小夜鳴き鳥の歌


「太公望殿、どうされました?」
宿帳の前で悩んでいる太公望に、楊センが声をかけた。
振り返った太公望は、困ったように苦笑している。
「今日の宿、四人部屋なんです。子牙に、部屋割を頼まれました」
「我々も大所帯になってきましたからね」
「女性三人とらいちゃんで一部屋なのは確定ですから、すぐ決まると思ったんですが……最後でちょっと迷っちゃって」
「ふむ。具体的には?」
「天化と那咤の配置」
「ああ、なるほど」
納得。
あの二人をどこに置くかで、その日の宿の損害が決まりそうだ。
その原因の一人が顔を出した。
「面倒くせーな、そんなの適当でいいじゃないか」
「あのね、君が一番やっかいなんだよ。那咤は君と一緒にしなければあまり問題ないけど、君は嬋玉がダメ、那咤がダメ、黄飛虎殿がダメ。大人げないったら」
「反省してます」
「棒読みで言われてもね」
ケンカ相手がもう一人増えそうな気配に、楊センが話を元に戻す。
「黄飛虎殿と聞仲殿はご一緒がよいでしょう。つもる話もあるでしょうし」
那咤の言動程度は聞仲ならさらりとかわしてくれるだろうし、那咤と黄飛虎がぶつかりそうになってもうまく仲裁してくれるに違いない。
「那咤は最近子牙と仲がいいみたいだから、一緒が良いかな」
「ということは、聞仲殿、黄飛虎殿、那咤君、子牙君」
「僕、楊セン殿、天化、海棠殿ですね」
「ま、いいんじゃねぇの?」
とりあえず、今日の悩み事は解決。
安心した笑顔で太公望は宿の主人を悩殺し、泊まる部屋を格上げしてもらった。

  ***

月の冷たい青白い光が、明かり取りの小窓から差し込んでいる。
照らされた顔は、いつもよりも白く、血の気がひいて見える。
だが息使いは安定していることに、ほっとする。
「そんなにご心配でしたら、昼間に本人に伝えればよろしいでしょう」
「柄じゃねぇんでな」
起きていたらしい楊センが、同様に太公望の顔を覗き込み、こちらも安堵のため息をついた。
太公望を仙界に連れて行った楊センは、最悪の状況だった時を知っている。
「順調に回復してるようですね」
「仙界ではどうだった?」
霊気を根こそぎ異界に奪われ、意識も混濁していた。
自分がいても、何もできない。
ならば、本人が言ったように、蛮獣を追うのが自分の役目。
そう思って、あえて仙界に行くこともせず、様子も聞かず、待ち続けていたが……。
気にならなかったと言えば、大嘘になる。
「気の回復は、本人次第ですからね。薬丹の処方は白鶴殿がされていましたから、私は彼が夢でうなされている時に、起こすくらいしかできませんでしたよ」
「そうか……」
他人を心配させまいと、調子が悪くても平静を保とうとする太公望が苦しみを隠さなかったとすれば、相当厳しい状態だったに違いない。
今、こうして静かに眠っているのを見られること。
まだまだ蛮獣や九竜派との戦いが続くとは言え、束の間の平穏を感謝するべきなのだろう。
「う……」
ふいに、太公望が小さく呻いた。
眉根を寄せ、辛そうな表情。
人界を襲う蛮獣と、蹂躙される人々の夢でも見ているのだろうか。
自分だけで悩みを抱え込んでしまうのが、この元大将の悪いところ。
少しくらい、周りの者にぶつけてもよいのに。
悪夢を見ている時、いきなり起こすのは良くないという。
声をかけたものか、二人がためらっていると……
「ううん……嬋玉、もう食べられないよ――」
すでに胃に来ているのか、太公望は身体を丸めている。額には油汗。
このまま放置したら、明日、気力体力を使い果たして寝込みそうだ。
「起こしましょう」
「おう」
やけに現実的な悪夢にうなされる太公望を起こすのは、結構時間がかかったらしい。

***

翌日海棠が、聞いていると鳥肌が立つような、恥ずかしい「麗しき友情」の歌を披露し始めたので、天化と楊センが頭を抱えていた。
その日から、部屋割で、海棠の押し付け合いが始まった。

おわり




子牙は「ゆけ!ゆけ!子牙!」を歌われちゃってますしね。
人のを聞くのは面白いけど、自分はネタにされたくない人たちによる押し付け合い。

ある意味、大どんでん返しで終わってしまった海棠さん。
弾き語りはまともなのに、詩のセンスはすさまじいものがあります。

私は、実は妻帯者でしかも奥さんは妖魔、生まれそうな半妖の子を救う術を捜している、とか。
太上老君が、人間界で活動するための仮の姿、とか。
色々考えて、いつ謎が明らかにされるのか、楽しみにしていたのですが……。
シナリオ書きさん、本当は何か設定を立てていたんだと信じてます。信じてますよ!



TOP/小説/封神演義2&バトル封神篇