その占い、百発百中
その日、竜鬚虎と土行孫はちょっとしたスターだった。
さぼってないで修行にでも行って来いと大将に追い出された後、感心にもきちんと道行天尊の元へ行った二人は、なにやら怪しげな箱を土産に持って帰ってきたのだった。
どうやら、その箱はおみくじのようなものらしい。
道行天尊の宝貝なのか?
それとも、二人は本当に、占いの力を得てきたのだろうか?
最初のうちこそ、素人のお遊びだろうと放置していた太公望であったが、天化と楊センまでが、少々ひきつった顔で「当たった」と報告するに至って、真相を確かめようという気になった。
陣営の中に、朝まではなかった趣味の悪い色使いの屋台が出ていた。
「ぼくも占ってくれるかい?」
「おお、大将!」
「一占い、仙桃一個でっせー」
「……商売してるのか……」
仕方がない。
あとで渡すことを約束して、一占頼む。
「へあいじぇま はせへうんば こうげくぁがい てじゃめしん!」
怪しげな呪文に怪しげな身振り手振り。
振りかざされた箱から、ころんと木片が飛び出してきた。
「……出ましたで!」
「大将殿の運勢は……」
雰囲気につられて、息を飲む太公望。
書かれていた文字は……
「「女難!」」
「じょ、女難?」
「気をつけろよ、これは当たるからな〜」
「毎度〜」
追い出されるように屋台から出た太公望に、待ち構えていたようなタイミングで少女たちが飛びついてきた。
「太公望さん! 占ってもらったの?」
「ししょー、どうだった? どうだった??」
いつも以上のハイテンションの乙女たちに、太公望は絶句し、脱出経路を探す。
……確かに占いは当たったとしか思えなかった……。
* * *
「どうだった?」
「どうでした?」
大将の天幕で、天化と楊センが、茶を飲んでいた。
なんとか二人をまいてきた太公望は、ぜいぜいと息を整えている。
「う、うん。当たっちゃった……かな……」
「あんたもかよ」
「本当に道行天尊様からなんらかの力をいただいてきたのでしょうか……」
それならそれで、頼もしい能力を持った仲間が増えたと思えばよいのだが。
……あの二人となると、素直に信じる気になれない。
お茶で一息つき、太公望はたずねた。
「ところで天化、楊センさん。占いはなんて出ました?」
「「女難」」
声がそろって、ん? と顔を見合わせる二人に、太公望が眉をひそめる。
「ぼくも女難って言われたよ。もしかして……」
二人を連れて、例の怪しい屋台へ戻る。
「竜鬚虎、土行孫。その箱を見せてくれるかな?」
「げ、大将!」
「天化はんまで……い、いや、これは〜」
太公望がにっこりと微笑む。
後ずさりする二人の背後には、すでに楊センが立っていた。
ひょいと、二人から占いの箱を取り上げる。
「「ああああああっ!」」
「楊センさん、その箱に何か書いてありませんか?」
「ありますね。……男 女 子供……? それぞれに細い紐がついているようです」
「中身は木片三つだね」
「ええ、そのようです」
カラカラと箱を振って、うなずく楊セン。
「おい楊セン、それ、投げろ」
「ああーっ、やめてくれぇーっ」
「堪忍や、天化はん〜っ!」
二人の叫びが消えないうちに、中空に投げられた箱が銀のきらめきに包まれた。
そして剣を鞘に納める音の後……ばらばらの木片になって、床に落ちた。
ちょん、と座り込んで、その中から転がり出た木片を拾い、読み上げる太公望。
「えー何々。男性用=身近に女性がいる場合は、『女難』。いない場合は『水難』。女性用=押して押して押しまくれば思いは叶う。子供用=新しい武器の稽古をすると上達する。……これだけしか回答ないわけか」
「ああああ、バレてもた〜」
「あと二日くらいは稼げると思ったのによ〜」
「ほほう?」
はっと我に返った竜鬚虎と土行孫に、大将が通常より5割増しの笑顔を向ける。
「二人とも……修行し直してこい!!」
大将の怒りの声と共に、簡易製作の屋台はあっけなく崩壊したのだった。
* * *
「水難ってどうするつもりだったんだろう」
「箱の中に、湧水符がありましたよ」
「せこすぎる……」
天幕に入ろうとした太公望が、いきなりピタリ、と立ち止まった。
「どうした?」
「どうされました……」
じりじりと後ずさり始めた太公望に、二人も察して逃亡の体勢になり始める。
そして。
「ししょー! 差し入れもってきたよー」
「楊センさまぁ、お買い物につきあってくださいませ〜」
「ちょっと天化、なんであんたまでここにいるのよ!」
入口の布を跳ね除けて、中から華やかな女性陣が飛び出してきた。
すでに後も見ずに走り出している男性陣。
騒ぎのはずみで落とした湧水符が暴発し、陣営を水浸しにしてしまった。
占いはかなり当たっていたようである。
END
おまけ
道行天尊「ん? 大将たちの運勢はインチキじゃない。あれはワシが占ったんだ。今日も明日も明後日も、彼らには女難の卦が出てたな。若いもんはいいのう、ほっほっほ」
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