魂換肆(四)


天井がひどく高く見えた。
(今度は誰だよ、おい)
また誰かと入れ替わったと気付いて、毒づく天化。
人間慣れれば慣れるもの。
四度目ともなれば、一日我慢すれば直る風邪程度のような気がしてきた。
眺めた手は小さい。周りの物が少しずつ大きく見える。
……いや、自分が小さいのだ。
隣に目をやると、「自分」が寝ていた。
なるほど、今回は天祥か。
だんだん術の横すべり(?)の距離が短くなっているようだ。
これで終わりであることを祈ろう。
「わぁ、なんです、これ!?」
目覚めた天祥はさすがに驚いていたが、一連の事態を知っていたこともあり、直に目線が高いことを楽しみ始めていた。
「なんだか嬉しいな。ぼく、やってみたいことがあったんです」
天祥なら心配あるまいと思っていたのだが、このセリフに何かヒヤリとするものを感じた。
「ぼく」という一人称も不気味だが、人の身体で何をするつもりだ。
「それじゃ、今日一日がんばりましょう!」
「お、おう……」
天化の返事に力がなかったとしても、それは仕方あるまい。

   * * *

つかず離れず眺めていたが、特に心配したような事態は起こらなかった。
それどころか、さすがは天祥というべきか、口調も態度もそれらしく切替えており、誰一人気付いていないようだ。
敵との小競り合いが続いていたことも幸いしていた。
これなら、何事もなく一日経過するのではないか?
「ありがとう」
危ないところを天化(中身は天祥)の朱雀剣に救われた太公望が、いつもの笑顔で礼を言っている。
なるほど、後ろから自分たちは、あんな風に見えているのか。
面映い思いで眺めていたところを、敵に狙われた。
倒したものの、うっかり軽い傷を負ってしまった。
太公望が慌てて駆けつけてくる。
「これで大丈夫」
見事な回復術の後、首をかしげてニッコリ。
いつも天祥や雷震子に向けているのを傍らで見てはいたが、自分が正面から見るのは初めてだった。
回復術と一緒に、幻惑術を食らったような気がした。

     * * * 

本陣に戻る道すがら、天化はこっそりと天祥に尋ねた。
「天祥、お前がやりたかったことってなんだったんだ?」
「僕はいつも兄上や太公望さんに守ってもらってばかりだから、僕が守ってみたかったんです!」
なるほど、天祥らしい願いだ。
「それでですね、兄上」
照れくさそうに天祥が言う。
「僕、もう少しこのままでいたいんですけど……」
どうやら、前線で戦い、味方を守れる立場に味をしめたらしい。
天化はといえば、自分の身体に戻ったらまず見ることのできなさそうな、「これで大丈夫」をもう一回見てみたかった。
……とは、とても言えないが。
「符印使って、効果を長引かせるか」
「できるんですか?」
ぼそぼそと密談していると、
「あ。そうだ、天化、天祥」
くるりと振り返った太公望が、それぞれの顔を見ながら名前を呼んだ。
……バレてるし。
こぼれるような笑顔で、大将が言った。

「面白いけど、やっぱり不気味だから、二人とも早く元に戻ってくれ」

珍しく合意の上の魂換は、あっさりとダメ出しを食らったのだった。

END



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