鬼やらい
その日、蓬莱宮はにぎやかだった。
「おにはーそと、ふくはーうち!」
ぱたぱたと小さな足音が宮中を走り回っている。
「何の騒ぎだ?」
炳霊公に、仔狐の化身たちが我先に小さな枡を見せた。
「日本では、鬼やらいで豆を撒くのだそうでする」
「ぼくたちもやるです」
「でも、ここには鬼さんがいないです」
残念そうにしょんぼりとする仔狐たち。
「鬼ねぇ、鬼……!」
考えていた炳霊公が、にやりとした。
「そういえば、今日は鬼がくる日だ。お前たち、気合い入れて追い払うんだぞ」
「鬼が来るですか!」
「がんばりまする!」
* * *
「……来たぞ」
ぎぎぎぎぃぃぃ、ばたん。
ホラー映画よろしく、重々しく開かれる扉。
入ってきた大きな男に、一斉に仔狐たちが豆を投げつける。
「おにはーそとー!!」
「うお!? こ、こら、何をするか……いてててて! こりゃたまらん!」
逃げ出していくのを、追いかけてゆく仔狐たち。
その様子を、げらげら笑いながら見送る炳霊公。
隣で姜公があきれたように睨む。
「……天化。そういうことばかりしているから、黄飛虎殿と仲が悪くなるんじゃないか」
「まぁ、細かいことは気にするな」
その後、東岳大帝配下の極卒が大挙して押しかけ、神 VS 鬼の大規模な軍事演習と化し、文字通り追儺(ついな)(鬼を追い払う儀式)となったのだった。
もちろん、トリの演目は、炳霊公と東岳大帝による一騎討ちだったことは言うまでもない。
* * *
鬼やらいから戻って来た仔狐たちは、それぞれ、超特大の枡(ます)を抱えていた。
「何だい、その枡は」
尋ねる姜公に、仔狐たちが無邪気に答える。
「節分には、無病息災を願って」
「齢の数だけ豆を食べるんだそうでする」
「みなさん、おいくつですか?」
蓬莱宮の空気が 凍 り つ い た。
* * *
その夜、蓬莱宮の一番大きな神木に、仔狐の化身たちが吊るされていた。
その傍らには、「見せしめ」と言わんばかりの、猫の爪あとが残されていたらしい。
【追儺(ついな)】
悪鬼・疫癘(えきれい)を追い払う行事。平安時代、宮中において大晦日に盛大に行われ、その後、諸国の社寺でも行われるようになった。古く中国に始まり、日本へは文武天皇の頃に伝わったという。節分に除災招福のため豆を撒く行事は、追儺の変形したもの。鬼やらい。[季]冬。
追記:
「蓬莱宮の扉にサビなどありません。勝手な効果音をつけないように」
との苦情がありました。
謹んで訂正させていただきます。
TOP/小説/
西遊記編