「大熊猫の恩返し」


「どうしました、天化殿?」
不機嫌そうに見ている目に気付き、楊センは振りかえった。
「いや……あんた程の術の使い手が、なんで大人しくあいつに従っているのかが分からなくてな」
頼りない大将に、天化は何かにつけて文句を言っている。
そのたびに、楊センは仲裁し、太公望を庇うような立場となる。
剣術、道術の腕でライバルと認める楊センが、最初から素直に従っているのがどうも理解できないらしい。
「それはですね……」
懐かしそうに笑って、楊センは話し始めた。

* * *

樹上から、鷹のような鋭い目、いや鷹そのものの目が見下ろしていた。
若くして仙人の称号すら得ているというのに、人界、仙界を行き来しつつ修行を続けている楊センであった。
今日は、あの崑崙のトップである元始天尊が新しい弟子をとったというので、興味を覚えて覗きにきたのだった。
猛禽の目は、すぐに目標を捉えた。
玉虚宮の近くにある、清水が湧き出す泉。
仙界の話題になっている少年が、その傍らにいた。
まるで馬の飼い葉のように積み上げた青々とした草の前で、ちょこんと座り込んでいる。
どうやら、薬草を多く取りすぎてしまったらしい。
両手に余る草の束を前に、どう持ち帰ったものかと悩んでいるようだ。
……普通、ここまで摘みとる前に、気づきそうなものなのだが。
楊センの中で、新入りの評価が「天然ぼけ」になる。
(少し話してみるか)
薬草摘みもそれを運ぶのも修行の一環。
安易に手を貸すのは彼のためにはならないかもしれないが……。
「お手伝いいたそう」
少々大仰に声をかけると、少年が振り返った。
目の前にいるモノに一瞬きょとんとした後、首を軽くかしげて、にっこり。
「ありがとうございます、パンダさん」
そう、楊センはパンダに変化したのだ。
しかも二足直立歩行の見るからに怪しげなパンダに。
悲鳴を上げて逃げていくかと予想していたのだが、なかなかたいした度胸ではないか。
仙界トップの弟子の座に、少しも驕っていない澄んだ目も気に入った。
その日、「元始天尊の弟子」は、楊センの中で友好度が二つ三つ上がった。

* * *

数日後。
泉に遊びに行くと、砂地に桃が置いてあった。
あの子の忘れ物だろうか?
白鶴に言付けておこうかと拾い上げた時だった。
足元の砂地が、ざざっと動いた。
他のものに変化しようと思ったのだが、近くに覚えのある「気」を感じてためらっているうちに、足をからめとられる。
そして、一瞬のうちに樹に吊り下げられてしまった。
単純な作りの獣用のワナだった。
まさか仙界の修行の場に、こんなものが仕掛けてあったとは。
小さな虫や鳥に変化して逃げ出すのは容易だったが、こういう目に合うのは久しぶりなので、吊り下げられたままくるくる回ったりして、「ひっかかった」気分を楽しんでみる。
「パンダさん!」
ぱたぱたと軽い足音が駆けつけてきた。
「誰がこんなことを……大丈夫ですか!?」
あわてて、葛を編んで作られた縄を術で切る。
当然落下するパンダ。
「ああっ、ごめんなさい! あっ!」
駆けつけようとしてすっ転び、パンダを下敷きにする。
「すいません、すいません!」
米つきバッタのように謝る少年の評価は、楊センの中で「並ぶ者の無い天然ぼけ」になった。
パンダの傷を術で治しつつ、少年は何かぶつぶつ言っている。
「痛いの痛いの、このワナ仕掛けた人に飛んでいけー」
パンダ氏の怪我の原因のほとんどが自分のせいであることは忘れ去っているらしい。
とは言うものの、怪我はきれいさっぱり消え去った。
さすが、元始天尊の弟子、術の冴えは目を見張るものがある。
「ありがとうございます、このご恩はいつか必ず」
律儀にそういったパンダに、少年は必殺の笑顔を見せた。

* * *

「というわけで、私は太公望殿に恩があったのです。ですから私は何かお役に立てばと思い、西岐軍へ……どうなさいました、天化殿?」
いたずら好きな楊センの昔話を、適当に聞き流していたはずの天化が、途中からあきらかに動揺していた。
「い、いや、別に……俺ちっと修行いってくらぁ!」
莫耶をつかむなり、わたわたと走り去っていくのを見送って、楊センはニヤリとした。
「なるほど、あなたでしたか……」

その後、楊センのからかいの対象に、天化も組み込まれることになった。

END


「封神2」には、子牙に対する友好度というものがあるのです。
(ある程度、「封神2のつぶやき」に掲載しています)
出会ったばかりの頃はかなり適当な印象で(笑)、お願いを聞いていくとだんだん評価が上がっていくという。
うちでは、お願いが聞きやすかったせいか、天化さんの友好度がぱかぱかあがっちゃってました。

ゲームでもCDでも、当然のようにししょーを助けに来る楊セン氏。
知り合いってわけじゃなさそうだけど、楊セン氏は実はししょーのことよく知っていそう。
というわけで、例の泉にちょっと乱入してもらいました。

脅かす目的で変化したので、二足歩行の超怪しいパンダ。
仙界って色んなのがいるんだなぁと疑いもしないししょー。
何気なく混ざってた天化さん……(笑)
(深読みできなかった人向けに、小話を書いていたいのですが、ちと行方不明。今度思い出して書き直します)

「痛いの痛いの……」は、迷子さんのサイトに行かれている方は気づいたと思いますが、日記のマンガからヒントいただきました。
使用を快く許可してくださった迷子さん、本当に感謝いたします。
ヒントになった迷子さんのえにっきの作品。(戻りはbackボタンで)

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