敬称の使い方 天の五行篇


三蔵が持つ錫杖では、雷帝が加わってからと言うものの、出番の回数が減った神将たちが暇を持て余していたりする。
放置すると、すぐに血の気の多い那咤と炳霊公がケンカになる。
天界に入って以来、具現化しやすくなっているせいか、半実体となって錫杖から飛び出すことも珍しくなくなっていた。
人間と妖怪たちは、ああまたか、と呑気にお弁当を食べながら観戦の構えである。
今日は、どうやら神将の持つ支援能力についてらしい。
「三蔵に渡せる力が防御だけだなんて、炳霊公も落ちたもんだよな」
「ああ? 攻撃バカが何言ってやがる」
「へっ、攻撃力が高ければ、敵を蹴散らせるぜ!」
「防御が高ければ、その分、反撃できるだろう!」
「君たち、いいかげんに……」
おずおずと止めようとした姜公に、二人の神将が勢いのまま叫ぶ。
「「役立たずはすっこんでろ!」」
役立たず呼ばわりに一瞬硬直したものの、姜公も伊達にあの西岐軍をまとめていたわけではない。
つかつかと歩み寄る。
「那咤殿、天化殿」
「な、なんだよ、そんな呼び方したって効かねぇぞ」
「人間の頃、散々やられたからな。いい加減慣れるさ」
どうやら神将たちも、悟空と同じく敬称攻撃を食らっていたようだ。
黙って聞いていた姜公であったが、不意に不敵に微笑んだ。
身構える二人に向かい、びしっと指を突きつける。
「いい加減にしなさい、那咤ちゃん! 天化ちゃん!」
神将二人が、ぽとりと武器を取り落とした。
やめてくれぇと喚く二人に姜公は容赦なく攻撃を続ける。

「…効いてますね、敬称呪」
「すでに言霊になってますわねぇ」
「聞中様は、どの呼び方がよろしいですの?」
「……今のままでよい……!」
のほほんと傍観者を決め込む、二郎真君と西王母。
悪気のない感応仙姑と、何気なく『聞中ちゃま』の危機に陥っている九天雷帝。

その手が残っていたか、と手を打つ三蔵の後ろで、悟空がこっそり逃げ出そうとしていたのは言うまでも無い。

終わり

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