闘茶


入れたばかりのお茶の涼しげな香りが広間を満たしている。
大きな机にずらりと並んだ湯呑みに、宮の主が目を丸くする。
「何事だ?」
最後の湯飲みへ、急須の雫を落とした後、星辰が振り返った。
「丁度お呼びしようと思っていたところです。故郷の杜で新茶が奉納されていましたので、皆様がお集まりの機会に、闘茶でも行ってみようかと」
「闘茶……」
星辰の説明に、中空を見上げて呟く姜公。
「茶の木が闘うわけじゃねーぞ」
すかさず突っ込む炳霊公。
沈黙したところをみると、姜公の頭に浮かんでいたのは本当に茶の木が枝で殴り合っている図だったのかもしれない。
「飲み比べて、どれが美味しいか決めるんだね」
「茶園の順位づけというわけか。面白いな」
茶園ごとに湯飲みを分けてあるらしく、十種の模様が整然と並んでいる。
「もちろん、最終的には味だけではなく、作り主の品性も含めて評価するわけですが……って聞いてませんね」
なんだなんだと集まってきた神様たちは、詳しい説明も聞かずに、さっさと並んだ湯飲みに手を出している。
これは渋すぎる、それは薄すぎる、あれは香りがないと、一騒ぎ。
「皆さん、決まりましたか?」
星辰の問いに、一斉に湯のみが上げられた。
見事に同じ湯のみだった。
「さっぱりしてて、これが一番美味い」
「優しい味と香りだよね」
「なんか懐かしい味なんだよなー」
順位の集計を取りながら、星辰が心の中でうなずく。
(さすが神と呼ばれる方々。作り手の人間性まで察しておられる)
神々に献上される茶は、選ばれると高値がつくために、大地主たちによる権力争いの様相がある。
年々、茶の質はよくとも、奉納する人間達の質が落ちているのが現状であった。
そんな中、山奥で質素な暮らしをしている家族が、ささやかな量だけ作っている茶があった。
金儲けのためでなく、家族が飲む分だけ、大切に作り上げる。
今年も無事に作れたことの感謝を込めて、神々にもおすそ分けをする。
そんな純朴な思いがこもった茶であった。
もしも神将たちに選ばれなくても、地神の一人として特別に取り立てるつもりであった。
湯飲みを片付けている星辰や仔狐たちの傍らで、神将たちはお茶菓子をつまみながら昔話に花を咲かせている。
「修行時代は、茶どころかまともな食料もなくて、食える野草や果物探すのに必死だったぜ」
子供時代に舌が肥えていたために、辛い思いをしたらしい天化。
「そうそう。お師匠様たちは自分たちが霞で生きてるものだから、弟子のぼくらの食事なんてぴんとこないんだよね」
一番偉い仙人の弟子になったため、普通の食べ物に苦労したらしい太公望。
「素朴な味…懐かしい」
お茶を飲んで幸せそうな韋護。
全員、注ぎなおした茶をすすって、満足げな溜息。

(なんだか、ご隠居さんたちの寄り合いみたい)
(だめだよ、思っても言っちゃいけないよ)
ぼそぼそと囁き交わす仔狐の化身たち。

(単に、高級茶が合わない貧乏舌だったらどうしよう)
見事なほど値段の逆順に並べられた湯飲みを眺めて、星辰がそう考えたのは内緒である。


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