敬称の使い方 地の五行篇
「悟浄さん、大丈夫ですかっ!」
火焔山の暑さに耐えかねて、膝をついた悟浄に三蔵が駆け寄る。
「ああ、大丈夫だ。…しかし、なんて暑さだ…」
水の妖怪となっている悟浄は、属性の上では火に強いが、元は人間だ。限度というものがある。
心配そうに仲間たちが見守る中、一人暑さをものともせぬ妖怪が喚いた。
「なんで悟浄だけさんづけなんだよ?」
時折、妙なところでこだわる悟空であった。
というか、この状況で言うのはそれなのか。
「なんでって……なんとなく一番年上みたいな気がするし」
「ばっか野郎、悟浄は妖怪の中じゃ一番若造だっての!」
悟空の指摘に、全員が(精神年齢だろう)と心の中で突っ込みを入れる。
「なによ、悟空も三蔵に、「さん」づけで呼んで欲しいわけ?」
にやにやしながらからかう涼鈴に、悟空がまた喚く。
「じょ、冗談じゃねぇ、気色悪ぃっ!」
悟浄が、やれやれとため息をつく。
ケンカなどしては、ただでさえ暑いのがさらに暑く感じて敵わない。
……と判断して、妥協案を出した。
「三蔵、俺も呼び捨ての方が気楽で助かる」
「そ、そうですか? それじゃ悟浄……なんか照れるなぁ」
「さっさと行くぞ、てめえら!!!」
うがーーーっとばかりに邪魔をする、最年長のくせに一番お子様の悟空である。
その後、鬼神のヤクシャが現れたものの、機嫌の悪かった悟空があっさり撃退し、見事神将の那咤太子を迎えることができた。
ようやく暑い場所から出られる、と全員がほっとしているのに、まだ悟空はごねている。
戦闘中やその後に、まだ三蔵が悟浄のことをさんづけしていたことが気に入らないのだ。ぶつくさ言い続ける悟空と、暑さにぷちっと切れた三蔵が叫んだ。
「いい加減にしなさい、悟空さん!」
その一声に、悟空が凍りついた。
「さ、三蔵……その呼び方はちょっと……」
「何か言いましたか、悟空さん」
満面の笑顔が恐ろしい。
その後。
三蔵による悟空のさんづけは、観音にさずけられた緊箍呪などよりも、ずっと威力を発揮したらしい。
終わり
緊箍呪(きんこじゅ):
悟空の頭の輪、 緊箍児(きんこじ)を締めるお経。
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神界・西遊記編