「霊帝の呪い」
「おのれ、人間どもめ……
もやのように混沌となってしまった世界の中、意識だけ漂いながら霊帝は呟いた。
自分たちの存在そのものである異界において、彼らに死と言う概念はない。
ただ、人間たちの思わぬ「力」によって、存在が分散し、形を保つのが難しくなった。
これから先何百年か、何千年後か、再び姿を形作るだけの「力」を取り戻すまで眠ることになる。
だが……眠りに入るその前に、これだけは。
「思い知るがいい……!」
力を持つ言霊が、この世界から出ようとしている人間たちの一部に届いた。
* * *
はじき出されるように降り立った場所は、異界に入るための絶界陣であった。
「……早速来やがったな」
人の気配を嗅ぎつけた蛮獣が集まってきている。
ムレスズメやらカマムカデやら、雑魚ばかりだ。
これなら自分で片付けるだろうと思っていたのだが、ぺたんと座り込んでいる太公望は動く気配がない。
とびかかったムレスズメを焼き鳥にし、天化は叫んだ。
「……っぶねぇな! 何ぼさっとしてんだ!」
「天化! 格好いーい♪」
「……は?」
ぱちぱちと拍手され、天化は言葉を失った。
からかっているのか? バカにしてるのか?
何か怒らせるようなことでもしたっけか?
判断に迷っているうちに、太公望は背後を振り返り、にっこり笑った。
「新しい敵だ。……どっちが先に攻撃できるか競争ね☆」
「ね☆……って、おいこら、一人で敵に突っ込むな!!」
本当に言葉通り、敵の中に飛び込んでいくのを慌てて追う。
元々見かけによらず好戦的な性格ではあるが、合間のセリフはどういうことだ?
戦っている間の動作も、まるで子供が遊んでいるかのような……。
蛮獣を一通り片付けおえた時、聞きなれた声が呼びかけてきた。
「よう、天化」
「……子牙か」
「どうしたんだ、なんか疲れてんじゃん」
「どうもこうも……太公望がおかしい」
「それは見れば分かるけどさ」
子牙の視線の先には太公望がいる。
上機嫌で天化の腕にしがみつき、ごろごろと喉を鳴らさんばかりになついている。
――確かに見れば分かる。
「やっぱりね」
「やっぱりって、子牙、お前心当たりでもあるのか?」
「いや、霊帝界から出た後から、花鈴も様子がおかしくてさ」
「それって……」
ひょこ、と子牙の後ろから見慣れた小さな少女が顔を出した。
倒された蛮獣の群れを眺めて、にっこりと笑う。
「やぁ、天化。今日も絶好調だな。一騎当千、国士無双、猪突猛進……ん、最後のはちょっと違うか」
可愛らしい声で小難しいことを言ったのは、他でもない花鈴である。
「この口調は……太公望か」
「な?」
どうしよう、と両手を広げて見せる子牙。
「霊帝界から出たってのに、何また入れ替わってんだよ、お前ら!」
天化の声に、太公望と花鈴が顔を見合わせ、くすくすと笑い出す。
「しらなーい☆」
「我々のせいではないよ、不慮の事故というものだ」
起こってしまったことは仕方がない、と言いたげな二人の言葉。
妙な順応力の高さは、似ているらしい。
「おい、子牙。……嬋玉に気づかれる前になんとかするぞ!」
「なんとかって言っても、天化が太公望と離れておくくらいしか、方法ないんでないか?」
たまに超現実的な子牙の、ごもっともな返答であった。
* * *
「子牙、花鈴はどうしてる?」
「ん? 相変わらず、ちょっとズレた格言暴発させてるよ。性格が変わっても、知識は本人のままなんだな、アレ。面白いぜ」
「面白がってる場合か。あの世界では霊帝を倒したら治っただろうが。霊帝界から出たのに治らないってことは、ずっとこのままかもしれねぇんだぞ」
「うん、それは分かってんだけどさ」
一応困ったような顔をしながら、子牙はちょっと嬉しそうだ。
「ちょっとインテリっぽいところはあるけど、気が利くし、奥ゆかしいっつーの? ちょっといいかもとかなんとか……」
いつになく饒舌なのは照れ隠しなのか。
子牙は『今の花鈴』を気に入ってしまったらしい。
そこに、ひょこっと花鈴が顔を出した。
いつもであれば、抱きついて子牙を困らせるところを、小首をかしげてにこりと笑う。
「子牙、夕食だよ」
「おう、今行く!」
「好きなキノコ取り分けておいたからね」
「さんきゅ!」
寄り添って歩いていく様子は、どちらかというと子牙の方が積極的に見える。
「……もしかして、子牙の側からラブラブモード(友好度MAX)?」
呆然と見送る天化。
そこに、もう一人ラブラブモードが現れた。
「あ、天化、いたいたー」
ぱたぱたと駆けつけて、背後から抱きつく。
「もー、置いてかないでよぅっ!」
「あのなぁ」
手荒くならないように気をつけながら、なんとか振りほどいて怒鳴る。。
「少しは元に戻ろうという努力してみろよ!」
その言葉に、極上の笑顔だった顔がたちまち表情が曇り、大きな目にじわ〜っと涙が浮かんだ。
「おいこら、泣くなっ!」
「だ……って、天化に嫌わ……れ……」
「嫌ってなんかいないから! 泣くな!」
「ほんとに?」
「ああ」
なんで、同い年のいい大人と、こんな子供のケンカみたいなやりとりをしないといけないのやら。
「よかったぁ」
屈託のない笑顔を前にするとため息も出ない。
裏も表もない好意を向けられて、悪い気がするはずもない。
花鈴と入れ替わっているせいで極端になっているとしても、その分、行動の基本になっている「好き」は紛れもなく本音であるはずだ。
「天化、だーい好き」
改めてぱふっと抱きついて、幸せそうに笑う。
甘い声でなつかれては、理性も吹っ飛ぼうと言うもの。
この笑顔に逆らえる人間がいるだろうか?(反語)
「……とりあえず、嬋玉に見つからないところへ行くか」
「? うん」
頬に触れた手に、太公望はくすぐったそうにうなずいた。
* * *
入れ替わりの結末は、意外とあっけなかった。
「おはよう」
朝の挨拶は、そっけなく聞こえるほど、落ち着いた声。
「おう……ってお前、元に戻ったのか?」
「うん」
「なんでまた急に……」
「昨日夢で霊帝が出てきてね。『喜ばれては呪いにならん!』ってカンカンに怒ってた」
「なるほどな……」
異界の混沌とした空間で、霊帝が半泣きで捨てゼリフを喚いている様子が目に浮かぶ。
「今日は幽陵まで行くよ。早く支度して」
「了解」
いつも通りの隙のない後姿を見送る。
戻ったことにほっとしながらも、あの天真爛漫な笑顔を思い出し、ちょっとだけ惜しかったなと考えていたのは内緒である。
END
花鈴の友好度MAX評価の「未来のだんな様」。
コレ入れたかったんですけど、よく考えたらセリフじゃなかった。残念。
「封神2」の性格入れ替えイベントは、本当は実にびみょー。
性格が変わったなら好みも違ってるはずで、本来は天化と代わった嬋玉が、太公望を好きなままでいるのは変。
好みはそのままで、口調や態度だけが変わったってことなんですよね。
戦闘時、太公望が「天化、格好いい☆ ひゅーひゅーv」と言うたびに、天化さんは空振りしてたり。
敵につっこんでいく太公望が気になって、自分が攻撃食らってたり。
――楽しそうな雑魚戦です。
(楽しそうなのは太公望ですが)
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