「霊芝」
「星辰さまぁ」
「大変でする〜」
年に一度の大掃除の日。
部屋の掃除に回っていたはずの子狐の化身たちが、大騒ぎで駆けつけてきた。
主のお茶の用意をしていた青年が、静かに問いかける。
「どうした?」
「マオルさまのお部屋が」
「キノコに占領されました〜」
お茶を注ぐ手が止まる。
続きを子狐たちに頼み、彼はその部屋に向かった。
* * *
「炳霊公様」
「どーぞ入れなのにゃ〜」
主の部屋に声をかけると、半分寝ているような呑気な返事があった。
かいがいしくお茶のおかわり、お菓子の用意とうろうろしている子狐たちに囲まれて、主の炳霊公と、猫娘が机を挟んでいた。
猫娘は、またたび入りのお茶を前に上機嫌である。
「マオル!」
主の前であったが、厳しく名を呼ぶ。
細い目が、何よ、と睨み返した。
「なんだ、あの部屋は! ズボラにもほどがあるだろう!」
目をそらすマオル。
「気が利かないわねぇ、風通しくらいしといてくれりゃいいのにさ」
その言葉に、子狐たちが恐る恐る抗議する。
「昨年、勝手に部屋に入るなって怒ったのはマオルさまです〜」
「あ、あら、そうだったかしら。おほほ」
「おほほじゃない! この蓬莱宮にキノコだらけの部屋があっていいとでも思ってるのか!?」
「面倒くさいにゃあ……」
どうやら、自分の部屋は覗くだけ覗いたものの、手がつけられないと判断してここに逃げ込んだらしい。
「マオル、たまにでも帰ってくるつもりがあるのなら、自分の寝る場所くらい綺麗にしとけ」
「はぁい」
炳霊公にも叱られて、しぶしぶながら席を立つ。
途中で子狐を両手に捕まえているあたり、手伝わせるつもり満々である。
その時、もう一匹の子狐が飛び込んできた。
「星辰さま、星辰さま、お客様でする」
一生懸命に報告している子狐。
星辰は、うんざりした顔をしている。
「どうした?」
「人間がたどり着いたそうです」
「ほう、普通の人間がよくここまで。何の用だって?」
「どうせまた、不老不死の薬とやらを求めに来たのでしょう。今の皇帝が命じているようで、最近急に増えているのです。そう簡単にこの神界へたどり着ける者などいないはずですが、数撃てば当たるという感じですね」
「不老不死の薬ねぇ……」
「ここまで来たことに敬意を表して、普段は少し質のよい酒でも持たせて返すのですが……」
少し考えて、星辰が、ぽん、と手を打った。
「マオル、部屋の片付けはしばらく待ちたまえ」
「にゃ?」
子狐たちが、星辰の指示を聞いて飛び出していった。
* * *
数刻後。
白の潔斎服を着て、いつも以上に大真面目に澄ました星辰が、蓬莱の宮へたどり着いた人間を案内していた。
もう老齢に近い学者風の男は、白亜の宮を見回してため息をつくばかり。
そして。
「ここが、霊薬の間です」
「おお」
入った男は、部屋を埋め尽くした白に驚嘆の目を向ける。
わずかに動いた空気に、金色の胞子が舞い、幻想的に輝いた。
「好きなだけお持ちになるといい。人間界に戻ったとき、効果が持続するかは分かりませんので、なるべく多い方がよいでしょう」
「あ、ありがとうございます!」
ぺこぺことお辞儀をし、必死になってキノコを摘み取っている人間を部屋に残し、澄ました顔で星辰は主の部屋に戻る。
ぱたん、と扉が閉まった。
爆笑が部屋に木霊した。
「にゃっはははは、この古ギツネ、やるじゃない!」
「星辰……よくもまぁ、顔色一つ変えずにそういうことを……」
遠鏡で様子を見ていた炳霊公とマオルに、星辰はさらりと言ってのける。
「この神界で育ったものですから、少なからず霊力を含んでいます。嘘じゃありません。一石二鳥ということで」
何事もなかったかのように、新しいお茶の用意にかかる。
肩についていた金色の胞子に気づき、星辰は眉をひそめて狐火で焼いた。
* * *
その後。
人間界に持ち帰られたキノコのうち、なんとか霊力を留めたものがあった。
のちにそれは「霊芝」と呼ばれるようになり、さまざまな効能を秘めた妙薬と記されるようになったそうである。
END
着々と動物王国と化している蓬莱の宮です。
前からちらほら登場していた子狐たちは、星辰と同郷で、修行のため蓬莱宮でお仕えしています。
若葉(わかば)
青葉(あおば)
紅葉(もみじ)
朽葉(くちは)
と言います。
マオルの部屋は想像にお任せします。
私も部屋片付けにゃ……(汗)。
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