途中で途切れた。
口を「あっ」という形に開いた顔を見たのを最後に、視界が暗転した。
* * *
「大丈夫かい?」
聞き慣れた声が上から降ってきた。
膝枕されているのに気づいて、あわてて飛び起きる。
「いてててっ!」
「急に起きちゃだめだよ。大きなコブできてるんだから」
ぐい、と引っ張り戻される。
「まったく二人とも子供みたいに」
ため息と共に呟かれた言葉が耳に痛い。
お前に言われたくないとか、誰のせいだよとか、口の中でもごもご言っていると、
「かばってくれて、ありがとう」
ふわりと微笑まれた。
……気づいていたのか。
面と向かって礼を言われると、愚痴もいえない。
ひやりとしたものが後頭部に触れた。
「ちゃんと冷やしておかないとね」
どうもうちの大将は、怪我人や病人を幼い子供のように扱うクセがあるようだ。
子守唄でも歌いだしそうな雰囲気に、照れくさくて非常に居心地悪いのだが、なんとなく振り払う気にもなれない。
皆が視線を捕らえようとムキになってる人間を独り占めにしている、ちょっとした優越感。
心地よい布の冷たさと、治療術の名残りの暖かさ。どこからともなく漂う甘い香り。
思わずうとうとしかけた時、ふと現在の状況に思い至って目が覚める。
(やべぇ、こんなとこ、あいつに見られたらまた……)
その時、狙ったかのように、天幕の入り口の布がはねのけられた。
「太公望さん、目一杯値切ってきたわよ、見て見て……」
買い物での戦利品らしい果物の籠を抱えて、飛び込んできたのは嬋玉。
ぴきん、と天幕内の空気が(太公望の周りを除いて)凍りついた。
本来、果物を投げるというのは色っぽい意思表示なものなのだが。
完全に投擲武器と化した杏や梅。
値切られた果実はまだ固く、再び天化の視界を暗転させたのだった。
END
この後、天化は嬋玉を対等なライバルと認め、ケンカするにも手を抜かないようになり、朱雀の応酬が繰り広げられることになる……とかなんとか。
何故嬋玉がかりかりしているのかは、「夢の続き」参照のこと(今更第一作につながるとは 笑)。
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