「ケンカ封じの符印」


「「太公望殿! 那咤と天化殿がケンカを……」」
天幕に駆け込んできた金咤木咤兄弟が訴えた。
那咤と父のケンカであれば二人でなんとか止められるが、相手が天化となると、そうもいかない。
共に西岐軍トップクラスの実力者の上に、各種攻撃宝貝の使い手ときている。
下手に仲裁に入って、技を乱発されては困る。
「また?」
うんざりした顔で、新しい符印のチェックをしていた太公望が振り返った。
「うちの火属性たちの血の気の多さはなんとかならないかな」
「今のうちに止めておかないと」
「もう一人加わったら大変なことに」
ねぇ、と顔を見合わせる金咤木咤。
誰のことを言っているかは聞かずとも分かる。
もう一人の火属性。買い物に街へ出かけている嬋玉が帰ってきて、騒ぎに加わったら、被害はさらに大きくなる。
さーっと青ざめた後、太公望が深くため息をついた。
「うーん、何か那咤と天化をおとなしくさせる方法はないかなぁ」
とりあえず被害を食い止めるための宝貝を手にし、太公望は天幕を出た。

* * *

「火尖槍!」
「朱雀!」
兄弟(もどき)ケンカも佳境に入っているようだ。
周りの者たちも慣れたもので、大事なものは避難させてある。
しかし、本気で大技を繰り出されたら、どんな被害がでるか分かったものではない。
「那咤、天化、いいかげんにしろ!」
大将の叫びにも、那咤と天化は振り向きもしない。
「うるせぇ、邪魔すんな!」
「怪我したくなかったら、ひっこんでろ!」
怒鳴り返されて、さすがの太公望もむっとする。
「梱仙縄! 縛竜索!」
問答無用で放たれた宝貝は、容赦なく二人を縛り上げる。
互いに正面しか見ていなかった二人は、予想外の介入にあっさり縄を受けた。
「うおっ!?」
「ずりーぞこら、放しやがれーーーっ」
「まったくもう、君たちときたら……」
くどくどと説教を始めた太公望は、手にした符印を扇子代わりに、肩でとんとん叩いている。
その後ろに、野次馬根性で覗いていた竜鬚虎の口があった。
目の前でひらひらしている呪符に、鼻をひくつかせている。
「……なぁ、大将」
「竜鬚虎が符印食ってるぜ?」
「あああっ!?」
振り返った太公望が、派手に叫ぶ。
山羊よろしく竜鬚虎がもしゃもしゃ符印をかじっていた。
「大変だ! 今のは、火術に反応して爆発するものなんだ!」
太公望の悲鳴に、竜鬚虎が目をむく。
「ひん!?」
「火術って……」
「俺たちの宝貝とか、剣術かよ」
「使ったらどうなるんだ?」
「それは、やっぱり……お腹の中で、どかん?」
ぱ、と手を開いてみせる太公望。
ひんひんと泣き喚く竜鬚虎。
那咤と天化は縄を解かれた後、決まり悪げに顔を見合わせ、ぶつくさ言いながらも、武器を納めた。

* * *

翌日の戦いは乱戦になった。
先陣を切っていた那咤と天化は、雑魚敵に取り囲まれて苛ついていた。
「めんどくせえ、朱雀!」
「火尖槍ーーーっ!」
必殺の攻撃をしかけた時、群がる敵の間から聞き覚えのある声が響いた。
「ひん!?」
「「げっ、なんでいるんだ、ラクダ!!!」」
叫んだものの、もう遅い。
竜鬚虎が、まともに火の渦に巻き込まれた。
「やべっ!」
「……死んだかっ!?」
慌てて駆けつけてみると、火炎と砂埃の中から、見覚えのある姿が現れた。
「ひん?」
ところどころ焼け焦げてはいるが、爆発した様子はない。
ほっとしたものの、じわじわと怒りがこみ上げてくる。
「あの野郎!」
「だましやがったなぁ!?」
運良く炎の攻撃から逃れた雑魚敵たちは、那咤と天化の八つ当たりの犠牲になった。
後には竜鬚虎も転がっていたらしい。

* * *

陣に戻るなり、怒鳴り込んできた那咤と天化に、太公望がとぼける。
「消化されちゃったんじゃないか? よかったよかった」
しゃあしゃあと言ってのける大将にしばらく喚き散らしていた二人は、ようやくケンカ相手に向き直った。
「まぁいい、これで心おきなく決着がつけられるってことだ」
「おう、望むところだ、かかってきやがれ!」
那咤と天化が互いの武器を構えたところで、後ろから太公望が声をかけた。
「ひひん」
硬直する二人。
「がー! その声止めろーーーっ」
「いかん、条件反射でやる気が失せる……」
予想通りの反応に、太公望がにっこりしたのは言うまでもない。

その後しばらく、那咤と天化のケンカは、竜鬚虎の鳴(泣)き真似をすると止めることができたそうな。

END


――副題:パブロフの犬

単純な人にほど有効です(笑)。


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