「石の賢者」


その日も西岐軍は賑やかだった。
李親子のケンカも佳境に入っている。

「食らえ、火焔槍!」
「ひえええ、玲瓏塔!」
「那咤、やめなさい! 遁竜椿!」
「那咤、いい加減に! 呉鉤剣!」

どかーんと、特大宝貝技が本陣近くに落ちた。

あわてて本陣から転がり出てきた太公望が、被害を確認する。
そして、崩壊したある天幕の前で固まった。

「「ちゃんと謝りなさい、那咤!」」
「ちぇ、オレだけかよ〜。……悪かったぜ、天幕壊してよう。……おい、大将?」

まだ固まっている太公望の視線の先を見て、李一家も固まる。
その天幕は食料庫であった。
そこには、竜吉公主のお気に入りの漬物樽があった。
それは倒れただけで済んだようだが、その上に乗っていた石が落下していた。

人の形をした大きな石。
いや、人の形をしていた……石。

「首が……とれてる……」
どうしよう、これ。
ひょいと顔の形をした固まりを拾い上げた那咤に、金咤木咤兄弟が悲鳴をあげる。
「「い、い、韋護殿ーっ!」」
その騒ぎを遠くに聞きながら、太公望はひっくり返っていた。

 * * *

「米糊でつかねぇかな」
「太乙樣に相談したらどうだろう?」
「それより、いっそ元始天尊樣に……」

「何事だ?」
「「天化殿!」」

修行から戻ってきた天化は、那咤につきつけられた石にぎょっとする。
うなされていた太公望が、ようやく起きて涙目で相談した。
「天化ぁ、どうしよう……」
「どうしようって、こりゃあ……」
手にした「頭」と転がっている「身体」を見比べて、肩をすくめる。
「元に戻す方法があったとしても、このままやったらスプラッタだな」
その光景を想像してしまい、再びひっくり返る大将。

その時だった。
「どうした?」
誰かが天幕の外から声をかけてきた。
「いやー、韋護の首が取れちまってさ」
「「那咤!」」
「ふむ」

入ってきた者が、その「頭」を受けとって眺める。
どうしよう、どうしようと悩み続ける金咤木咤。
まだうなされている太公望。
何故かニヤニヤしている天化。

「―――?」

その人物が、ひょいと樽の上に乗った時、ようやく面々は何かおかしいことに気付いた。
「韋護……殿?」
当の本人は何事もなかったかのように、樽の上に鎮座ましている。

「天化っ、これどういうことさ!」
飛び起きた太公望に詰め寄られ、とうとう笑い出す天化。

「昨日、韋護の代わりの石を探しに行ったら大きい岩塊しかなくてよ。そのまま持ってきたら、韋護の奴が自分の姿を彫刻したんだ。で、そのまま載せておいた」
「「それじゃ、あれはただの石……」」
「なんでぇ、つまんねぇの」
「天化、知っててあんなことを……!」
「いや、面白いもん見せてもらったぜ」

本日も、西岐軍の漬物は、よい出来だったらしい。

END


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