「喧嘩するほど」
マンガ覗かずに来ちゃった方は、こちらからどぞ。
→
玉藍樣からのお題マンガ。
蓬莱の宮の近くは、名に恥じぬ美しい自然の庭園となっている。
屋外を好む姜公が散策し、時間があれば、炳霊公がそれにつきあうこともある。
池の端を通りかかった時、案の定、人面魚が飛び出してきた。
本体は龍であるし、人型を取るとそこそこ美形ではあるのだが、蓬莱の宮の住人にはすっかり簡易型の人面魚で認識されている。
「姜公殿! なぜあなたはそのような男が良いのですか! 私の方が絶対にあなたにふさわしいと思います!」
短い手=鰭を振りまわし、いつものように喚き続ける人面魚を雷撃で黙らせた後、ふと姜公が呟いた。
「そういえば僕、どうして天化を好きなんだろう?」
よりによって、そんな根本的なところから見直されるのか、おい。
言葉を失った炳霊公の前で、わが意を得たりとでも言いたげに、玉翠が復活し、ここぞとばかりに取って置きの人型をとる。
「おおっ、ようやくお気づきになりましたか! あなたが炳霊公への愛に疑問を持たれるのは当然です! あなたを二千年近く放っておいた上に、自力では見つけられなかった男など!」
人面魚の言葉は、炳霊公の数少ない急所を結構的確にざくざくと貫いた。
一応正しいとは思っても他人に言われるのは腹が立つ。
姜公の雷撃にあって一瞬にして人面魚に戻る玉翠。
「今言ったのは、そういう意味じゃないんだけど」
あられもない姿で、ぐりぐりと踏みつけられて、悲鳴を上げつつ嬉しそうにもだえる人面魚。
「ああっ、ヒドい! でもなんだか幸せです!」
「うるさい」
最近ちょっと危ない傾向に走っているようだ。
「あのねぇ、確かに天化は、初めて会った時に僕のこと大将とは認めないとか言って人のことぐさぐさ傷つけたし、戦いともなれば敵陣にさっさとつっこんで瀕死になって心配かけまくったり、道士のくせに金持ちなものだから食べるものとかすごくうるさかったり……アレ?」
姜公の言葉が、石化した炳霊公にさらに突き刺さる。
しばらく沈黙した後、姜公が振り返った。
「どこが好きなんだろう」
「ないのかよ、おい!」
さすがに怒鳴った炳霊公を、姜公は冷ややかに眺める。
「キレイな女の人見るとすぐふらふらしてたし、あげくはぼくを置いて死んでしまうし……どこを好きになれと?」
反論に詰まった炳霊公は、思わず別のことで言い返す。
「そういうお前だって、大将の自覚なんかろくになくてお子様軍団と遊んでるわ、敵の前面にひょこひょこ出てくわ、じっとして待ってろと言ったのに西域まで出歩くわ、玉なんかになって気配封じ込めちまったから神界の誰にも見つからないわ……自分のこと棚に上げてよく言うぜ!」
売り言葉に買い言葉、言い終わってからしまったと思ってももう遅い。
「ひ……ひどいや、天化のばかーっ!!」
どかーん、と鳴り響く特大の雷。
「姜公殿! 私の胸をお貸しします、さぁ、気の済むまでお泣きになって、そのあとは南海へ……」
人面魚のまま両手=両鰭を広げた玉翠の方へ姜公はずんずんと歩いていき、その勢いのまま踏み倒していった。
池の傍に残されたのは、感電した炳霊公と、腹に足跡の残る人面魚。
最近ではさほど珍しくも無い光景だった。
* * *
宮に戻っても、一度火がついた口喧嘩はなかなか収まらない。
「なにさ、ちょっとくらい強くて格好よくてお金持ちだからって、いばらないでくれっ!」
「なんだと! 少しばかり頭の回転が速くて見目がいいからって、開き直るなっ!」
……お互い、相手を誉めていることに気付いていない。
「そんなに嫌なら、追い出せばいいじゃないか!」
「そんなに気に食わないなら、出て行けばいいだろう!」
「神樣になったってのに、放っておくと天化って無茶ばかりするじゃないか、だから居てあげてるんだよっ!」
「そっちこそ、無用心にほてほて歩き回りやがって、見ちゃいられないんだっ! ここでじっとしてろよっ!」
おやつを食べていたマオルと、書類を片付けていた星辰が、一息ついて嵐を見学する。
「あたしさぁ、両方とも、「ここに居たい」「ここに居ろ」って言ってるように聞こえるんだけど」
「裏も表もなくその通りだ」
「抜けてるわよね」
「さて、片付け片付け」
「お昼寝でもしよーっと」
「食べてすぐに寝ると牛になるよ」
「うっさいわね! 余計なお世話よ!」
宮を震わせるような大喧嘩も、気が済むまでやらせれば直に収まる。
知っている仙獣たちは止めようともしない。
止めてもらえないまま日が暮れ、疲れ果てて肩を寄せたまま眠ってしまったりしている。
仙獣たちは、気を使うふりをして、順番に毛布をかけていく。てんこ盛りにかけられた布に埋もれ、うなされて一晩。
(神樣以外にやると危険です。良い子は真似しないで下さい)
翌朝起きて顔を見合せた時、「今回は何故喧嘩していたのか」忘れてしまっていたりする。
そして、また池に行って元の木阿弥になったりもするが、それはまた別の日の話である。
END
副題;「痴話喧嘩」
玉藍さんから、お題のマンガをいただきました!
キャラ指定でもしてあったみたいに、人面魚=玉翠はイメージ通り!
こいつはこの姿で確定です。
(こんな奴に、これほど手間をかけていただいて恐縮です……)
『この落ち込んでしまった天化さんを幸せにしてあげて下さい』
というリクエストだったんですが……し、しまった、幸せになってないかも……。
* * * * *
「喧嘩するほど」のおまけ
青葉「こんなところで眠ったら風邪ひきますよう」
ばさり
若葉「まだ寒そうですね、はい」
ばさり
紅葉「何何? 布被せるの?」
ばさり
朽葉「どのくらいで気付かれるかなぁ、主さま」
ばさり
青葉「ねーねー、この下何が埋もれてるの?」
ばさり
若葉「洗濯物おいとくのここだっけ?」
ばさり
………………
マオル「こんなに山ほど被せられても目を覚まさないって、神将としてどうなのかしら」
星辰 「ああ、最初に僕が安眠香を焚き染めた布をかけたせいだよ」
マオル「……そのあと皆がかけるの分かっててやったわね、この性悪狐」
星辰 「とどめに、ふかふかの羽毛布団をかけていった君に言われたくないね」
TOP/小説/
西遊記編